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第11章 暗転
4.暗転
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目の前に倒れている看守の腰にあった剣を奪い取り、手にもっていたエラジーをリオンに返した。
重さがほとんど無い魔剣より、正直、普通の剣の方が手になじむ。
それにリオンにも、身を守るための武器が必要だ。
長い通路を歩きながら、出会う看守を次々と殺し、一人は捕らえてここの主の所に案内させた。
事務所のようなそこに飛び込むと、十数人の男たちが一斉に振り向いた。
大声を上げるもの、剣を抜いて向かってくるもの、様々だったが俺たちの敵ではない。
すべて殺して事務所にあるはずの、奴隷売買の契約書を探す。
これさえ破棄すれば、子供たちは奴隷の身から解放されるはず。
ありがたい事にそれはすぐに見つかった。
売買契約書のサイン欄には子供本人が書いたと思われる拙い字のサイン、それに親と思われる者のサインがしてあった。
さらに、その上にはこの国の検印も押してある。
他国が奴隷売買を認めているのは、元々知っていた。
でも『国の印』まで押してある書類を見た俺は衝撃を受けた。
国も奴隷を作る事を積極的に認めている。
あんな子供が地獄に堕ちるのを容認している。
俺はこの国に来たばかりの頃寄った、立派な教会を思い出していた。
国の中で一番慈悲深くなければならない聖職者ですら、人を見てくれやお金のあるなしで判断していた。
もっと昔に思いを馳せる。
父上についてこの国に来たときは、それなりに良い国に思えた。
我が国ほどではなくとも、城は立派で国は豊か。
王も貴族たちも俺に大変親切だった。
馬車で案内されて城下の街も回ったが、活気にあふれ、親切な人が多い美しい良い街だと思っていた。
でもそんなのは見せかけだけだった。
この国の人々がエルシオンの人々に劣らぬほどの細やかな親切心を見せたのは、俺が大国の王子だったから。
ただそれだけなのだ。
人々から善意だけを貰って育ってきた俺は、書物からの知識やわかりやすい悪意は理解できた。
でも、優しさという砂糖にくるまれた悪意を見抜くことは出来なかった。
この国シリウスでは、お金のないものは人間ではないものとして扱われる。
王も聖職者も民も誰一人として弱い、可哀想な境遇な子供たちを救おうとはしない。
そんなことが『当然』としてエルシオン以外の国では通る。
なんという恐ろしいことだろう。
ふと見ると、壁にもたれかかるように息絶えていた所員のタバコには、まだ火が残っていた。
俺は売買契約書にタバコの火を押し当てた。
最初はチリチリと燃えていた火が、数秒後には周りの書類も飲み込んで高く吹き上がる。
これで契約書は全て燃える。看守たちも全員死んだ。
あの子供たちは自由になれるはずだ。
事務所の壁にかかっていたたくさんの鍵の束をさっと掴むと、俺たちはこの部屋の扉を閉め、かわりに奴隷たちの牢の鍵をすべて開けた。
いそがなくてはならない。事務所のドアは分厚いとはいえ木製だ。部屋の内部を舐める炎によって、すぐにあのドアも焼け落ちるだろう。
持っている鍵にはナンバーがふってある。
奴隷たちに、繋がれた鎖と鍵のナンバーを照会しながら急いで渡して回った。
それでもその鍵をすぐに使おうとするものは少なかったが、ここが間もなく火に包まれる事を告げると全員が錠をはずし、決意したような瞳で走り出していった。
……これで良かったんだ。
リオンの手を再び血に染めさせてしまったことに心は痛む。
でも、俺たちは悪いことをしたわけじゃない。
そうだ、悪いのはあいつらだ。
そして俺たちには、奴隷の子供を逃がすだけの力があった。
このまま知らんふりして逃げたなら、俺たちを見捨てたあの教会の聖職者たちと同じになってしまう。
だから、悪い奴は全員殺した。
殺しておかないと、これからもここで不幸な子供たちが次々と生まれるから。
俺たちは良いことをしたんだ。
……しかし、まだ不十分だ。俺たちにはやり残したことがある。
重さがほとんど無い魔剣より、正直、普通の剣の方が手になじむ。
それにリオンにも、身を守るための武器が必要だ。
長い通路を歩きながら、出会う看守を次々と殺し、一人は捕らえてここの主の所に案内させた。
事務所のようなそこに飛び込むと、十数人の男たちが一斉に振り向いた。
大声を上げるもの、剣を抜いて向かってくるもの、様々だったが俺たちの敵ではない。
すべて殺して事務所にあるはずの、奴隷売買の契約書を探す。
これさえ破棄すれば、子供たちは奴隷の身から解放されるはず。
ありがたい事にそれはすぐに見つかった。
売買契約書のサイン欄には子供本人が書いたと思われる拙い字のサイン、それに親と思われる者のサインがしてあった。
さらに、その上にはこの国の検印も押してある。
他国が奴隷売買を認めているのは、元々知っていた。
でも『国の印』まで押してある書類を見た俺は衝撃を受けた。
国も奴隷を作る事を積極的に認めている。
あんな子供が地獄に堕ちるのを容認している。
俺はこの国に来たばかりの頃寄った、立派な教会を思い出していた。
国の中で一番慈悲深くなければならない聖職者ですら、人を見てくれやお金のあるなしで判断していた。
もっと昔に思いを馳せる。
父上についてこの国に来たときは、それなりに良い国に思えた。
我が国ほどではなくとも、城は立派で国は豊か。
王も貴族たちも俺に大変親切だった。
馬車で案内されて城下の街も回ったが、活気にあふれ、親切な人が多い美しい良い街だと思っていた。
でもそんなのは見せかけだけだった。
この国の人々がエルシオンの人々に劣らぬほどの細やかな親切心を見せたのは、俺が大国の王子だったから。
ただそれだけなのだ。
人々から善意だけを貰って育ってきた俺は、書物からの知識やわかりやすい悪意は理解できた。
でも、優しさという砂糖にくるまれた悪意を見抜くことは出来なかった。
この国シリウスでは、お金のないものは人間ではないものとして扱われる。
王も聖職者も民も誰一人として弱い、可哀想な境遇な子供たちを救おうとはしない。
そんなことが『当然』としてエルシオン以外の国では通る。
なんという恐ろしいことだろう。
ふと見ると、壁にもたれかかるように息絶えていた所員のタバコには、まだ火が残っていた。
俺は売買契約書にタバコの火を押し当てた。
最初はチリチリと燃えていた火が、数秒後には周りの書類も飲み込んで高く吹き上がる。
これで契約書は全て燃える。看守たちも全員死んだ。
あの子供たちは自由になれるはずだ。
事務所の壁にかかっていたたくさんの鍵の束をさっと掴むと、俺たちはこの部屋の扉を閉め、かわりに奴隷たちの牢の鍵をすべて開けた。
いそがなくてはならない。事務所のドアは分厚いとはいえ木製だ。部屋の内部を舐める炎によって、すぐにあのドアも焼け落ちるだろう。
持っている鍵にはナンバーがふってある。
奴隷たちに、繋がれた鎖と鍵のナンバーを照会しながら急いで渡して回った。
それでもその鍵をすぐに使おうとするものは少なかったが、ここが間もなく火に包まれる事を告げると全員が錠をはずし、決意したような瞳で走り出していった。
……これで良かったんだ。
リオンの手を再び血に染めさせてしまったことに心は痛む。
でも、俺たちは悪いことをしたわけじゃない。
そうだ、悪いのはあいつらだ。
そして俺たちには、奴隷の子供を逃がすだけの力があった。
このまま知らんふりして逃げたなら、俺たちを見捨てたあの教会の聖職者たちと同じになってしまう。
だから、悪い奴は全員殺した。
殺しておかないと、これからもここで不幸な子供たちが次々と生まれるから。
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……しかし、まだ不十分だ。俺たちにはやり残したことがある。
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