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第11章 暗転
3.暗転
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「ごめんな、リオン」
牢を後にしてから小さく囁く。
リオンは俺を信じ、俺だけを頼りにあの閉じた世界から出ることを決意した。
だから絶対に幸せにしてやらねばならないのに、またしても結果はこうだ。
裏切られ、怖い目にあわせ、致し方ないとはいえ兄弟して人を殺す。
何一つ良い事がない。
「え……兄様、どうして謝るのですか?」
リオンは俺を見て、不思議そうに首をかしげた。
「捕まった事でしたら、兄様のせいではありません。
僕らを騙し『すいみんやく』とやらを飲ませたあのおばさんが悪いのです。
それに、兄様を侮辱したあの男を殺したのだって当然です。
兄様は、僕が人を殺すたび悲しそうな顔をなさるから我慢していましたが、そろそろ限界でした。
僕の主は兄様一人。どこかに売られるなんて、絶対に嫌です。
兄様……助けて下さって、本当にありがとうございます!」
ペコリとおじぎすると柔らかな髪が揺れて、なんとも愛らしい。
もっともこの愛らしい弟は、俺が助けずともあの男ぐらいは苦もなく殺したろうが。
注意深く身を潜めながら通路を行くと、次の曲がり角で談笑する二人の看守の姿が見えた。奴隷についての品評をしているようだ。
同じ部屋で涙をこぼしていた少年少女たちのうち幾人かは明日出荷され、店に並べられるらしい。
どんな扱いを受けるのか、想像しただけで吐き気がした。
「リオン。エラジーを持っているか?」
「……はい。あります」
よかった。
魔剣エラジーは未使用時にはとても小さくて、剣の鞘もとても鞘とは思えない形状をしている。重量も金属なのに、無いに等しい。
大丈夫だろうと予想はしていたが、それが当たっていたことに俺はホッと胸をなでおろした。
故国エルシオンには魔道士が居ない。
魔剣もあったとしても、誰も価値を見出さない。
しかし外国では、魔剣はそれなりに高く取引されているらしい。
看守たちに見つかっていたら、間違いなく取り上げられていただろう。
魔剣を使いこなすような戦闘的魔道士はもう世界に幾人も居ないと聞いているが、それでもあのエラジーの威力を見れば、収集家たちが熱心に集める気持ちはなんとなくわかる。
俺は魔剣をリオンから受け取ると、鞘から引き出した。
「……なんだ、随分短いな?」
引き出した刃の長さは、リオンの使用時より少し短かかった。
リオンが使うときは細身ではあるものの、かなりの長剣だったのに。
それに、前に貸してもらってリオンの目隠しを切った時には、こんなに短くはなかった。
「それでも故国の神殿から離れたこの場所で、訓練も無しにその長さが引き出せるならたいしたものです。兄様ってやっぱりすごいですね!」
リオンがにっこりと笑った。
そういうものなのか?
どうやらこの魔剣は、持ち主の魔力の強さに反応するようだ。
俺とリオンは腹違いとはいえ兄弟だから、その資質もそう離れてはいないのだろう。
訓練を重ねれば、もっと長剣になるのかもしれない。
でも今はこの長さでいい。
俺は気配を消し、角度を計算しながらエラジーを振り投げた。
刀身が看守二人の心臓を貫く。
二人は声を上げることも無く、床にくず折れた。
「リオン。頼みがある」
俺はリオンの手を握って向き合った。
その願いは、本当はリオンには言ってはいけない酷い頼みだ。
しかも俺は、リオンがそれを断らないであろうことを知っている。
でも俺一人の力では、罪のない奴隷たちを開放できない。
あの可哀想な、親を想って泣くしか出来ない無力な子供たちを。
「……奴隷施設の看守たちを皆殺しにしたい。そして奴隷たちを逃がしたい……。
力を貸してくれるか?」
リオンは、俺の言葉に嬉しそうに笑った。
「もちろんです!
兄様のお役にたてることが僕の幸せです。喜んで兄様の仰せに従います!!」
場違いなほどに顔を輝かせるリオンに、俺の胸は深く痛んだ。
牢を後にしてから小さく囁く。
リオンは俺を信じ、俺だけを頼りにあの閉じた世界から出ることを決意した。
だから絶対に幸せにしてやらねばならないのに、またしても結果はこうだ。
裏切られ、怖い目にあわせ、致し方ないとはいえ兄弟して人を殺す。
何一つ良い事がない。
「え……兄様、どうして謝るのですか?」
リオンは俺を見て、不思議そうに首をかしげた。
「捕まった事でしたら、兄様のせいではありません。
僕らを騙し『すいみんやく』とやらを飲ませたあのおばさんが悪いのです。
それに、兄様を侮辱したあの男を殺したのだって当然です。
兄様は、僕が人を殺すたび悲しそうな顔をなさるから我慢していましたが、そろそろ限界でした。
僕の主は兄様一人。どこかに売られるなんて、絶対に嫌です。
兄様……助けて下さって、本当にありがとうございます!」
ペコリとおじぎすると柔らかな髪が揺れて、なんとも愛らしい。
もっともこの愛らしい弟は、俺が助けずともあの男ぐらいは苦もなく殺したろうが。
注意深く身を潜めながら通路を行くと、次の曲がり角で談笑する二人の看守の姿が見えた。奴隷についての品評をしているようだ。
同じ部屋で涙をこぼしていた少年少女たちのうち幾人かは明日出荷され、店に並べられるらしい。
どんな扱いを受けるのか、想像しただけで吐き気がした。
「リオン。エラジーを持っているか?」
「……はい。あります」
よかった。
魔剣エラジーは未使用時にはとても小さくて、剣の鞘もとても鞘とは思えない形状をしている。重量も金属なのに、無いに等しい。
大丈夫だろうと予想はしていたが、それが当たっていたことに俺はホッと胸をなでおろした。
故国エルシオンには魔道士が居ない。
魔剣もあったとしても、誰も価値を見出さない。
しかし外国では、魔剣はそれなりに高く取引されているらしい。
看守たちに見つかっていたら、間違いなく取り上げられていただろう。
魔剣を使いこなすような戦闘的魔道士はもう世界に幾人も居ないと聞いているが、それでもあのエラジーの威力を見れば、収集家たちが熱心に集める気持ちはなんとなくわかる。
俺は魔剣をリオンから受け取ると、鞘から引き出した。
「……なんだ、随分短いな?」
引き出した刃の長さは、リオンの使用時より少し短かかった。
リオンが使うときは細身ではあるものの、かなりの長剣だったのに。
それに、前に貸してもらってリオンの目隠しを切った時には、こんなに短くはなかった。
「それでも故国の神殿から離れたこの場所で、訓練も無しにその長さが引き出せるならたいしたものです。兄様ってやっぱりすごいですね!」
リオンがにっこりと笑った。
そういうものなのか?
どうやらこの魔剣は、持ち主の魔力の強さに反応するようだ。
俺とリオンは腹違いとはいえ兄弟だから、その資質もそう離れてはいないのだろう。
訓練を重ねれば、もっと長剣になるのかもしれない。
でも今はこの長さでいい。
俺は気配を消し、角度を計算しながらエラジーを振り投げた。
刀身が看守二人の心臓を貫く。
二人は声を上げることも無く、床にくず折れた。
「リオン。頼みがある」
俺はリオンの手を握って向き合った。
その願いは、本当はリオンには言ってはいけない酷い頼みだ。
しかも俺は、リオンがそれを断らないであろうことを知っている。
でも俺一人の力では、罪のない奴隷たちを開放できない。
あの可哀想な、親を想って泣くしか出来ない無力な子供たちを。
「……奴隷施設の看守たちを皆殺しにしたい。そして奴隷たちを逃がしたい……。
力を貸してくれるか?」
リオンは、俺の言葉に嬉しそうに笑った。
「もちろんです!
兄様のお役にたてることが僕の幸せです。喜んで兄様の仰せに従います!!」
場違いなほどに顔を輝かせるリオンに、俺の胸は深く痛んだ。
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