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第10章 シリウスという国
3.シリウスという国
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「だって兄様、あの『うえでぃんぐどれす』というお衣装は、神官服よりとても綺麗です。
それに僕……兄様と一生仲良く暮らしていきたいし……。
だから、兄様の隣であのお衣装を着てみたいのです」
う~ん。婚儀の説明が若干よろしくなかったようだ。言葉って難しい。
「えっと、結婚は愛する二人がするものであって、その……」
「『アイする』ってなんですか?」
畳み掛けるように、リオンから質問が飛ぶ。
「ええっ? え~っと、え~っと……凄く好きってこと……かな」
オロオロと説明する俺の瞳を、リオンは真剣な眼差しで覗きこんだ。
「僕、兄様の事凄く好きです。
兄様だって、僕のこと『大好き』って言ってくださったのにダメなのですか?
それともこれは『私欲』になるのですか?
神官の僕が望む事は……許されないのですか?」
「い、いやお前はもう神官じゃないし、その事自体は結婚の障害にはならないと思うけどさ」
もっと根本的なところで障害があるのだ。
「兄様大好きです……僕と『けっこん』して下さい」
う。見上げてくる大きな瞳が、超絶に可愛い。
このまま俺たちもすぐ結婚……いやいや、俺は何を考えてるのだ。
リオンは弟っ!!
どんなに可愛くて女の子みたいでも、弟だからっ!!!
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、甘えるようにリオンが身を寄せてくる。
うわわっ!!
思わず押し戻すと、リオンの大きな瞳は涙で潤みだした。
「僕が化け物だから……だから兄様は……うっ……うう……本当は僕の事なんか好きじゃなくて……」
悲しい涙が頬を伝う。
それは、あの時の姿を思い出させた。
俺がリオンを『化け物』と罵って、リオンが自らの胸を突いた時の悲しい涙。
俺は世界中の誰を悲しませようと、この弟だけは悲しませてはいけない。
素直にそう思った。
「……好きだよ。
お前は化け物じゃないし、誰より大切だよ。世界で一番大切だよ」
そう言ってリオンを抱きしめる。
「……じゃあ、僕と『けっこん』してくれますか?
ずっと兄様と一緒にいていいですか?」
リオンがすがるような瞳で言った。
「……いいよ。大人になって、それでも俺のことを一番好きでいてくれたなら、リオンと結婚するよ」
俺たちの成り行きを密かに野次馬していたらしい人々のギョッとしたような目が大変痛いけど、無視だ。
誰より大切な弟を泣かせないためなのだから、この際どうでもいい。
もちろん、いくら大好きでも弟と結婚なんてことはありえない。
今言ったのはその場しのぎの、耳に優しいただの嘘。
でも、嘘をつくことに意味がないとは思わない。
思い返せば俺にだって、その言葉を貰って嬉しかった時があったんだ。
母上と結婚すると、泣いて駄々をこねた幼い頃の俺。
困った顔をしながらも母上は、
「では、あなたが大人になっても同じ気持ちであれば、そうしましょうね。
でもその代わり、お父様より素敵にならなければ駄目ですよ?」
そう言って頬に、優しくキスして下さった。
だから俺も、リオンの頬に優しくキスをした。
幼い頃、母上との結婚の約束を取り付けた俺は嬉しくて……乗せられたとも気づかず、一生懸命勉強も武道も頑張ったっけ。
リオンも俺との約束が励みになるかもしれない。
もちろん大きくなって、俺ははたと現実に気づいた。
母上と結婚なんて、絶対に無理だって。
おまけに教育係のエドワードには、
「やっと気づいたんですか? 遅いですね~。あはははは」
と笑われた。
アイツだって母上の嘘に一枚噛んで、
「王子、ちゃんと勉強しないと母上と結婚できないですよぉぉ~。
あ~、そうそう。腕立て伏せもあと100回ほど追加しましょうね~」
とか言ってたくせに。
でも、そのエドワードも……もうこの世の人ではない。
思えばあの頃の、なんと幸せだった事か。
その後も父王やエドワード、臣下、見合い相手の姫たちから「マザコン! マザコン!」と計3万回ぐらい言われたけど、それでも幸せだった。
そういえば俺は妹ヴィアリリスに「お兄様と結婚しますぅ~♥」と言ってもらうのが夢だった。
なんか、期せず弟で叶ってしまった。
そう思うと何だか幸せな気持ちになる。
好かれるというのは、気分の良いことだ。
でも、リオンはどうだろうか?
『母と結婚の約束』というのは時々耳にすることもあるのだが、『兄と結婚の約束をした弟』というのはそういえば聞かないなぁ。
もしかしてこの可愛い弟も、いつか俺を恨みがましく見る日が来るのだろうか?
すまん、リオン。
兄ちゃんに求婚した事実は、大人になった時のお前にとっては輝くばかりの黒歴史となるかもしれないが、俺はお前の将来の嫁にチクッたりはしない。
それで許せ。
それに僕……兄様と一生仲良く暮らしていきたいし……。
だから、兄様の隣であのお衣装を着てみたいのです」
う~ん。婚儀の説明が若干よろしくなかったようだ。言葉って難しい。
「えっと、結婚は愛する二人がするものであって、その……」
「『アイする』ってなんですか?」
畳み掛けるように、リオンから質問が飛ぶ。
「ええっ? え~っと、え~っと……凄く好きってこと……かな」
オロオロと説明する俺の瞳を、リオンは真剣な眼差しで覗きこんだ。
「僕、兄様の事凄く好きです。
兄様だって、僕のこと『大好き』って言ってくださったのにダメなのですか?
それともこれは『私欲』になるのですか?
神官の僕が望む事は……許されないのですか?」
「い、いやお前はもう神官じゃないし、その事自体は結婚の障害にはならないと思うけどさ」
もっと根本的なところで障害があるのだ。
「兄様大好きです……僕と『けっこん』して下さい」
う。見上げてくる大きな瞳が、超絶に可愛い。
このまま俺たちもすぐ結婚……いやいや、俺は何を考えてるのだ。
リオンは弟っ!!
どんなに可愛くて女の子みたいでも、弟だからっ!!!
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、甘えるようにリオンが身を寄せてくる。
うわわっ!!
思わず押し戻すと、リオンの大きな瞳は涙で潤みだした。
「僕が化け物だから……だから兄様は……うっ……うう……本当は僕の事なんか好きじゃなくて……」
悲しい涙が頬を伝う。
それは、あの時の姿を思い出させた。
俺がリオンを『化け物』と罵って、リオンが自らの胸を突いた時の悲しい涙。
俺は世界中の誰を悲しませようと、この弟だけは悲しませてはいけない。
素直にそう思った。
「……好きだよ。
お前は化け物じゃないし、誰より大切だよ。世界で一番大切だよ」
そう言ってリオンを抱きしめる。
「……じゃあ、僕と『けっこん』してくれますか?
ずっと兄様と一緒にいていいですか?」
リオンがすがるような瞳で言った。
「……いいよ。大人になって、それでも俺のことを一番好きでいてくれたなら、リオンと結婚するよ」
俺たちの成り行きを密かに野次馬していたらしい人々のギョッとしたような目が大変痛いけど、無視だ。
誰より大切な弟を泣かせないためなのだから、この際どうでもいい。
もちろん、いくら大好きでも弟と結婚なんてことはありえない。
今言ったのはその場しのぎの、耳に優しいただの嘘。
でも、嘘をつくことに意味がないとは思わない。
思い返せば俺にだって、その言葉を貰って嬉しかった時があったんだ。
母上と結婚すると、泣いて駄々をこねた幼い頃の俺。
困った顔をしながらも母上は、
「では、あなたが大人になっても同じ気持ちであれば、そうしましょうね。
でもその代わり、お父様より素敵にならなければ駄目ですよ?」
そう言って頬に、優しくキスして下さった。
だから俺も、リオンの頬に優しくキスをした。
幼い頃、母上との結婚の約束を取り付けた俺は嬉しくて……乗せられたとも気づかず、一生懸命勉強も武道も頑張ったっけ。
リオンも俺との約束が励みになるかもしれない。
もちろん大きくなって、俺ははたと現実に気づいた。
母上と結婚なんて、絶対に無理だって。
おまけに教育係のエドワードには、
「やっと気づいたんですか? 遅いですね~。あはははは」
と笑われた。
アイツだって母上の嘘に一枚噛んで、
「王子、ちゃんと勉強しないと母上と結婚できないですよぉぉ~。
あ~、そうそう。腕立て伏せもあと100回ほど追加しましょうね~」
とか言ってたくせに。
でも、そのエドワードも……もうこの世の人ではない。
思えばあの頃の、なんと幸せだった事か。
その後も父王やエドワード、臣下、見合い相手の姫たちから「マザコン! マザコン!」と計3万回ぐらい言われたけど、それでも幸せだった。
そういえば俺は妹ヴィアリリスに「お兄様と結婚しますぅ~♥」と言ってもらうのが夢だった。
なんか、期せず弟で叶ってしまった。
そう思うと何だか幸せな気持ちになる。
好かれるというのは、気分の良いことだ。
でも、リオンはどうだろうか?
『母と結婚の約束』というのは時々耳にすることもあるのだが、『兄と結婚の約束をした弟』というのはそういえば聞かないなぁ。
もしかしてこの可愛い弟も、いつか俺を恨みがましく見る日が来るのだろうか?
すまん、リオン。
兄ちゃんに求婚した事実は、大人になった時のお前にとっては輝くばかりの黒歴史となるかもしれないが、俺はお前の将来の嫁にチクッたりはしない。
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