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第8章 奴隷奪還
8.奴隷奪還
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「……くっ!! 騙したな!!」
「騙されるほうが悪いんだよ。アースラなら、こんな初歩的な引っ掛けには絶対乗らない。
他にもやりようはあったのに、魔獣を信じてわけのわからない呪文を唱えてしまうなんて馬鹿にも程がある。
よっぽど生ぬるい環境で生きてきたのだろうよ。
それに、ワタシがワタシの力を使って何が悪い?」
魔獣はククッと笑うと俺を見た。
「まあそう怒るなエル。火事は収まったし、奴隷どもを逃がしたらワタシの事も解放してくれる約束だったはず。
別にこの程度の保険、掛けさせてくれてもいいんじゃないかァ?」
ニタリと嗤う魔獣に、返す言葉が見つからない。
でも、こんな形で騙されたことが、俺にはとてもショックだった。
「さァて、魔力を消費したんで腹が減ってたまらない。
食料でも探してくるか。お前も腹が減ったろう?
腹が減ると怒りっぽくなるものだ。
飯を食ったら『ワタシを完全に解放する方法』を改めて一緒に検討しよう。
このリオンとかいうクソ餓鬼の頭の中を一生懸命探してみたんだが、オマエとの契約解除の方法がどうしても見つからない。
心配しなくても逃げたりはしないさァ。そこまでの自由は、ワタシにはないからな」
ヴァティールが姿を消した後も、俺はしばらくの間、呆然としていた。
魔獣にしてやられた。騙された。
森の中で涙を流し続けるヴァティールを見た時、奴を解放してやってもいいと思った。
だけど、あいつは魔獣。
人の血を好み、殺す事をなんとも思ってはいない。
平気で嘘をつくあいつだ、あの時に流した涙だって本当かどうかわからない。
音も気配も消したとはいえ、俺が近づいてきた事に気づいたヴァティールが、一芝居打って俺を騙したということも考えられる。
王家に……いや、多分『人そのもの』に恨みを持っているヴァティールをこの世に解き放ってしまったら、どうなるのだろう?
伝承に残る『魔獣』の力は圧倒的で、一国を滅ぼす事すら奴にとっては容易いはずだ。
奴は、絶大な魔力を『人間に対する復讐』のために使う恐れがある。
そうなったら、今とは比較にならないほどの地獄がこの世に訪れるだろう。
俺の一時的な感傷で選択を間違うことは、もう許されない。
結界を壊す決意をしたあの時のように……。
国を滅ぼしてしまったあの時のように……。
全身の震えを抑えるように体を抱きしめたまま座り込んでいると、ヴァティールが死体を引きずりながら戻ってきた。
まだ若い、アレス帝国の青年兵だ。
「こいつが一番新鮮で美味そうだ。他に食料になりそうなものはないし、ちょっと硬いかもしれないが、コレを食おうぜ。
オマエも運動したから腹が減ったろォ?」
言って投げよこした兵士の胸元から、ペンダントがこぼれた。
可愛らしい飾りのついた女性用のものだ。
おそらく戦に行く前に、お守り代わりに恋人にでも持たされたのだろう。
「人間は人間なんか食べない……」
青ざめながらぷいっと顔を背けて言うと、魔獣は哂った。
「なんだ。喰わないのかァ。
所詮敵兵、食わなくても腐るだけなのにもったいない。
それにオマエの『ご先祖』や『弟』は美味そうに人間喰ってたけどなァ?」
え……!?
「今、なんて……」
「オマエの『ご先祖』は戦で追い詰められて食い物が無くなった時、フツーに死体を喰ってたぞ?
それから、弟の方は祭壇に人牲を捧げて生き血を飲んでいた。
クロスⅦに『あれは動物の血だ』と教えられてたから、アレが人間のだったと知ったのは、オマエに連れ出された後だったみたいだけどなァ」
「嘘だ……!!」
「嘘じゃない。ワタシはリオンの記憶を暴くことが出来る。
この目で確かに……っつ……ああっ!!」
「どうしたヴァティール! 気分でも悪いのか!?」
突如苦しみ始めたヴァティールの背をさすってやる。
恐ろしい魔獣ではあるが、目の前でもだえ苦しむさまは、やはり見ていられない。
もしかしたら、魔力の使いすぎなのだろうか?
魔縛にとらわれた体なのに、無理をさせ過ぎてしまったのだろうか?
「何でも……ない……それから、さっきのは全部嘘だ」
そこで声音が変わる。
「嘘だから……嫌わない…で……」
「騙されるほうが悪いんだよ。アースラなら、こんな初歩的な引っ掛けには絶対乗らない。
他にもやりようはあったのに、魔獣を信じてわけのわからない呪文を唱えてしまうなんて馬鹿にも程がある。
よっぽど生ぬるい環境で生きてきたのだろうよ。
それに、ワタシがワタシの力を使って何が悪い?」
魔獣はククッと笑うと俺を見た。
「まあそう怒るなエル。火事は収まったし、奴隷どもを逃がしたらワタシの事も解放してくれる約束だったはず。
別にこの程度の保険、掛けさせてくれてもいいんじゃないかァ?」
ニタリと嗤う魔獣に、返す言葉が見つからない。
でも、こんな形で騙されたことが、俺にはとてもショックだった。
「さァて、魔力を消費したんで腹が減ってたまらない。
食料でも探してくるか。お前も腹が減ったろう?
腹が減ると怒りっぽくなるものだ。
飯を食ったら『ワタシを完全に解放する方法』を改めて一緒に検討しよう。
このリオンとかいうクソ餓鬼の頭の中を一生懸命探してみたんだが、オマエとの契約解除の方法がどうしても見つからない。
心配しなくても逃げたりはしないさァ。そこまでの自由は、ワタシにはないからな」
ヴァティールが姿を消した後も、俺はしばらくの間、呆然としていた。
魔獣にしてやられた。騙された。
森の中で涙を流し続けるヴァティールを見た時、奴を解放してやってもいいと思った。
だけど、あいつは魔獣。
人の血を好み、殺す事をなんとも思ってはいない。
平気で嘘をつくあいつだ、あの時に流した涙だって本当かどうかわからない。
音も気配も消したとはいえ、俺が近づいてきた事に気づいたヴァティールが、一芝居打って俺を騙したということも考えられる。
王家に……いや、多分『人そのもの』に恨みを持っているヴァティールをこの世に解き放ってしまったら、どうなるのだろう?
伝承に残る『魔獣』の力は圧倒的で、一国を滅ぼす事すら奴にとっては容易いはずだ。
奴は、絶大な魔力を『人間に対する復讐』のために使う恐れがある。
そうなったら、今とは比較にならないほどの地獄がこの世に訪れるだろう。
俺の一時的な感傷で選択を間違うことは、もう許されない。
結界を壊す決意をしたあの時のように……。
国を滅ぼしてしまったあの時のように……。
全身の震えを抑えるように体を抱きしめたまま座り込んでいると、ヴァティールが死体を引きずりながら戻ってきた。
まだ若い、アレス帝国の青年兵だ。
「こいつが一番新鮮で美味そうだ。他に食料になりそうなものはないし、ちょっと硬いかもしれないが、コレを食おうぜ。
オマエも運動したから腹が減ったろォ?」
言って投げよこした兵士の胸元から、ペンダントがこぼれた。
可愛らしい飾りのついた女性用のものだ。
おそらく戦に行く前に、お守り代わりに恋人にでも持たされたのだろう。
「人間は人間なんか食べない……」
青ざめながらぷいっと顔を背けて言うと、魔獣は哂った。
「なんだ。喰わないのかァ。
所詮敵兵、食わなくても腐るだけなのにもったいない。
それにオマエの『ご先祖』や『弟』は美味そうに人間喰ってたけどなァ?」
え……!?
「今、なんて……」
「オマエの『ご先祖』は戦で追い詰められて食い物が無くなった時、フツーに死体を喰ってたぞ?
それから、弟の方は祭壇に人牲を捧げて生き血を飲んでいた。
クロスⅦに『あれは動物の血だ』と教えられてたから、アレが人間のだったと知ったのは、オマエに連れ出された後だったみたいだけどなァ」
「嘘だ……!!」
「嘘じゃない。ワタシはリオンの記憶を暴くことが出来る。
この目で確かに……っつ……ああっ!!」
「どうしたヴァティール! 気分でも悪いのか!?」
突如苦しみ始めたヴァティールの背をさすってやる。
恐ろしい魔獣ではあるが、目の前でもだえ苦しむさまは、やはり見ていられない。
もしかしたら、魔力の使いすぎなのだろうか?
魔縛にとらわれた体なのに、無理をさせ過ぎてしまったのだろうか?
「何でも……ない……それから、さっきのは全部嘘だ」
そこで声音が変わる。
「嘘だから……嫌わない…で……」
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