滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
64 / 437
第8章 奴隷奪還

7.奴隷奪還

しおりを挟む
「お前には不死の呪いがかかっていると言ったじゃないか。心配するな。
 あの完ぺき主義者の糞アースラが、邪悪な力のすべてをこめて作った呪いだ。
 黒焦げの骨だけになっても再生するさァ。
 安心して死ぬがいい」

 ヴァティールは俺を見てニヤリと笑った。

 ……冗談じゃない!!
 いくら再生するといっても焼死だなんて、考えただけでも恐ろしかった。
 以前父上について行った時に聞いた、イシュタ王国の馬鹿王の言葉が浮かぶ。

『わが国では罪を犯した者はどんな小さな罪であっても、火あぶりの刑に処す事にしているのですよ。
 人間というものはね、たとえ表皮が黒焦げになったとしても内臓に損傷を受けていなければ中々死ねないものなのです。
 だから火にかけられた罪人は、長い間もだえ苦しみ続けてくれます。
 その様子をですね、民衆に公開する事によってわが国の犯罪率は貴国にも劣らぬようになりましたよ』

 イシュタ王はさも自慢そうに言って、縛られたまま炭化した刑場の死体を俺たちに示した。
 人としての姿をかろうじて残したその屍は、喘ぐように口をあけていた。

 当時の俺は、まだ10歳を少し過ぎたばかり。
 その光景が忘れられず、ほぼ半年間夢でうなされた。

 嫌だ。
 死んでから焼かれるならともかく、罪人のように、生きたまま焼け死ぬなんて恐ろしすぎる。

「魔力で雨を降らすことは出来ないのか!?」

「ああ、そういう魔法は実は得意だ。でも今は無理だなァ。大勢の兵士の血をエラジーに吸わせて魔力を蓄えたとはいえ、この火事を全て消し去るほどの力は出ない。
 まァ、お前が……どうしてもというのなら、出来ないことはないけどなァ?」

 魔獣が俺を見てニタリと嗤う。

「では……どうしても……だ!!
 このままでは俺たちだけでなく、逃げた民たちも焼け死んでしまう!!
 さあ、早く!! ヴァティールっ!!!」

 叫ぶ俺に、奴は再びニタリと笑った。

「その言葉を待っていたよ。ではワタシに続いて呪文を唱えろ」

 俺は急いで、ヴァティールに教えられた通りの呪文を詠唱した。

「ハルラ・ウルク・カオスリア!!」

 そのとたん、大雨が降ってくる。
 火勢は見る見る衰え、雨が止む頃には煙の筋だけが細々とたなびくのみだ。

「すごいじゃないか、ヴァティール!!」

 俺は魔獣を素直に褒めた。

「……そりゃ、一時的にとはいえ、解縛されたからなァ。これぐらい造作もない。
 これからだってピンチの時には、さっきの呪文を使って何度でも解縛するがいい。
 ただしお前が『一時解縛の呪』を唱えるたび、ワタシにかけられている魔縛は少しずつ弱まっていく。
 今までの魔縛も糞アースラのものよりはずっと弱かったが、それでも出せる力はせいぜい超低級魔族クラス。
 しかもお前の命令なしじゃ、魔力をほとんど使えない。
 でも今は違う。
 お前を傷つけたり、命令なしで遠く離れたりは出来ないが、私の裁量で使える力はずっと増した。
 哀れな奴隷の生活はこれで終わりだ。あはははッ!! ザマーミロッ!!!」

 ヴァティールは高らかに笑った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

学園の支配者

白鳩 唯斗
BL
主人公の性格に難ありです。

消えたいと願ったら、猫になってました。

15
BL
親友に恋をした。 告げるつもりはなかったのにひょんなことからバレて、玉砕。 消えたい…そう呟いた時どこからか「おっけ〜」と呑気な声が聞こえてきて、え?と思った時には猫になっていた。 …え? 消えたいとは言ったけど猫になりたいなんて言ってません! 「大丈夫、戻る方法はあるから」 「それって?」 「それはーーー」 猫ライフ、満喫します。 こちら息抜きで書いているため、亀更新になります。 するっと終わる(かもしれない)予定です。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

処理中です...