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第8章 奴隷奪還

5.奴隷奪還

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 リオンは王家によって、ずっと地下神殿に閉じ込められていた。

 青い空も小鳥の声も知らず、陽の光さえ浴びたことが無かった俺の弟。
 哀れだと思った。

 でもそれは、この魔獣ヴァティールも同じ。

 国の英雄、大魔道士アースラが表で活躍していた裏で、こいつは酷い目に遭って生きてきた。
 魔縛に縛られ、絶大なる魔力のほぼ全てを結界維持のために吸い上げられ、生きた燃料として何百年もの間、虜とされてきたのだ。

「あの……ヴァティール……」

 おそるおそる声をかけると、魔獣は驚いたように振り返り、慌てて涙をぬぐった。

「……な、何だ! 人間!! 邪悪なものの末裔め。こっそり覗き見とは趣味が悪いな」

 もうすっかりいつもの調子のヴァティールに戻っていたが、その姿は少し弱々しく見えた。

「……えっと……すまない。俺なんかにつき合わせてしまって……」

 そう言って深々と頭を下げると、魔獣は大きな瞳を更に大きくして瞬いた。

「正気か、人間?
 契約で縛ってる相手に頭を下げるなぞ、聞いたことが無いぞ?」

「でも悪いのは俺の方なんだから、しょうがない。すまなかった。
 俺は捕まっている民を逃がしたいから、お前の協力はどうしても欲しい。
 でも、その後は自由だ。
 契約は、何とかして解除する。そのあとには、俺の体もお前にやる。
 だから、リオンのことだけは許してやってほしい。
 あの子も民たちと同じ、俺の被害者なんだ」

 深々と頭を下げたまま、ヴァティールに頼んだ。

「ふーん、被害者、ね。
 ワタシには到底そうは思えないが。
 ま、よかろう。
 まずは魔縛がなんとかならないと、ワタシは身動きが取れない。
 お前の心意気も、しかと受け取った。
 ……えっと人間、名前は何だったけ?」

「エルシド……エルと呼んでくれ」

「じゃあエル、そういう事なら協力してやる。何でも言えば良い。
 ……お前はやっぱりシヴァの方に似ているな。
 シヴァは結局鬼となったが、お前は奴とは違う道を進みそうな気がするよ」

 そう言って笑った魔獣の笑顔は、リオンのものとよく似ていた。
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