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第8章 奴隷奪還
2.奴隷奪還
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ヴァティールが指さした街道は、ここからだと歩いて二日もかからない。
でも……。
「たった二人で、どうやって蹴散らすというんだ?
この里を襲ってきた兵は、せいぜい百人ちょっと。しかもたいした訓練も受けていない、簡単に奪略に走るような民兵がほとんどだ。
対して、奴隷や奪った物資を運ぶために警護している兵はおそらく正規兵。どう考えても勝ち目が無い」
「……オマエ、本当に馬鹿だな。そういう時のためにワタシが居るんじゃないか。
まァ、『魔縛』で能力を押さえ込まれている上にオマエが主人じゃ、本来の千分の一の力も出せないが、それでも人間ごときに遅れをとったりはしない」
ヴァティールは、小さな胸をそらして偉そうに言った。
この体の本当の持ち主なら絶対にしない仕草と言葉使いに、俺はほんの一瞬悲しくなった。
「……アースラにもリオンにも負けたくせに……」
ぼそっと呟くと、ヴァティールは憤慨した。
「あ、あれはだな……アースラの外道な姦計にうっかり引っかかっただけで、ワタシは魔力では負けてはいない!!
それに糞アースラも陰険だが、オマエの弟も相当なものだ。
オマエに危害を加えると思ったんだろうなァ、死んだ振りして騙し討ちしやがった。
糞アースラといい、オマエの弟といい、とても人間とは思われない。悪魔のような奴らだ」
「……リオンを悪く言うなっ!!!」
叫ぶ俺を魔獣は面白そうに見た。
「……へえ。オマエはリオンを天使か何かだとでも思っているのか?
アレは糞アースラが残した最悪の人器……『クロス神官』の末だぞ?」
「人器?」
「そう、体には魔的処理を幾重にも施し、思想教育を人から離して叩き込んだ、アースラの人形だ。
アレの造った『人形』が、天使のわけがないだろう?
だが完全な継承を済ませていないオマエの弟じゃ、アースラの野郎みたいなぎちぎちの魔縛は出来やしない。
オマエを助けるために魔縛を緩めてワタシの力を使ったところまでは良かったが、その先が未熟すぎる。
だからワタシも表に出てこれるようになった。暇つぶしに、コイツのこれまでの人生を覗き見ることすら出来る。
色々と覗いて見たが、面白かったぞ。こいつの本性を教えて欲しいかァ?」
魔獣が、ニィっと哂う。
俺の知らない、リオンのこれまでの人生。
どういうものだか一瞬興味が湧いたが、そういうことは本人の了承も得ずに暴くような事柄ではない。
まして本当かどうかすらわからない、魔獣の言葉など。
ゆっくりと首を振ると、ヴァティールはつまらなさそうに横を向いた。
でも……。
「たった二人で、どうやって蹴散らすというんだ?
この里を襲ってきた兵は、せいぜい百人ちょっと。しかもたいした訓練も受けていない、簡単に奪略に走るような民兵がほとんどだ。
対して、奴隷や奪った物資を運ぶために警護している兵はおそらく正規兵。どう考えても勝ち目が無い」
「……オマエ、本当に馬鹿だな。そういう時のためにワタシが居るんじゃないか。
まァ、『魔縛』で能力を押さえ込まれている上にオマエが主人じゃ、本来の千分の一の力も出せないが、それでも人間ごときに遅れをとったりはしない」
ヴァティールは、小さな胸をそらして偉そうに言った。
この体の本当の持ち主なら絶対にしない仕草と言葉使いに、俺はほんの一瞬悲しくなった。
「……アースラにもリオンにも負けたくせに……」
ぼそっと呟くと、ヴァティールは憤慨した。
「あ、あれはだな……アースラの外道な姦計にうっかり引っかかっただけで、ワタシは魔力では負けてはいない!!
それに糞アースラも陰険だが、オマエの弟も相当なものだ。
オマエに危害を加えると思ったんだろうなァ、死んだ振りして騙し討ちしやがった。
糞アースラといい、オマエの弟といい、とても人間とは思われない。悪魔のような奴らだ」
「……リオンを悪く言うなっ!!!」
叫ぶ俺を魔獣は面白そうに見た。
「……へえ。オマエはリオンを天使か何かだとでも思っているのか?
アレは糞アースラが残した最悪の人器……『クロス神官』の末だぞ?」
「人器?」
「そう、体には魔的処理を幾重にも施し、思想教育を人から離して叩き込んだ、アースラの人形だ。
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だが完全な継承を済ませていないオマエの弟じゃ、アースラの野郎みたいなぎちぎちの魔縛は出来やしない。
オマエを助けるために魔縛を緩めてワタシの力を使ったところまでは良かったが、その先が未熟すぎる。
だからワタシも表に出てこれるようになった。暇つぶしに、コイツのこれまでの人生を覗き見ることすら出来る。
色々と覗いて見たが、面白かったぞ。こいつの本性を教えて欲しいかァ?」
魔獣が、ニィっと哂う。
俺の知らない、リオンのこれまでの人生。
どういうものだか一瞬興味が湧いたが、そういうことは本人の了承も得ずに暴くような事柄ではない。
まして本当かどうかすらわからない、魔獣の言葉など。
ゆっくりと首を振ると、ヴァティールはつまらなさそうに横を向いた。
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