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第8章 奴隷奪還
1.奴隷奪還
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ヴァティールの提案は、生きる気力さえ失った俺に『一筋の希望』を与えた。
国を滅ぼしてしまった罪は、今更どんなことをしようと償えるものではない。
まして今の俺には、死んで詫びる事すら出来ない。
しかし、この手であの優しく平和な国をもう一度作り上げるチャンスが与えられているというのなら、それに縋ってみたかった。
別に自分のためじゃない。
俺の巻き添えのような形で呪いをかけられたリオンを解き放ってやりたかった。
残された国民たちのことも、気になる。
我が国の民たちは戦に負けたのだから、多分過酷な状況に置かれているだろう。
身一つだとしても、逃げ出せたならまだ良い。
捕まれば鎖で繋がれて、奴隷として連行される。
その先に人間らしい暮らしはもう無い。
野蛮な国の従属物として、泥を舐めながら生きるしかないのだ。
火葬をすませた後、ヴァティールにうながされた俺は、更なる高台へと登った。
そして城の方角を見る。
さすがに連日くすぶっていた火はもう消え、遠目には以前とさほど変わらない。
リオンの体に取り付いた魔獣ヴァティールは、強い風の中、城や森をあの紅い瞳で見下ろしている。
魔獣としての能力は魔縛によってほとんどが失われているが、それでも視力は人間の数十倍らしい。
遠くを見渡すことのできる魔眼があれば、奇襲にふさわしい場所を選定するのに役に立つことだろう。
「アソコがいいんじゃないかァ? 帝国に向かう一番の近道は、あの細い街道だ」
ヴァティールの指す方向に目をやった。
確かにあの街道を通れば、最短の距離で奴隷をアレス帝国に引っ張っていける。
「ワタシの知識は300年前のものでしかないが、今でも奴隷は縄で繋いで歩かせて連れていくのだろう?」
その言葉に、俺は頷いた。
高級奴隷などは馬車に乗せて大切に連れて行くが、普通の奴隷は徒歩で連れていく。
待遇は決して良いものではないので、目的地につくまでに死んでしまう奴隷も稀ではない。
しかしそれでは、せっかくの戦利品が無駄になってしまう。
奴隷の損傷を可能な限り抑えるために、ヴァティールが指した街道を通る可能性は高い。
「やっぱりな! 今あの街道に向かって奴隷の一団が徒歩で引き立てられている。
アレス帝国の敵となりうるほどの勢力は、もうお前の国に残っていない。
奴隷をつれて、まっすぐあの細い街道を行くだろう。
幸いあの街道の両側には森が広がっている。帝国の兵士を蹴散らせば、奴隷どもは森に逃げ込めるんじゃないかァ?」
紅い瞳を光らせたまま指差した先は、俺が他国に行くときに何度か使った街道だった。
国を滅ぼしてしまった罪は、今更どんなことをしようと償えるものではない。
まして今の俺には、死んで詫びる事すら出来ない。
しかし、この手であの優しく平和な国をもう一度作り上げるチャンスが与えられているというのなら、それに縋ってみたかった。
別に自分のためじゃない。
俺の巻き添えのような形で呪いをかけられたリオンを解き放ってやりたかった。
残された国民たちのことも、気になる。
我が国の民たちは戦に負けたのだから、多分過酷な状況に置かれているだろう。
身一つだとしても、逃げ出せたならまだ良い。
捕まれば鎖で繋がれて、奴隷として連行される。
その先に人間らしい暮らしはもう無い。
野蛮な国の従属物として、泥を舐めながら生きるしかないのだ。
火葬をすませた後、ヴァティールにうながされた俺は、更なる高台へと登った。
そして城の方角を見る。
さすがに連日くすぶっていた火はもう消え、遠目には以前とさほど変わらない。
リオンの体に取り付いた魔獣ヴァティールは、強い風の中、城や森をあの紅い瞳で見下ろしている。
魔獣としての能力は魔縛によってほとんどが失われているが、それでも視力は人間の数十倍らしい。
遠くを見渡すことのできる魔眼があれば、奇襲にふさわしい場所を選定するのに役に立つことだろう。
「アソコがいいんじゃないかァ? 帝国に向かう一番の近道は、あの細い街道だ」
ヴァティールの指す方向に目をやった。
確かにあの街道を通れば、最短の距離で奴隷をアレス帝国に引っ張っていける。
「ワタシの知識は300年前のものでしかないが、今でも奴隷は縄で繋いで歩かせて連れていくのだろう?」
その言葉に、俺は頷いた。
高級奴隷などは馬車に乗せて大切に連れて行くが、普通の奴隷は徒歩で連れていく。
待遇は決して良いものではないので、目的地につくまでに死んでしまう奴隷も稀ではない。
しかしそれでは、せっかくの戦利品が無駄になってしまう。
奴隷の損傷を可能な限り抑えるために、ヴァティールが指した街道を通る可能性は高い。
「やっぱりな! 今あの街道に向かって奴隷の一団が徒歩で引き立てられている。
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奴隷をつれて、まっすぐあの細い街道を行くだろう。
幸いあの街道の両側には森が広がっている。帝国の兵士を蹴散らせば、奴隷どもは森に逃げ込めるんじゃないかァ?」
紅い瞳を光らせたまま指差した先は、俺が他国に行くときに何度か使った街道だった。
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