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第7章 呪い
3.呪い
しおりを挟む「……おい、……今度こそ……本当に、リオンなのか?」
そう言って恐る恐る顔を覗き込むと、リオンはにっこりと笑った。
「そうだよ兄様…………なァんて、な?」
リオンの表情が、ニッと歪む。
「リオン、って言ったっけ? この餓鬼。
ちっこいくせに、アースラそっくりの嫌な餓鬼だ。
死んだ振りしてこのワタシをはめようだなんて、本当に末おそろしい餓鬼だ」
「……リ……リオン……?」
俺は、魔道のことはよくわからない。
しかしリオンは、何かを仕掛けようとしていた。
ただ、それは失敗したらしい。だからリオンはもう、いないのだ。
こらえようとしても頬を涙が伝う。魔獣の前でなんか、泣きたくないのに。
「……おい小僧。何を辛気臭い顔をしているのだ。鬱陶しい。
そういう顔をしたいのは、ワタシの方だ。」
魔獣はさも嫌そうに、俺を見た。
「糞チビの仕掛けたオマエの『魔縛術』は、完全にではないがワタシにかかった。
ワタシと糞チビは、今同化している。
糞チビがオマエの魔縛を受け入れた以上、アイツの意識が消えたとしても、ワタシはオマエに縛られる。
もうワタシは、主人であるオマエに移れない。そして魔力の9割以上をオマエとあのチビに縛られた。本当にむかつくが、契約に従ってオマエごときに仕えてやろう」
そう言うと魔獣は、リオンの姿のまま俺に膝を折った。
ということは……さっきのはリオン自らの体と魂を使った、魔縛の呪文だったのか。
それは成功したらしい。
しかし、今更魔縛が成功したとて何になる。
「やめてくれ……リオンは俺の大切な弟なんだ。
リオンの体でそんな事をするのは、止めてくれ……」
涙が溢れて仕方なかった。
結局リオンは幸せを掴めずに、またしても死んだのだ。
しかも罪深い俺にひざまずく、こんな体だけを残して。
「う……ぐ……ああっ……あああ……」
慟哭の声を抑えることは出来なかった。
こぶしを握り、床に這いつくばってみっともなく泣いた。
どれぐらい泣いたろう?
気がつくと、何故か魔獣が気の毒そうな顔で見おろしていた。
「……まあ……そんなに泣くなよ」
魔獣らしからぬ言葉に瞬いていると、奴はリオンの顔と声で先を続けた。
「考えてみれば、お前もあのクソ魔道士の被害者だよなァ。
まだ13歳のションベン臭いガキなのに、ここまでの責務を負わせるなんて、滅茶苦茶だよなッ!!」
何が言いたいのかわからずただ戸惑っていると、魔獣はまた喋り始めた。
「言っとくが、オマエの弟は死んだわけじゃない。
奴は未熟とはいえ、糞アースラの力を継承する忌々しい神官魔道士。
オマエと違って、簡単にワタシに飲み込まれたりはしない。
今は力のほとんどを魔縛に使い、この体の中で死んだように眠っているが、本当に死んだわけじゃない。
それにオマエたち二人には、糞アースラの邪悪で陰険な呪いがかかっている。
すなわち、不死の呪いだ。
人間ごときが使う事は許されない『最悪の外道魔法』だ」
魔獣は吐き捨てるように語った。
「……じゃあ……じゃあ、リオンは生きてるんだな……リ……リオンっっ!!!!」
「こ、こら抱きつくな暑苦しい!!
今はこのワタシ、魔獣ヴァティールがこの体を使っているのだ。離せ馬鹿者!!」
魔獣は俺を振りほどこうとしたが、俺は必死にしがみついた。
この体の中に、ちゃんとリオンがいる。
俺のせいで死んでしまったと思っていたリオンが。
二度と会えないと思っていた弟が。
どうかお前を想う俺の温もりが、少しでも伝わりますように……。
「……ったく仕方の無い馬鹿だ。
こんな暑苦しい主人に仕えねばならないなんて、最悪だ……」
魔獣ヴァティールは忌々しそうに呟いたが、何故かそれ以上振りほどこうとはしなかった。
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