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第6章 異変

7.異変

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 塔の上に、幼子を抱いた長い髪の女性が現れた。
 兵士たちに追い詰められている。

 母上!!

 兵士の一人が、母上の愛用していた肩衣をつかむ。
 母上はさっと身をひるがえすと、幼子を抱きしめたまま、高い塔の上から飛び降りた。
 金の髪が波打つように広がり、みるみる小さくなっていく。

 ドサッという重い音が響いた。

 美しかった母上は、目を背けたくなるような無残な姿となり、それでもしっかりと抱きしめられていた幼子は、首が別の場所に転がっていた。

 あれが天使のように可愛かった、ヴィアリリスの成れの果てなのか……。

 幼い体を包むのは真っ赤なワンピース。今年の誕生日に俺が贈った、白いワンピースが血の赤になっている。

 小さな靴の片方だけがその傍に、血に塗れずに転がっていた。

「お前を呪う。私たちが命がけでうち建てた理想郷を壊したお前を。
 シヴァと私は『人々が幸せに暮らせる国』を血を吐くような思いで作り上げた。
 なのに、お前は一瞬にして壊してしまった。呪われろエルシド王子。
 さっき体に浴びた稲妻は、呪いの聖印だ。
 お前はこれから『永遠』に『生き地獄』を這いずり回るがいい。
 それが今のお前に出来る、唯一の罪滅ぼしだ」

 大魔道士はそう言うと、嗤いながら消えていった。

 俺は一人残された。
 弟の亡骸を抱えたまま。

 ……どこで間違ってしまったのだろう。
 こんなはずじゃなかった。

 結界を壊すことによりリオンは自由と幸せを手にし、父王はより健全な国を作り上げると思っていた。

 なんてあっけない。

 『善の結界』に守られない我が国は、こんなにもあっけない結末を迎えた。

 長年結界に守られ続けた兵士たちは、敵兵にさえ非情にはなりきれず、その結果国を……民を守れなかった。

 俺の理想は幻想だったのだ。

 永遠の生き地獄の中を這いずり回れと、魔道士アースラは言った。
 それが唯一の罪滅ぼしになると。

 しかしそれは叶えられそうに無い。
 もう疲れたんだ。

 俺は再び落とした短剣を拾い上げると、その切っ先を深々と心臓に差し込んだ。
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