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第6章 異変
6.異変
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そのまま一気に刺し貫こうとした時、雷に打たれたような衝撃が体を襲った。
呪文も唱えていないのに、手のひらの王印が紅く浮かび上がる。
更には、何も無いはずの空間に、長い白髪の老人がいきなり現れた。
老人といってもその姿は壮健で、威厳さえあるが透けている。
「この痴れ者が!」
老人は顔をゆがめ、あざけるように罵った。
「お前のせいで、私とシヴァが作った素晴らしい『理想の国』が滅びるだろう」
「お……お前は……?」
目の前に現れた、亡霊のような男に問いかける。
「『お前』……とは口の利き方も知らぬか?
愚かな小僧よ、私の姿を見忘れたか…………」
そう言われてハッとする。
国で使われている金貨の表は、始祖王シヴァと王妃の顔が掘り込んである。
しかし裏は始祖王とともに国を作り上げたという、魔道士の姿が彫ってあった。
目の前に浮かぶその姿はまさしく、
「大魔道士アースラ……」
始祖王シヴァと共にエルシオン王国を創り上げたとされる、伝説の大魔道士。
その男に間違いない。
アースラは、蔑んだような目で俺を見下ろした。
「お前が何をしたか、見せてやる」
アースラが魔杖を振り上げたとたん、頭の中に生々しい映像が流れ込んできた。
兵士に後ろから切り殺される、中年の女性。あれはジェーンおばさんだ。
優しくて、いつも俺のいろんな愚痴を聞いてくれた。
みんなに内緒で、おいしいおやつも作ってくれた。
進軍してくる馬に踏み殺されたのは、パスカルとアベイダだ。
彼らは貴族の子弟で、俺の幼馴染でもあった。
城の中は血の赤にすっかり染まり、兵士たちの行くところ、屍が累々と積みあがっている。
我が国の兵士たちも応戦するが、ここに至っても殺すことにためらいがあるらしく、普段の演習のような冴えが無い。
――――そうだ。
精鋭と言われる彼らだって、多分人を殺したことはない。
『善の結界』に守られた領地の中では犯罪者など出ようはずもなく、暴動を鎮圧したことも……死刑制度すらもない。
俺がそうだったように、彼らは敵兵を手にかけることに、罪悪感を持っている。
たとえ技量は高くとも……戦争に慣れたアレスの兵士どものように、獣になんてなれはしない。
場面はまた切り替わり、父王が数人の部下とともに、城内の深部で勇敢に戦っている。
しかしその部下の数も一人減り、二人減り、ついには父とエドワードのみとなってしまった。
そこからは、なぶり殺しだ。
父王もエドワードも剣技には長けていたが、圧倒的な数の前にはなすすべも無い。
お互いに背を預けあって戦っていても、剣を腹に受け、肩に受け、最後にはエドワードは喉を掻ききられて、父は心臓を串刺しにされて事切れた。
「あ……ああ……」
もう、叫ぶことさえ出来なかった。
それでも容赦なく、映像は俺の頭に入り込んでくる。
呪文も唱えていないのに、手のひらの王印が紅く浮かび上がる。
更には、何も無いはずの空間に、長い白髪の老人がいきなり現れた。
老人といってもその姿は壮健で、威厳さえあるが透けている。
「この痴れ者が!」
老人は顔をゆがめ、あざけるように罵った。
「お前のせいで、私とシヴァが作った素晴らしい『理想の国』が滅びるだろう」
「お……お前は……?」
目の前に現れた、亡霊のような男に問いかける。
「『お前』……とは口の利き方も知らぬか?
愚かな小僧よ、私の姿を見忘れたか…………」
そう言われてハッとする。
国で使われている金貨の表は、始祖王シヴァと王妃の顔が掘り込んである。
しかし裏は始祖王とともに国を作り上げたという、魔道士の姿が彫ってあった。
目の前に浮かぶその姿はまさしく、
「大魔道士アースラ……」
始祖王シヴァと共にエルシオン王国を創り上げたとされる、伝説の大魔道士。
その男に間違いない。
アースラは、蔑んだような目で俺を見下ろした。
「お前が何をしたか、見せてやる」
アースラが魔杖を振り上げたとたん、頭の中に生々しい映像が流れ込んできた。
兵士に後ろから切り殺される、中年の女性。あれはジェーンおばさんだ。
優しくて、いつも俺のいろんな愚痴を聞いてくれた。
みんなに内緒で、おいしいおやつも作ってくれた。
進軍してくる馬に踏み殺されたのは、パスカルとアベイダだ。
彼らは貴族の子弟で、俺の幼馴染でもあった。
城の中は血の赤にすっかり染まり、兵士たちの行くところ、屍が累々と積みあがっている。
我が国の兵士たちも応戦するが、ここに至っても殺すことにためらいがあるらしく、普段の演習のような冴えが無い。
――――そうだ。
精鋭と言われる彼らだって、多分人を殺したことはない。
『善の結界』に守られた領地の中では犯罪者など出ようはずもなく、暴動を鎮圧したことも……死刑制度すらもない。
俺がそうだったように、彼らは敵兵を手にかけることに、罪悪感を持っている。
たとえ技量は高くとも……戦争に慣れたアレスの兵士どものように、獣になんてなれはしない。
場面はまた切り替わり、父王が数人の部下とともに、城内の深部で勇敢に戦っている。
しかしその部下の数も一人減り、二人減り、ついには父とエドワードのみとなってしまった。
そこからは、なぶり殺しだ。
父王もエドワードも剣技には長けていたが、圧倒的な数の前にはなすすべも無い。
お互いに背を預けあって戦っていても、剣を腹に受け、肩に受け、最後にはエドワードは喉を掻ききられて、父は心臓を串刺しにされて事切れた。
「あ……ああ……」
もう、叫ぶことさえ出来なかった。
それでも容赦なく、映像は俺の頭に入り込んでくる。
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