滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
50 / 437
第6章 異変

5.異変

しおりを挟む
「兄様は酷い。
 それでも僕は…………兄様が、大好きです」

 涙をたたえた瞳が、揺れた。

「まて、リオン!! 何をするつもりだ!!」

 リオンはそれには答えず、悲しそうに微笑んだ。

 音も無く刀身が、リオンの心臓に突き刺さる。
 華奢な体が、ゆっくりと傾いで床に倒れた。

「そんな!! 嘘だろ!! なあっ!!」

 飛び起きて小さな体を揺するが、答えは返らない。

「嫌だ!! さっきのは違うんだ!! なあ、目を開けてくれリオン!!」

 心臓に刺さった魔剣エラジーの刀身が、持ち主の命が消えるのに呼応し、淡い光を放ち溶けてコトンとと落ちていった。
 傷口からは血があふれ出し、リオンを抱きしめる俺の手を暖かく濡らす。

 いつまでそうしていたのだろうか。
 もう心が完全に麻痺してしまって、何も感じない。

 向こうに転がっている4つの死体も、もうどうだっていい。

 捨てた故郷の城は、おそらく落ちた。
 父母も妹も、心優しい城の人たちも皆死んでしまったに違いない。

 俺がリオンをそそのかし、連れ出したせいで。

 無敵であったはずの『結界』を作ることを放棄させて助け出した弟は、目の前で心臓を突いて死んだ。
 誰より大切にして、いっぱいの愛情を注ぎ、幸せにしてやるつもりだったのに……苦しませ悲しませ、化け物と罵って俺が殺してしまった。

 リオンは本当に俺を助けたい一心で、エラジーを振るったのだろう。
 俺は酷いことを言ったのに、それでも俺を助け続けてくれた。

 この家に俺を連れてきたのは多分、気を失った俺を休ませるため。

 実の兄でさえ恐れたこのリオンに、休む家を提供する村人は、おそらく一人も居なかった。
 だからリオンは家人が兵士にすでに殺されたこの家で、しばし俺を休ませることにしたのだ。

 さっきはランプの薄明かりの中、気がつかなかった。
 でも、よく見ると、兵士たちが踏み荒らした跡がある。

 複数の大人の足跡だ。家人を殺したのは、リオンでは無い。

 思い返せば、リオンがクロスⅦを殺したのだって、自分のためではなく俺のためだった。
 あの時は、死体を見たわけじゃなかったから実感が無かったけれど、クロスⅦを殺してしまったリオンは、泣いて震えていた。

 クロスⅦのリオンへの接し方は非人道的ではあったが、それでも自分を育ててくれた親代わりのような彼を殺すことは、本当に怖く悲しい事だったに違いない。

 俺が現れるまで、クロスⅦはリオンの世界そのものだったのだから。

「……リオンごめんな。でも俺はお前を一人になんてさせないよ。
 生まれ変わったら今度こそ……普通の兄弟として幸せに暮らそうな?」

 俺は事切れたリオンをしっかりと胸に抱き、ふわふわの髪を何度も撫でた。
 そして持っていた護身用の短剣を鞘から抜くと、さっきリオンがやったように、切っ先を自分の心臓に向ける。

 恐怖は無い。そんな心は、もうとうに麻痺してしまった。
 むしろ死は、甘い安らぎを与えてくれるような気さえしていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

処理中です...