49 / 437
第6章 異変
4.異変
しおりを挟む
気がつくと俺は、見知らぬ家のベットに寝かされていた。
いつの間にか、夜になっていたらしい。
窓辺に置かれたランプの炎が優しく揺らめいているのをぼんやりと見ていたら、そばにいたらしいリオンが、俺を心配そうに覗き込んできた。
一瞬ぎょっとするが、その顔にも服にも血はついてない。
俺の服にも。
夢だったんだ……。
そう思ってほっとした時、部屋の隅でお互いをかばうように折り重なって死んでいる、親子四人の亡骸が目に入った。
子供二人は、俺とリオンぐらいの年だ。
待てよ、今着てるこの服、俺のじゃない。
リオンが着てる服もだ。
じゃあ、これは一体誰の服なのだ?
そして此処は、誰の家なのだ?
まさか……!!
「うわああああああああああああああ!!」
再び錯乱する俺を、リオンはぎゅっと抱きしめた。
その髪からは、隠しきれない濃厚な血の匂いがする。
「離せ!! 離してくれこの化け物!! 俺に、触るなぁぁぁ!!!!」
言ってから、ハッとした。
弟の大きな瞳からみるみる涙が盛り上がり、細い顎を伝って床に落ちていった。
「……酷いです……兄様……」
抑揚の無いその声には、ゾッとするものがあった。
「僕は兄様を守ろうとしただけなのに、兄様は僕を『化け物』と呼ぶのですね……」
流れ続ける涙とは裏腹に、その瞳には狂気が宿っているように見えた。
「待て……違っ……」
抵抗する気力を失った兵士まで、皆殺しにした凄惨な光景……そしてリオンを育てたクロスⅦをためらわず殺した激しさを思い出して、思わず後ずさる。
この少年は、俺が思っていたような、可愛らしく弱いだけの存在ではない。
その気になれば、俺の命を奪うことだってたやすいだろう。
リオンの朱金の瞳は、俺をじっと見つめている。
「僕は、地下のあの神殿で、兄様のために祈りを捧げる毎日でも良かった。
クロスⅦの言うとおり、兄様のために魔力を使い、心を捧げ、一生陽の当たらぬ地下で暮らしても良かった。
でも、兄様が一緒に行こうとおっしゃって下さったから、僕は大好きな兄様の言うことをきいた。
…………兄様だけを信じて、ここまで来たのに……」
すらりとエラジーが、引き抜かれる。
百数十人もの血を吸ったであろうその刀は、どこまでも澄んでいて、刃こぼれ一つ無く鋭い光を宿している。
……ああ、俺はもう逃げられない。
俺の腕ではこの弟に、到底届かない。
今から俺は弟に殺されて、ここで死ぬのだ。
そう思ってごくりと喉を鳴らしたとき、リオンは刃を自分の方に向けた。
いつの間にか、夜になっていたらしい。
窓辺に置かれたランプの炎が優しく揺らめいているのをぼんやりと見ていたら、そばにいたらしいリオンが、俺を心配そうに覗き込んできた。
一瞬ぎょっとするが、その顔にも服にも血はついてない。
俺の服にも。
夢だったんだ……。
そう思ってほっとした時、部屋の隅でお互いをかばうように折り重なって死んでいる、親子四人の亡骸が目に入った。
子供二人は、俺とリオンぐらいの年だ。
待てよ、今着てるこの服、俺のじゃない。
リオンが着てる服もだ。
じゃあ、これは一体誰の服なのだ?
そして此処は、誰の家なのだ?
まさか……!!
「うわああああああああああああああ!!」
再び錯乱する俺を、リオンはぎゅっと抱きしめた。
その髪からは、隠しきれない濃厚な血の匂いがする。
「離せ!! 離してくれこの化け物!! 俺に、触るなぁぁぁ!!!!」
言ってから、ハッとした。
弟の大きな瞳からみるみる涙が盛り上がり、細い顎を伝って床に落ちていった。
「……酷いです……兄様……」
抑揚の無いその声には、ゾッとするものがあった。
「僕は兄様を守ろうとしただけなのに、兄様は僕を『化け物』と呼ぶのですね……」
流れ続ける涙とは裏腹に、その瞳には狂気が宿っているように見えた。
「待て……違っ……」
抵抗する気力を失った兵士まで、皆殺しにした凄惨な光景……そしてリオンを育てたクロスⅦをためらわず殺した激しさを思い出して、思わず後ずさる。
この少年は、俺が思っていたような、可愛らしく弱いだけの存在ではない。
その気になれば、俺の命を奪うことだってたやすいだろう。
リオンの朱金の瞳は、俺をじっと見つめている。
「僕は、地下のあの神殿で、兄様のために祈りを捧げる毎日でも良かった。
クロスⅦの言うとおり、兄様のために魔力を使い、心を捧げ、一生陽の当たらぬ地下で暮らしても良かった。
でも、兄様が一緒に行こうとおっしゃって下さったから、僕は大好きな兄様の言うことをきいた。
…………兄様だけを信じて、ここまで来たのに……」
すらりとエラジーが、引き抜かれる。
百数十人もの血を吸ったであろうその刀は、どこまでも澄んでいて、刃こぼれ一つ無く鋭い光を宿している。
……ああ、俺はもう逃げられない。
俺の腕ではこの弟に、到底届かない。
今から俺は弟に殺されて、ここで死ぬのだ。
そう思ってごくりと喉を鳴らしたとき、リオンは刃を自分の方に向けた。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

無自覚な
ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。
1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに
イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。
それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて
いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外
何をやっても平凡だった。
そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる
それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない
そんな存在にまで上り積めていた。
こんな僕でも優しくしてくれる義兄と
僕のことを嫌ってる義弟。
でも最近みんなの様子が変で困ってます
無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる