滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
48 / 437
第6章 異変

3.異変

しおりを挟む
「……兄様、お怪我はありませんか?」

 心配そうに触れてきたリオンの手は、血でドロリとぬめっていた。

「は……放せ!!」

 どうして、こんな言葉をかけてしまったのか。
 リオンは命がけで俺を助けてくれたのに。

 俺の大事な弟なのに。

 でも俺は、こんなにも大量の殺戮を見たのは初めてだった。
 本当に気が動転していた。
 伸ばされた手を思わず振り払い、そのままぺたんと尻もちをついた。

 怯えていたのだ。
 この小さく華奢な弟に。

 その瞬間、リオンは何ともいえない悲しそうな顔をした。
 しかし新手の兵が現れるや否やそちらに向き直り、恐ろしいほどの冷徹さで殺戮を重ねていった。

 魔剣の威力は凄まじく、アレス兵たちが次々と絶命していく。
 近辺の大地は赤く染まり、悲鳴だけが響き渡る。

 もはやリオンに怯えているのは俺だけではなかった。
 体格のいい大人の敵兵ですら、リオンの化け物じみた戦い方に怯えていた。
 遠巻きに覗いていた数人の村人でさえ。

 半時たったその後、動く敵兵はもう居なかった。
 リオンに一閃で切り殺された敵の死体だけが、恨めしそうに宙を睨んだまま折り重なっている。

「うわあああああああああああああああああ!!!!」

 あの優しくて気の弱い、少女のように愛いらしい弟がこんな風に人を。
 精神がどうしてもついていかなかったのだろう、俺はそのまま意識を手放した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

悪役令息に転生しけど楽しまない選択肢はない!

みりん
BL
ユーリは前世の記憶を思い出した! そして自分がBL小説の悪役令息だということに気づく。 こんな美形に生まれたのに楽しまないなんてありえない! 主人公受けです。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

処理中です...