上 下
44 / 437
第5章 外の世界

7.外の世界

しおりを挟む
 ここに来て数日がたった。

 王宮にいた頃とは全く違う暮らしに戸惑うことは多かったけど、それでも慣れればどうと言うことはない。

 最初、料理は近くの山里まで出かけて行って買っていた。
 歩いて1時間以上かかるけど、作れないのだから仕方ない。

 でも、そのうち料理店のおばさんと仲良くなり、料理の方法も教わって不自由することは無くなった。

「はい、リオン、あ~んして?」

「美味しいっ! 兄様の料理はいつもとっても美味しいですっ!」

 リオンが、ほっぺを押さえるようにして言う。

 ああ可愛い!!
 料理を覚えて本当に良かった!!

 リオンは掃除は上手かった。けれど、料理は下手だった。
 なので、料理は主に俺が作っている。

 リオンは今まで誰かが『料理』をしているところは、1回も見たことが無いらしい。
 調味料の存在さえも知らなかったリオンに、いきなり料理が出来るわけがない。

 でも俺は、厨房のおばさんに可愛がられていたので、少しはイメージがわく。
 ちょっとした手伝いならやらせてもらったこともあるし、簡単な料理なら、すぐに出来るようになった。

 今のところ、リオンの役目は、単純な野菜切り作業や味見だ。

 最初、弟に野菜切り係をお願いしたときは、ビックリした。
 弟は、地下神殿から持ち出してきていたらしい、あの魔剣で野菜を切ろうとしたのだ。

 エラジーという名のあの魔剣は、未使用持にはとても小さくなる。
 なので、俺はリオンがそんなものを持ち出していたことにすら、気がついていなかった。

 慌てて止めて、普通の包丁の使い方を教えると、間もなく上手にできるようになった。

 リオンが一生懸命野菜を切っている姿は、とても可愛い。
 新緑色のエプロンをつけて、リズム良く野菜を刻むと、淡い金の髪が柔らかに揺れる。俺はそのさまに、思わず見とれてしまう。

 噂に聞く『庶民の新妻』ってきっとこういうのだろうな~~。
 カワイイな~~。

 ……ハッ!

 いけない、いけない。
 またオカシナ妄想をするところだった。いい加減にしろ、俺っ!!

 しかし俺の弟は、本当にかわゆいのだ。
 野菜を切っている姿も可愛いけど、味見している姿は、更にかわゆくて悩ましい。

 俺が差し出すスプーンに小さな唇を寄せ、鈴の音のような透き通る声で、

「美味しいです。兄様」

 と、本当に嬉しそうに微笑む、弟の姿。

 ああ、『生きてて良かった』と神に感謝するレベルである。

 教育係エドワードの、

「どこの新婚さんですか?」

 という、冷たい空耳がまた聞こえてきたような気がしたけれど、可愛いんだからしょうがないだろうっ!!

 可愛過ぎる弟の喜ぶ顔が見たくて、俺の料理の腕は、どんどん上達していった。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺のスキルは〚幸運〛だけ…運が良ければ世の中なんとか成るもんだ(笑)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:441pt お気に入り:99

天獄パラドクス~夢魔と不良とギリギリライフ

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:54

【本編完結】絶対零度の王子様をうっかり溶かしちゃってた件。

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,778

【完】性依存した末の王子の奴隷は一流

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:55

国王陛下に溺愛されて~メイド騎士の攻防戦~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:140

俺はモブなので。

BL / 連載中 24h.ポイント:6,010pt お気に入り:6,527

悪役?婚約破棄?要らないなら俺が貰いますね!

zzz
BL / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:60

目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:279

処理中です...