滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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第5章 外の世界

5.外の世界★

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 無事目的地に到着した俺たちは、あらかじめ用意したおいた隠れ家に移り住んだ。

 アルティナ山の中腹にある、人里から少しなれた小さな家だ。
 ここは王都から遠く離れているが、高台なので豆粒のようにだけど城が見える。

 近くには鄙びた村里があるだけで、ここまで離れれば、俺の顔を直接知っている者はまず居ないと思っても大丈夫だろう。

 居たとしても、バルコニーで手を振る、儀式用のローブを身に着けた俺を遠目に見たぐらいだろうから、きっと、今の俺の姿を見ても王子だと思いはしない。

 足がつくことが無いよう、細心の注意をして用意していた俺たちの家は、小さくとも新しく、それなりに家具は揃っていた。

「ほらリオン、今日から俺たちはここに住むんだよ。城に比べれば、かなり質素かもしれないけど……」

 塗りの無いテーブルや椅子に少々ガッカリしたけれど、こんな僻地に、王家の別荘ほどの期待をするわけにはいかない。

「わぁ! ここで、二人だけで暮らせるのですね!」

 リオンもガッカリするのではと心配したが、どうやら大丈夫そうだ。
 馬車の中ではまだ『国を捨てること』に対して後ろめたそうにしていたけど、やっと嬉しそうに笑ってくれた。

 家の中のものを珍しそうに触れて回る弟の姿は、本当に可愛くて、思わずドキリとする。
 大きなまあるい瞳も、小さなピンクの唇も、動くたびふわふわ揺れる金の髪も、信じられないくらい愛らしい。

 ああ……リオンが女の子だったらなぁ。

 いつの頃からか、俺はそういう不謹慎なことを考えるようになっていた。
 初めて会った頃も、リオンは超絶に愛らしかったが、成長した今は益々可愛らしく、美しくなっている。

 リオンこそ、かつて俺が思い描いていた『理想の結婚相手』の条件にバッチリ当てはまっているのだ。

 だからと言って、どうこうなれるとまでは思っていなかった。
 リオンはまだ子供だし、うちの国では兄妹婚は絶対禁止。

 ただし……いくつかの他国では、兄妹婚を認めていると聞いている。
 異母兄妹だけに限れば、その数はもっと上がる。
 財産の分離や権力の拡散を防ぎたい、貴族や豪商などが主に兄妹婚をすることが多いようだ。

 しかし、平民でもそういう国なら、一定条件を満たせば許可が下りる。

 俺がエルシオンの王位継承者であるうちは、到底無理なことだと思っていた。
 でも……いっそ、このままそういう国に行って15歳になったならリオンをお嫁さんにして……。

 はっ!

 何考えているのだ、俺は!!

 リオンは『妹』ではなく『弟』!!
 時々忘れそうになるが、少年なのだ。

 あまりにも女の子に見えるので、一度思い切って風呂に石鹸を届けに行くふりをして覗いて……じゃなくて、兄として確認してみたのだが、間違いなく男の子だった。

 その日はショックのあまり、隠れてしくしく泣いたっけ……。

 いくら『始祖王の再来』なんて言われていても、初恋が無残な形で破れたのだから、涙が落ちても仕方が無い。

 遠い目をする俺に、リオンが心配そうなまなざしを向けた。

「……兄様、どうかなさいましたか?」

「えっ! あ、いや、なんでも……」

 突然振り返った弟に、ドギマギしてしまう。
 男の子だってわかっているのに、やはりリオンは超絶可愛くて、心臓の音が早くなる。

 教育係エドワードの、

「とうとうそこまで堕ちましたか」

 という、冷たい声が聞こえたような気がした。

 堕ちてないっ!

 堕ちてないから、エドワードっっ!!!

 必死で不埒な考えを追い払おうとしていたら、じっと俺を見つめる視線に気がついた。

「兄様、頭が痛いのですか? そんなに振って。
 それに、お顔の色が少々赤いような……」

 リオンが可愛く、首をかしげている。

 う……赤面しているのを見られてしまったのか!?

 ち、違うんだ!!
 俺はノーマルだ。

 違うぅぅぅ!!!

 俺がさっきまで考えていたことが、リオンに知れたら嫌われるような気がして、必死で一歩下がる。

 しかしリオンは、そのまま俺に向かって近づいてきた。
 そうして手を伸ばす。

「兄様、かがんで下さい」

 え? 何?

 もしかして、キスされちゃうとか?
 リオンも俺のこと、好きだったとか?

 いや、そんな馬鹿な。ありえない。

 ありえないと思いつつも、ついついかがんでしまった。
 俺の、バカバカ! なんて奴なんだ。
 しっかりしろっ!!

 リオンは俺の頭を抱くようにしながら、額と額をぴとっとくっつけてきた。

「熱はないようですね。良かった!」

 ああ……そういうこと。

 ホッとしたような、がっかりしたような。
 でも、にっこりと笑う無邪気な顔が、またかわゆすぎて悩ましい。

 常々思っていたが、どーして『俺の理想のタイプ』に『弟』がガッチリ当てはまってしまうのだろう?

 望まぬ見合い……それも年上の『自称美人』ばかり押し付けられてうんざりしていた俺には、昔からささやかな夢があった。

 可愛くて性格が良くて、俺が初恋……という清楚で穢れない、ちょっと儚げな5歳ぐらい年下の女の子と、運命的な出会いをして結婚したい。

 そんな控えめで、とてもささやかな夢が。

 リオンは年は2歳しか下じゃないけど、外見はもっと幼く見える。
 そして、天使も裸足で逃げ出すぐらいの可愛さなうえ、清楚で無垢。

 いつも俺のことを大好きでいてくれて、出会いも運命的だった。

 っ……いやいや俺は何を考えているのだ。

 リオンは弟!!
 弟だからっっ!!

 だいたいウチの家系なら、すぐに背も高くなって腹筋も割れる。
 ……よし、何とか弟修正完了!!

 次は家事をなんとかしなくては。
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