滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
39 / 437
第5章 外の世界

2.外の世界

しおりを挟む
 今は深夜。

 無人のはずのその場所に、明かりがともっていた。
 窓からそっと覗くと、ジェーンおばさんが何かを作っている。

 小さい頃から馴染んでいる、ジェーンおばさんならきっと大丈夫。
 俺は思い切って、リオンを連れて中に入った。
 今日を逃せば、また計画を練り直さなくてはならなくなるからだ。

 脱出が遅くなればなるほど、俺もリオンも命の危険が増してくる。
 簡単には仕切りなおせない。

 おばさんはドアの開く音を聞いて、ぎょっとしたように振り向いた。

「ど、どうなさいました王子様? こんな遅くに……」

「え? うん。何か寝られなくて散歩してたら、ちょっとお腹すいちゃって。明かりがついてたから、来てみたんだ」

 嘘をつくのは心苦しかったが、仕方ない。
 俺とリオンが生き残れるかどうかの瀬戸際なのだから。

「まあ、そうなのですか? 相変わらずですね、王子は。
 でもこんな時間におやつを差し上げたことがばれたら、私が王妃様にしかられますよ」

 おばさんは、いつものような優しい口調で言った。

「ところで王子、その女の子は?」

 おばさんがリオンに視線を向ける。
 あ、やっぱり駄目だったか。髪も短く切ったし、何とか男の子に見えると思ったんだけどなぁ。

「……うん、昨日来た遊戯団の見習いの子なんだけど、国元が恋しいって泣いてたから、一緒に連れてきたんだ」

 俺は心を落ち着けながら、適当な事を言った。

「そういえば、以前にもそういう事がありましたねぇ。
 はい、お嬢ちゃん、お菓子をどうぞ」

 ジェーンおばさんは、戸棚から菓子を出して、リオンに渡した。
 リオンはそれを手に持ったまま、首をかしげている。

「ええ~!! 俺には駄目なのに、リオンにはいいのかよ」

「あたりまえです。
 この子にあげても、私は別に怒られませんから。
 あなた、リオンちゃんっていうの?
 まぁぁ、可愛いわねえ。色白で目が大きくて、お人形さんみたい。
 ほんとにここの王家の方々は、面食いなんだから」

 何? ジェーンおばさん。
 そういう風にじと目で見るのはやめて。
 本当は、リオンは弟なんだってば。

「ね、おばさん。おばさんの方こそ、こんな時間にどうしたの?」

 そう聞くと、おばさんは少し口ごもった。

「……その、私は料理人だからね。昼夜を問わず、研究しなくちゃならないのさ」

 そう言いつつ、すぐ後ろにある銀のトレーを隠すように立つ。
 見覚えのあるそのトレーは、俺が毎朝リオンのかわりに受け取っていたものだ。
 どうやら、地下の秘密部屋に食事を吊り下げていたのは、ジェーンおばさんだったようだ。

「王子、ウロウロするのも社会勉強だと思うけど、世の中にはウロウロしたくても出来ない子供もいるんだよ。
 お菓子を食べられない子供もね。
 さ、こんなところで油売ってないで、部屋に帰った帰った!!」

 おばさんは、俺を追い返そうとする。

 いや、帰れないんだって!!
 俺たち、これから家出するんだって!!

 どうしたものかと思っていると、突然厨房のドアが勢いよく開け放たれた。
 やってきたのは、よく顔を知っている下級兵士だった。

「王子様!! どうしてこんなところへ!!」

 兵士は、驚いたように叫んだ。
 ……しまった。何か不測の事態が起こったようだ。

 もしかして……バレた?

「……おまえこそ、こんな夜中に厨房に飛び込んでくるなんて、どうしたんだ? 
 腹でもへったのか?」

 動揺を悟られないよう兵士に聞くと、彼は敬礼しながら事情を報告し始めた。

「王子様、実は城内に、魔道を使う他国の少年神官が侵入したようです。今、王命により、その賊を探しているところです」

 げ。
 やっぱり、バレている。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

処理中です...