滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
36 / 437
第4章 鳥篭の外へ

11.鳥篭の外へ

しおりを挟む
 リオンの事が父王にばれるのではとずっと用心していたが、最近の父は忙しいらしく、エドワード共々顔を見ることすら稀となっていた。

 でも、その方が都合がいい。
 あれほど敬愛していた父だが、正直言って今会えば憎しみを覚えてしまう。

 母上は、相変わらずお優しい。
 でも、もしかしたらリオンの母親を見ている可能性がある。

 リオンの容貌は、おそらく実母から受け継いでいる。
 ばれる危険性を考えて、結局リオンと母上を会わせるのはやめた。

 どう転んでも、リオンは妾腹の生まれ。
 母上は、その妾腹の子供を哀れむ記述を日記にしたためていたが、もしリオンの正体を知ったなら、父上に告げないとも限らない。

 母の母国は、未だエルシオン王家から多大な援助を受けている。
 王妃といえど立場は弱く、夫である王の『愛情』だけが、母を守る全て。

 禁忌を犯してまでリオンを守る気持が今の母上に無かったら、俺達は終わりだ。
 そうでなくとも、母にまで罪が及ぶことは、絶対に避けたい。

 しかし妹ヴィアリリスは、別だ。
 まだ幼いあの子に罪が及ぶことはないだろうし、俺が居なくなれば、ヴィーしか国を継ぐ者はいなくなる。

 よし。ヴィーだけなら大丈夫。
 俺はリオンを妹に会わせるべく、画策した。


 わが国は伝統ある大国だが、他国の王室のように、姫の回りに何人ものおつきが居るというわけではない。

 だから、王子である俺がヴィアリリスの世話係の乳母と交渉して、自分の部屋に連れ帰る事は、そう難しくはない。

 リオンは最初、小さな小さな妹姫をこわごわと見ていた。

「あっ、あの……どのようにしたら良いのでしょうか?
 地下神殿にあった御本には、このような場合の対処方法は載っていなくて……いえ、僕が不勉強なだけでお恥ずかしいのですが、つまりその……どうして良いのか……全くわかりません」

 言いながらうつむいていくリオンの手を取り、ヴィーの頬に触れさせる。

「……暖かい……こんなに小さいのに……」

 リオンは自分の手をまじまじと見つめ、それからヴィーの頭を少し撫でてみた。

 すると、ヴィーは嬉しそうに笑った。
 見事なタイミングで、それはそれは嬉しそうに笑ったのである。

 いいぞ、ヴィー!!
 さすが『空気の読める幼女』と日頃からエドワードに褒められているだけの事はある。(俺はけなされているが)

 リオンはその笑顔を見て安心したのか、少しためらった後、俺がやって見せたようにヴィアリリスを抱き上げた。

「抱っこ……上手に出来たな、リオン!」

 褒めてやると、リオンも良い笑顔で微笑み返してくる。とても幸せそうに。
 地下に閉じ込められてさえいなければ、こうやって兄妹3人で仲良く過ごす日常があったはずなのに……。

 ヴィーは、言葉はまだあまりしゃべれない。
 でも人見知りしない子なので、リオンに抱上げられて、キャッキャとはしゃいでいる。

 ああ、俺の弟妹は本当に可愛いな。天使のようだ。
 出来るなら、3人兄弟妹としてずっと幸せに暮らしていきたかった。
 優しい母上と、優しい城の皆と一緒に、ずっとここで幸せに暮らしていきたかった。

 でも、それはもう、叶うことのない望みなのだろうか?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

処理中です...