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第3章 王家の秘密

1・王家の秘密

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 異母弟リオンと出会って、約1年の時が過ぎた。

 でも弟は相変わらず小柄で華奢で、女の子みたいに見える。
 純白の神官服をひらめかして駆けてくる様子はとても愛らしく、見合い相手の姫たちの千倍は麗しい。

 リオンは10歳で仮継承の儀式をし、クロスⅧという名を貰ったようだ。
 しかし俺は、その名で呼ぶ気にはなれない。

 リオンは俺の弟なのだ。
 そんな冷たい、形式的な官職名で呼ぶ気になどなれなくて当然だろう。

 俺はリオンに会う以外の時間は極力勉強し、真剣に武道を学んだ。
 おかげで『始祖王の再来』と周りから囁かれるようにさえなり、あれほど口うるさかったエドワードも俺に全幅の信頼を置いてくれ、監視の目も緩まってきた。

 父から与えられる以外の友人も、積極的に作った。
 いざという時、王である父にではなく『俺』に力を貸してくれる友を……そして部下が必要なのだ。

 もしもリオンの身に差し迫った危機が訪れた時には、速やかに城外に逃がせるような手はずも整えておかねば。
 幼い頃から10人以上の専属教師によって英才教育を叩き込まれてきたのは、ダテではない。

 12歳とはいえ、普通の学生が学ぶような範囲は全て学び終えた。
 雑学好きな歴史の先生から、貴族が逃走するときのそういう知識も手に入れておいた。

 俺が絶対の権力を握る時期は、まだ遠い。
 それまで、日々真剣に学ぶことが俺にできる全てだ。

 俺はいろいろなことを、時間をかけて整えていった。

 父王には何も気づかない振りをして接しながら政策を学び、外交のために国外に行くときは、出来るだけついて行った。
 いざというときが来たら、国外も視野に入れてリオンを逃がさなくては。
 だから、この目で候補地をよく見ておくのだ。

 実は、俺が国外に出られるようになったのはごく最近の話だ。
 治安の悪い外国で『たった一人の世継ぎ』に何かあってはいけないという配慮から、俺は国外に行くことは許されていなかった。

 しかし妹が生まれたとなれば別だ。それはむしろ推奨された。
 王になれば他国とも付き合っていかねばならないのだから、当然だろう。

 国外に行くのは楽しみでもあったが、やはりどの国も噂通り、わが国よりは著しく劣っている。
 いくつか良さそうな国もあったけれど、酷い国の方が圧倒的に多い。

 西側の隣国ルクラードは比較的大国だが、美しいのは城とその周辺だけ。
 奴隷制度もまだ残っているし、殺人などの重大犯罪は少ないものの、盗人など軽犯罪者は多い。

 東隣のシリウス国は他国との交易が盛んで活気があったが、そこでも多くの奴隷が鞭打たれていて、とても可哀想だった。

 わが国では、健康な者は皆、真面目に働く。
 病気や老齢で働けない者にはそれなりの社会保障があるので、食べていけないということはまずない。

 奴隷制度も建国当時からなかった。

 天災などは他国と変わらずあるが、そうなれば国民たちはこぞって寄付を差し出す。
 もちろん国からも被災地に援助はするが、ほとんどの場合は民衆からの寄付だけで事足りる。

 だから他国のように、危機に備えて莫大な資金や物資を溜め込む必要がない。
 その分だけ他国より、税も軽い。

 また、兵役の負担も他国とは比べ物にならないぐらい軽い。
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