18 / 437
第2章 名前のない少年
13.名前のない少年
しおりを挟む
諸国との小競り合いはあるといえばあるが、少なくとも王子が先陣を切って戦わねばならないような酷い戦は、俺の知る限り全く無い。
もしかして父上は……邪魔なこの『もう一人の王子』を他国向けの傭兵にでも売ってしまう気ではないのだろうか?
普段は誰にでもお優しい父上なのに、この子にだけは非情を貫いている。
それは出自に関係することなのかもしれないし、母上を慮っての事かもしれない。
でもちょっと異常すぎる。
もしかして……。
「なあ、リオン。その眼……どうしていつも包帯をしているんだ?」
「眼ですか? 本当は兄様の顔が凄く見たいのですけど、外せないのです」
はらりと包帯を取ったその下には、更にきっちりとはめ込まれ、鍵までつけられた皮の目隠しがあった。
もしやここから逃げられないよう、目は潰されたのではないかと危惧していた。
そこまでではなかったようでホッとしたが、俺はリオンが目隠しを取ったところを見たことがない。
なら、結局は潰されたのと同じことなのだ。
「……どうしてこんな」
目隠しにそっと指で触れる。
皮でできたそれは、とても冷たく感じた。
「さあ? 考えたこともないのでわかりません。でも、神官魔道士とは見えざるものを見、感じる存在です。多分そういう事と関係しているのではないしょうか。
神学や魔術書の勉強の時だけは外してもらえますし、もう気配や音を読めるようになったので、そんなに不自由はないのですよ?」
外の世界を知らない子供は、こんな事はなんでもないという風に笑って見せた。
多分リオンにとってはつらくもなんともない……神官候補生としてごく当然な務めなのだろう。
でも俺は心が痛んでしょうがなかった。
父を同じくする正当な王子なのに、何という待遇の差なのだろうか。
せめてもの罪滅ぼしに……。
同じ王子として生まれながら、ぬくぬくと育ってきた俺が出来る最大の贖罪をこいつにしてやりたくて、ただ抱きしめた。
でもきっとこの小さな弟は……俺が流した涙を見ることらすら一生ないのだ。
もしかして父上は……邪魔なこの『もう一人の王子』を他国向けの傭兵にでも売ってしまう気ではないのだろうか?
普段は誰にでもお優しい父上なのに、この子にだけは非情を貫いている。
それは出自に関係することなのかもしれないし、母上を慮っての事かもしれない。
でもちょっと異常すぎる。
もしかして……。
「なあ、リオン。その眼……どうしていつも包帯をしているんだ?」
「眼ですか? 本当は兄様の顔が凄く見たいのですけど、外せないのです」
はらりと包帯を取ったその下には、更にきっちりとはめ込まれ、鍵までつけられた皮の目隠しがあった。
もしやここから逃げられないよう、目は潰されたのではないかと危惧していた。
そこまでではなかったようでホッとしたが、俺はリオンが目隠しを取ったところを見たことがない。
なら、結局は潰されたのと同じことなのだ。
「……どうしてこんな」
目隠しにそっと指で触れる。
皮でできたそれは、とても冷たく感じた。
「さあ? 考えたこともないのでわかりません。でも、神官魔道士とは見えざるものを見、感じる存在です。多分そういう事と関係しているのではないしょうか。
神学や魔術書の勉強の時だけは外してもらえますし、もう気配や音を読めるようになったので、そんなに不自由はないのですよ?」
外の世界を知らない子供は、こんな事はなんでもないという風に笑って見せた。
多分リオンにとってはつらくもなんともない……神官候補生としてごく当然な務めなのだろう。
でも俺は心が痛んでしょうがなかった。
父を同じくする正当な王子なのに、何という待遇の差なのだろうか。
せめてもの罪滅ぼしに……。
同じ王子として生まれながら、ぬくぬくと育ってきた俺が出来る最大の贖罪をこいつにしてやりたくて、ただ抱きしめた。
でもきっとこの小さな弟は……俺が流した涙を見ることらすら一生ないのだ。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。

某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる