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再会小話5 だから、幸せに1
再会小話5 だから、幸せに1
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今日も晴天。さわやかな春だ。
……本来ならな。
しかしワタシは今、『まったくさわやかではない春』に悩まされていた。
「でね、ヴァティールさん。兄様ってば大勢の人の前なのに『リオンが一番可愛いよ☆』とか言って下さるんですよ~❤」
嬉しそうに頬を染めるのは、もちろんあの馬鹿兄の弟――――――いや、妻のリオンだ。
うぜェ! 限りなくうぜェ!!
毎度のことだがウゼェ!!
実はワタシはもう、何時間もコイツにこんな話を聞かされ続けている。
馬鹿兄の方はブルボア王都に用事があるとかで外出中だ。
まぁ、それは良い。
リオン一人でも強烈にウザイのに、エルまで居たらウザさ百万倍だ。
さっさとこんな話は切り上げて逃亡……いや、転進したいのだが、ワタシにはそう出来ない事情があった。
話は一週間前にさかのぼる。
とある森の遺跡の前。
ワタシは一人立っていた。
手には宿のオヤジに押し付けられた、サンドイッチ入りの可愛いバスケット。
中にはお茶まで入っていた。
人がワタシを見たならば、
『一人でピクニックに来ている寂しい奴』
と、思っただろう。
しかし違うのだ。
糞アースラが昔、荒らしたと思われる聖廟の調査に来ているのだ。
アースラというのは、かつてワタシを魔縛した邪悪で陰湿な糞魔道士だ。
ヤツは魔物の眠る廟は元より、古き時代に奇跡を起こしたとされる聖人の廟まで荒らしまくっていた。
もちろん、術の研究に使うためだ。
ワタシが接した人間は、どちらかというと善良な奴が多かった。
時々わけのわからぬことで吠え掛かるエルみたいなヤツもいるが、鬱陶しさに目をつぶれば実害はほとんどない。
だが、アースラだけは別である。
外道の中の外道!!
邪神も裸足で逃げそうな悪辣さを備えた人間。それが魔道士アースラなのだ。
時はたち、さすがのアースラも寿命でくたばった。
大変喜ばしい事である。
そしてワタシはアースラの魔縛を破り、この世によみがえることに成功した。
だが―――――奴が隠したワタシの『本体』が、どうしても見つからない。
そんなわけで、以前は仕方なくリオンの体を使っていたのだが、その後はアリシアの意志に従い、彼女の体を使っている。
とはいえ、娘は普通の人間だ。
多少の耐魔性があるとはいえ、神官魔道士として造られたリオンの体とはわけが違う。
ワタシがそれなりの術を使えば、娘の体を損なうことになるだろう。
だからワタシは、大きな術は決して使わぬと決めた。
それに出来ることなら早く、アリシアを子孫らが眠っている城の廟に戻して安らかに眠らせてもやりたい。
いかに娘の望みとはいえ、それが人間としての『本当』なのだと思うから。
そういうわけで、ワタシは世界中を旅しながら自分の本体を探し回っていた。
……本来ならな。
しかしワタシは今、『まったくさわやかではない春』に悩まされていた。
「でね、ヴァティールさん。兄様ってば大勢の人の前なのに『リオンが一番可愛いよ☆』とか言って下さるんですよ~❤」
嬉しそうに頬を染めるのは、もちろんあの馬鹿兄の弟――――――いや、妻のリオンだ。
うぜェ! 限りなくうぜェ!!
毎度のことだがウゼェ!!
実はワタシはもう、何時間もコイツにこんな話を聞かされ続けている。
馬鹿兄の方はブルボア王都に用事があるとかで外出中だ。
まぁ、それは良い。
リオン一人でも強烈にウザイのに、エルまで居たらウザさ百万倍だ。
さっさとこんな話は切り上げて逃亡……いや、転進したいのだが、ワタシにはそう出来ない事情があった。
話は一週間前にさかのぼる。
とある森の遺跡の前。
ワタシは一人立っていた。
手には宿のオヤジに押し付けられた、サンドイッチ入りの可愛いバスケット。
中にはお茶まで入っていた。
人がワタシを見たならば、
『一人でピクニックに来ている寂しい奴』
と、思っただろう。
しかし違うのだ。
糞アースラが昔、荒らしたと思われる聖廟の調査に来ているのだ。
アースラというのは、かつてワタシを魔縛した邪悪で陰湿な糞魔道士だ。
ヤツは魔物の眠る廟は元より、古き時代に奇跡を起こしたとされる聖人の廟まで荒らしまくっていた。
もちろん、術の研究に使うためだ。
ワタシが接した人間は、どちらかというと善良な奴が多かった。
時々わけのわからぬことで吠え掛かるエルみたいなヤツもいるが、鬱陶しさに目をつぶれば実害はほとんどない。
だが、アースラだけは別である。
外道の中の外道!!
邪神も裸足で逃げそうな悪辣さを備えた人間。それが魔道士アースラなのだ。
時はたち、さすがのアースラも寿命でくたばった。
大変喜ばしい事である。
そしてワタシはアースラの魔縛を破り、この世によみがえることに成功した。
だが―――――奴が隠したワタシの『本体』が、どうしても見つからない。
そんなわけで、以前は仕方なくリオンの体を使っていたのだが、その後はアリシアの意志に従い、彼女の体を使っている。
とはいえ、娘は普通の人間だ。
多少の耐魔性があるとはいえ、神官魔道士として造られたリオンの体とはわけが違う。
ワタシがそれなりの術を使えば、娘の体を損なうことになるだろう。
だからワタシは、大きな術は決して使わぬと決めた。
それに出来ることなら早く、アリシアを子孫らが眠っている城の廟に戻して安らかに眠らせてもやりたい。
いかに娘の望みとはいえ、それが人間としての『本当』なのだと思うから。
そういうわけで、ワタシは世界中を旅しながら自分の本体を探し回っていた。
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