滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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再会小話3 そうだ、バイトをしよう 

再会小話3 そうだ、バイトをしよう 4

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 お茶くみも一段落ついて休憩室に行くと、タキシード姿のエルと、花嫁姿のリオンがソファーに座っていた。

 ゲッ。

 他の休憩室に行けば良かった。
 ヨソにもあと二つあったのに……。

「どうだヴァティール。俺のリオンは最高にカワユイだろう?」

 その言葉にポッと頬を染めるリオンは、確かに一見可愛い。
 同じ部屋でタバコを吸っていた支配人もそのせいか、リオンをじっと見つめていた。

 まァ、可愛らしいことは間違いないんだよなァ……。

 しかし、式場の支配人が発した言葉を聞いてワタシは青ざめた。

「ふ~む。
 この小さいお嬢さんは確かに大変可愛らしい。部下に聞いていた以上だ。
 しかし、胸が無いというのはモデルとしては致命的だな。
 一方、こちらのお茶くみ嬢は『ブルボアの聖母』と呼ばれたアリシア様に大変よく似ているうえ、大人の色香がある。胸も大きくて大変よろしい。
 模擬結婚式の新婦役は、こちらの胸のあるお嬢さんと入れ替えて行うように」

 支配人は部下にそう言い捨て、さらに、

「巨乳こそ全て! 巨乳こそ正義!!」

 と力強く叫び、ワタシたちがボーゼンとしている間にさっさと出て行ってしまった。

「君たち、そういうわけだから頼むよ」

 残された従業員が困り顔でリオンとワタシに手を合わす。

「「嫌だッ!」」

 ワタシとエルの声が見事にハモった。

 恐る恐るリオンの方を見ると、アースラそっくりな顔で笑ってやがった。

「にーさま。僕はどうやら『兄様にはふさわしくない嫁』と世間からは見られているようですねぇ。
 胸もありませんし、仕方がないといえばそうなのですが……」

 うお、怖えェェ!!
 顔は笑っているが、目は全然笑ってねぇしッ!!

 しかし式場の従業員Aは、リオンの怖さには全く気が付いていない。

「リオンさん。そういうわけだから花嫁役は差し替えです。
 バイト代は最初の契約通り払うし、何も本当に結婚するわけじゃない。
 そうですね、君にはお茶くみの方をやってもらいましょう」

 言われてリオンが俯く。

 おっ? 案外しおらしいじゃないか。

 しかし、人間には聞き取れないような小声で何かブツブツ言ってやがる。

 ん……?

 やばッ!!
 あれは確か『滅びの呪文』のうちの一つだ。
 アースラが得意としていて、何十回か聞いたことがある。

 威力はワタシがアレス兵を焼いた術よりは格段に劣るが、この街ひとつぐらいなら簡単に崩壊させられるのは間違いない。

 脳裏に浮かんだのは地獄絵図。

「僕を『兄様の嫁』と認めない世界なんか……滅ぼしてやるっ!!」

「巨乳など皆死んでしまえ!! アーハハハハッ!!!」

 そう言って暴れまわるリオンの姿。






 
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