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幽霊出没(アッシャ小話)

幽霊出没(アッシャ小話) 3

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 『アッシャ』は極々たまに、優しそうな代のクロス神官の前に現れる。
 だがやはり、それも記録には残っていない。

 公務に必要ではないからだ。

 ちなみにクロスⅦの前には、一度も姿を見せたことがない。

 几帳面で、いつも黒い物体をぴりぴりして追い掛け回していた彼女は、どうやら『怖い人認定』されているようだ。

 まぁ無理も無い。
 リオンですら、その時の師はコワイと思っているのだから。

 神殿の奥から、唐突に水撃音が響く。
 同時にリオンの顔色が海よりも青ざめる。

「……見つけたぞアッシャども!! 今日こそは殲滅してやるっ!!
 皆殺しだっ!!」

 『アッシャ』をアレの名と決め付けたクロスⅦが、美しい銀の髪を振り乱す。
 同時に、その瞳が真紅に染まっていく。

「クロスⅦ、あれは多分アッシャという名ではな……」

 一応止めに入ってみるリオンだが、近づくと危ないので、少し距離を取り、すでに防御結界も張っている。

 ちなみにリオンの遠慮がちな言葉は、もちろん師には届いていない。

「おのれ、隙間から通風孔に逃げるとは卑怯なりっ!!
 しかしそれで逃げられると思うなよ。天井石ごと丸焼きにしてくれるわッ!!
 アーハハハハハ~!!」

 うん。全然届いちゃいない。

「落ち着いて下さいクロスⅦっ!!
 あなたが本気でやったら天井石だけでなく、神殿ごと丸焼けになりますっ!!!」

 実際は『アースラの結界』がかかっているので神殿の柱はもちろん、備品や本にいたるまでビクともしないのだが、幼いリオンはすでに半泣きだ。

 でもやっぱり、師は聞いちゃいない。
 目に留めてもいない。

 こんな師と赤ん坊の時から暮らしていたリオンなので、優しく甘やかしてくれたり、話をよく聞いてくれる兄は、きっと『天使様』のように見えたことだろう。

 目が<はぁと>になったところで誰が責められようか。


 そうして時はたち、そこには怒りにぷるぷる震える魔獣が一人。

 ……何なんだ、この記憶はっ!!

「何で我が娘アッシャがGキブリの名に使われているのだっ!!!
 おのれッ!! アースラめぇぇ~っ!!!
 オマエの陰謀かッ!!!
 死んでしまったアッシャの幻影を造ってまで、ワタシを永遠に苦しめるつもりだな!?
 そうに違いないッ!!!!」

 リオンの体を乗っ取った魔獣は、魔縛を解くヒントを得ようとして、リオンの記憶を覗き見た。

 しかし、どんなに深層まで探っても『ハズレ』や『バカップル並みの兄とのアレコレ』しかない上に、この記憶。

「一生恨みぬいてやるからなァァ!!
この人器だとて、返してはやるものかァァァァァ!!」

 ヴァティールは、リオンの姿まま盛大に吼えた。

 こうやってアースラは、身に覚えの無い事でも次々恨みを買っていたそうな。


    おわり。

ちなみに『アッシャお化け』は神殿が壊れたときに外に出たので、いつかヴァティールとも出会えるかも?

会えたらそれで気が済んで、成仏しちゃいそうな気もしますが……。 
一生懸命頑張ってもあの程度のぬるい(?)復讐しか思いつかない欲の無い子ですから。

クロスⅦは普段は冷静でむしろ淡々とした上品な人ですが、Gが出たときだけ豹変します。

女性らしいのは見かけだけで、普段から男っぽい喋り方、動作をしています。
彼女の一般常識もリオンとほとんどかわりません。
自分に性別があるかどうかも知りません。

外に出たらヤンデレになりそうな性格ですが、一生をほぼ神殿内で過ごしたため、アレさえ出なければ理知的な出来る人でした。

それでも彼女は短期間だけ、王の要請で神殿の外に出たことがあります。
なんのためかはココには書きませんが、察しがついた人は、そ~っと納得して下さると嬉しいです。
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