滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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幽霊出没(アッシャ小話)

幽霊出没(アッシャ小話) 2

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 クロスⅥとⅦのように、同じ王の子供二人が、共にクロス神官となることはめったに無い。
 だが、例外はいつの時代にもあるものだ。

 クロスⅦだけは事情があって兄王ではなく、長兄の息子―――――つまり、年の近いエルの父に仕えることになった。

 さて性格のまったく違う忌々しい先代神官が亡くなって以来、神殿は完璧なまでに美しく保たれている。

 以前は美しい額に怒りマークを貼り付けている事の多かった彼女だが、近年は『アレ』の出現も激減し、まじめで几帳面な弟子と共に穏やかに過ごすことが多い。

 先代のころ、その王から大量に差し入れられていた菓子なども断った。

 大量の菓子を兄がだらしなく食べたがゆえに『アレ』がわいたので、リオンがだらしなく育たぬよう、その諸悪の根源を物心がつく前に断ったのである。

 それでも極たまに外界から……結界すらすり抜けて『アレ』は現れる。
 さすがのアースラも、『アレ』用の結界は用意していなかったのである。

 基本、修行や教義にかかわる事以外の資料はこの神殿内には置いて無い。

 だから、『アレ』はクロスⅦにとってはいまだ『謎の生物X』である。
 その生態も、名すらもわからない。

 厳重な結界や、堅牢な壁も易々すり抜け、気配さえ完璧に消して突如現れる『アレ』は、クロスⅦにとっては大変恐ろしいものであった。

 もしかしたら――――――アースラから直接教えを乞うていた初代クロス神官なら『アレ』の正体を知っていたかもしれない。

 でも代が進むにつれ、外界の『常識』は、ボロボロと抜け落ちていっている。
 代々の王もアースラに呪われるのだけは恐ろしく思い、彼の残した玉条に従って、よほどのことがなければ外界の事はしゃべらなかった。

 だからクロスⅦが、その生物Xの正体を知る日はおそらく来ない。

 金の髪の小さな少年リオンは、師の狂乱する様子を見て「はぁ」とため息をついた。
 そして、早々にあきらめた。

 もう物心ついた頃からそうだったのだから、慣れたものである。

 どうか、黒くて平べったい『アレ』が見つかりませんように!!
 早く騒動がおさまりますように!!

 ……と、それだけを祈り、勉強の続きをしはじめる。


「アソボウ。カクレンボしよう」

 小さなリオンにそう言ったのは、今は亡きアッシャ。
 ヴァティールの養い子だった女性だ。

 元々ヴァティールに育てられていたせいか、お茶目だった『アッシャ』は死後、可愛らしい幼女の姿の『隠れんぼお化け』となっていた。

 リオンが見たのはまさにソレ。

 にっこりと笑いながら、聞いた事もない単語をしゃべる、小さな小さな人間らしきものを神殿内で見て、ビックリしたのである。

 アッシャは『アースラ』へのささやかな復讐を終え、すっかり気は済んでいた。
 同時に、『愛する夫』の安らかな死に顔を見て、一種の安心も得ていた。

 最後の心残りはやはり、養い親のヴァティールのこと。

 小さい頃、ヴァティールとよくやった『かくれんぼ』が余程楽しい記憶として残っていたのだろう。
 悪霊ではなく、このような可愛らしい、小さな小さな『お化け』となってしまっていた。

 そうして多分、

『ヴァティーがいつか見つけてくれるはずだ』

 と、信じて……以前、彼が髪を結ってくれた、その時の幼い姿のまま、ず~っと隠れながら待っているのに違いない。




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