滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

文字の大きさ
上 下
389 / 437
幽霊出没(アッシャ小話)

幽霊出没(アッシャ小話)

しおりを挟む
これは、まだリオンが幼く、エルに会う前のお話です。(今回は三人称)
全3話。

ある日神殿内で見た幽霊。
その正体は?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「クロスⅦ、『アッシャ』という言葉をご存知ですか?」

 金色の柔らかい髪を揺らしながら、小さなリオンがクロスⅦを見上げた。
 年はまだ七つほどだ。

 この少年は、人の世から隔絶された場所で生きてきた。

 幾重にも結界が張り巡らされた地下神殿の内だけが、この世で知っている事のすべて。

 師も、似たようなものではある。

 しかし勉強熱心なので、神殿内の全ての書物を読破し覚えているらしい。
 師にたずねれば、大抵は納得のいく答えを示してくれる。

「アッシャ?
 さぁ……記録には残されていないな。
 いったいどうしたというのだ?」

 答える師もまだ若い。
 男のようなしゃべり方ではあるが、それは先代の、更に前――――つまり、尊敬していた亡き師・クロスⅤをまねているだけだ。

 実際のクロスⅦは男どころか、銀髪の、世にも稀なる美女……いや、美女と美少女の両方の風情を併せ持つ、精霊のような女性だった。
 髪の色こそ違うが、その面差しと瞳の色はリオンにもよく似ている。

「実は昨日……暗がりで何度か見たのです。
 『ソレ』が自分で、そう名乗りました。
 でも、すぐに闇に溶けるように消えてしまいました」

 リオンの言葉を聞き、クロスⅦは「ふむ」と言ってしばし考え込んだ。

 もちろんその言葉に思い当たるはずもない。
 『アッシャ』という名は、アースラがすでに封じていたのだから。

 もちろん神殿内にある、どの本にも示されてない。

 それでもリオンは真面目で優秀な弟子。
 意味無く聞いてくることはないと、師はよく知っていた。

 クロスⅦは更に考え続けた結果――――不思議なことに、ハッとしたように顔を上げた。

 何か『アッシャ』について知っている事でもあったのだろうか?

「そうか。暗がりで……わかったぞっ。奴の名かっ!!
 神聖にして不可侵な神殿に悪霊のごとく現れる、黒くて平べったいアレの名だなッ!!
 即刻成敗してくれるっ!!!」

 一瞬にして青ざめたのはリオン。
 そう、師はトラウマレベルで大嫌いな『アレ』の名と勘違いしてしまったのだ。

「いえ、多分違っ……髪が長くて綺麗な小さな人間で、自分で『アッシャ』と名乗ったあと『カクレンボしよう』って……。
 ああ待って下さい、話を聞いて……」

 リオンの言葉には耳も貸さず、クロスⅦはキッと目を吊り上げ神殿内を細かくチェックして回った。

 この状態になった師に『何を言っても無駄』なのは、リオンはよく知っている。
 何せ命よりも大切とされる神聖な祈りの最中でさえ、『アレ』を発見した師は即座に儀式を中断し、抹殺するべく追い掛け回す。

 そのぐらい大嫌いなのだ。

 幼きころ、リオン同様目隠しをして育ったクロスⅦは、靴に奥ゆかしく潜む『アレ』を踏んだ。
 しかも素足。
 以来、『アレ』に関しては普段の冷静さも気品もかなぐり捨て、狂乱する。

 だらしない先代――――――つまり、クロスⅥが生きていた頃、『アレ』は時々、大発生していたようだ。
 だからリオンの師は先代のことは軽蔑しており、更にその先代だけを『師』と仰ぎ尊敬していた。

 ちなみに、だらしない先代のクロス神官は、年の離れた彼女の実兄だ。

 クロス神官は、アッシャがそうだったように、ゆっくりと年をとる。
 そうして20歳になれば、容姿はさほど変わらなくなる。

 だから兄は、クロスⅦとよく似た姿を保ったままであった。

 それが、彼女にとってはますます腹立たしい。
 性格は正反対なのに、姿だけは似るだなんて。

 だがクロス神官は、ヴァティールのように永遠の命を持つわけではない。
 魔獣の血を赤子の頃から定期的に取り込むため、体は頑健で、最大200才程度まで生きられるとされているが『不死』ではない。

 体に著しい負担をかける『善の結界』を張る使命を負うので実際は、普通の人間と同程度か、それより若くして命を終える者がほとんどだ。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

処理中です...