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葬送(ヴァティール視点外伝)

葬送(ヴァティール視点外伝)6

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 そうしてワタシは7年間の眠りについた。

 遺体は、あのヘタクソ魔道士が定期的に通って氷結するようだが、念のためワタシの魔力も使い凍らせておいた。
 あの葬儀のときと、全く変わらぬ状態で安置されているはずだ。

 廟の中は真の闇。
 しかし、魔物であるワタシにとっては真昼も同様。
 特に困ることも無い。

 7年の歳月を経て棺から起き出すため、ゆっくりと氷結を解きにかかる。
 アリシアの体を痛めぬように、ゆっくり……ゆっくり……慎重に。

 その時、引きずるような足音が聞こえた。

 ……エルだ。
 ことごとくワタシの行く手をさえぎる、あの男がまたしても現れた。

「アリシア……どうしてこんなにも早く逝ってしまったのだ……」

 奴は手にしたランプを遺体のそばに置き、七年前と全く同じセリフを吐いてから、さめざめと泣き濡れた。

 変わっていない。
 奴は1ミリルたりとも変わっていない。

 そうしてまた、ワタシの頬を撫で回すのだ。


 次の夜も、エルは廟にやってきた。
 その次の夜も、更に次の夜も。

 年なので実務からは離れて暇なようだが、もういい加減にしてくれ。
 まるで夜毎徘徊するボケじいさんだ。

 というか、奴の身内は皆そう思っているだろう。

 繰り返し、繰り返し、アリシアの冷たい体を撫でては昔話を語る。
 初期は興味深く耳を傾けていたが、さすがに100回以上も同じ話を聞くのは苦痛になってきた。

 7年といえば、人間にとっては十分長い時間のはずだ。
 そろそろ諦めても良さそうなものだが……。

 それでも同じことを繰り返すエルは、もう本当にボケているのかもしれない。

 仕方なくワタシはまた眠ることにした。 



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