383 / 437
葬送(ヴァティール視点外伝)
葬送(ヴァティール視点外伝)5
しおりを挟む
……オカシイ。
馬車は三週間たっても全く帰城しなかった。
どうやらワタシが眠っているうちに、いくつかの国を併合してそれなりの大規模国家となっていたようだ。
あの王の手腕ならそれも可能な気がしてきたが、いったいどこまで回るつもりなのだろう?
葬儀馬車が帰城したのは、結局5ヶ月後だった。
ゆっくりと静かにアリシアの死を悼みたかったのに、その頃にはもう涙さえ出ない。
ああ……疲れた。それに体中が魔よけの香で臭いし。
それでもやっと遺体が廟に安置されてホッとする。
親子二人きりの対面をいよいよ果たせるのだ。
「ここからは――――――私とアリシアの二人きりにしてくれないか?」
ワタシの言いたかったセリフをそのまま横取りし、待ち望んだ『親子の時間』を邪魔したのはもちろん、空気の全く読めない男・エルだった。
「アリシア……どうしてこんなに早く逝ってしまったのだ……」
エルの泣き癖は、ジジイになってもまったく変わっていなかった。
アリシアの死亡年齢は別に早いって程でもなく、むしろ平均よりは数年長い。
しかし奴は遺体に取りすがって延々と泣いている。
少しは成長しろよ、オイ。
さっさと引っ込め。ワタシに順番を譲れ。
しかしコイツも本当の意味では泣けていなかったのかもしれない。
というか……そういえばエルは、今までの葬儀行列でも全く泣いていなかった。
あんなに泣き虫なのに、コイツなりに我慢していたのだなァ。
それは『成長』と呼べるものなのかもしれない。
結局エルは朝方まで泣き続けた。
ジジイなのにこんなに泣き続けたら、干からびて死ぬんじゃないか?
さすがに少々心配になる。
そして、ここまでアリシアに執着されると、この体を借りて行きにくくなる。
ワタシはアリシアの体を借りて、世界中を旅して周るつもりだった。
遊びに行くのではない。ワタシの本体を探すためだ。
王にもかつて本体探しを依頼した事があるのだが、手がかり一つ見つけられなかった。
あの根性ワルのアースラが、底意地の悪さの全てをかけて隠したのだから、見つからないのはむしろ当然だろう。
ワタシとしても魔縛の効果でエルから遠く離れるわけにはいかなかったから気休めに頼んでみただけで、心から期待していたわけではない。
そうは言っても、ワタシにはやはり自身の本体が必要だ。
アリシアの体では、どんなに丁寧に扱っても千年持てば良いほうだし、いくら本人の了承があるといっても、遺体が傷む前に子孫たちの住むこの城に戻して安らかに眠らせてやりたい。
また、この体でいる限り、魔法もわずかしか使えない。
無理に強力な魔法を使えば、愛娘の体を破壊することになるからだ。
リオンと同等に近い良い体を見つければ移りたいところだが、人間の体を無理やり奪ってあの時のような思いをするのはもうコリゴリだ。
だから、本体をどうしても探したい。
しかし、うっとーしく泣き続けるこのジジイをどうしよう。
当初はエルにかけあって魔縛を完全に解いてもらい、アリシアの体を借りて旅に出るつもりだった。
でもこの有様ではおそらく無理だ。
リオンの体をたった数年借りたときでさえ、このジジイは陰々と恨みやがった。
ここでアリシアの体を無理やりエルから奪って旅に出たら、あの時みたいにしつこく、しつこく……それはそれはもう、しつこぉぉぉぉぉ~く恨まれまくるだろう。
仕方がないなァ。
もう数年待っていてやるよ。
気が済むまでアリシアの側で泣くがいい。
お前の側にはもう……お前を安心して泣かせてくれる者は、一人も居なくなってしまったのだから。
馬車は三週間たっても全く帰城しなかった。
どうやらワタシが眠っているうちに、いくつかの国を併合してそれなりの大規模国家となっていたようだ。
あの王の手腕ならそれも可能な気がしてきたが、いったいどこまで回るつもりなのだろう?
葬儀馬車が帰城したのは、結局5ヶ月後だった。
ゆっくりと静かにアリシアの死を悼みたかったのに、その頃にはもう涙さえ出ない。
ああ……疲れた。それに体中が魔よけの香で臭いし。
それでもやっと遺体が廟に安置されてホッとする。
親子二人きりの対面をいよいよ果たせるのだ。
「ここからは――――――私とアリシアの二人きりにしてくれないか?」
ワタシの言いたかったセリフをそのまま横取りし、待ち望んだ『親子の時間』を邪魔したのはもちろん、空気の全く読めない男・エルだった。
「アリシア……どうしてこんなに早く逝ってしまったのだ……」
エルの泣き癖は、ジジイになってもまったく変わっていなかった。
アリシアの死亡年齢は別に早いって程でもなく、むしろ平均よりは数年長い。
しかし奴は遺体に取りすがって延々と泣いている。
少しは成長しろよ、オイ。
さっさと引っ込め。ワタシに順番を譲れ。
しかしコイツも本当の意味では泣けていなかったのかもしれない。
というか……そういえばエルは、今までの葬儀行列でも全く泣いていなかった。
あんなに泣き虫なのに、コイツなりに我慢していたのだなァ。
それは『成長』と呼べるものなのかもしれない。
結局エルは朝方まで泣き続けた。
ジジイなのにこんなに泣き続けたら、干からびて死ぬんじゃないか?
さすがに少々心配になる。
そして、ここまでアリシアに執着されると、この体を借りて行きにくくなる。
ワタシはアリシアの体を借りて、世界中を旅して周るつもりだった。
遊びに行くのではない。ワタシの本体を探すためだ。
王にもかつて本体探しを依頼した事があるのだが、手がかり一つ見つけられなかった。
あの根性ワルのアースラが、底意地の悪さの全てをかけて隠したのだから、見つからないのはむしろ当然だろう。
ワタシとしても魔縛の効果でエルから遠く離れるわけにはいかなかったから気休めに頼んでみただけで、心から期待していたわけではない。
そうは言っても、ワタシにはやはり自身の本体が必要だ。
アリシアの体では、どんなに丁寧に扱っても千年持てば良いほうだし、いくら本人の了承があるといっても、遺体が傷む前に子孫たちの住むこの城に戻して安らかに眠らせてやりたい。
また、この体でいる限り、魔法もわずかしか使えない。
無理に強力な魔法を使えば、愛娘の体を破壊することになるからだ。
リオンと同等に近い良い体を見つければ移りたいところだが、人間の体を無理やり奪ってあの時のような思いをするのはもうコリゴリだ。
だから、本体をどうしても探したい。
しかし、うっとーしく泣き続けるこのジジイをどうしよう。
当初はエルにかけあって魔縛を完全に解いてもらい、アリシアの体を借りて旅に出るつもりだった。
でもこの有様ではおそらく無理だ。
リオンの体をたった数年借りたときでさえ、このジジイは陰々と恨みやがった。
ここでアリシアの体を無理やりエルから奪って旅に出たら、あの時みたいにしつこく、しつこく……それはそれはもう、しつこぉぉぉぉぉ~く恨まれまくるだろう。
仕方がないなァ。
もう数年待っていてやるよ。
気が済むまでアリシアの側で泣くがいい。
お前の側にはもう……お前を安心して泣かせてくれる者は、一人も居なくなってしまったのだから。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

悪役令息に転生しけど楽しまない選択肢はない!
みりん
BL
ユーリは前世の記憶を思い出した!
そして自分がBL小説の悪役令息だということに気づく。
こんな美形に生まれたのに楽しまないなんてありえない!
主人公受けです。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる