滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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葬送(ヴァティール視点外伝)

葬送(ヴァティール視点外伝)3

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 ―――――――と思ったら、入れ替わるように黒服の男たちが入ってきた。

 何だ何だ?
 何事だ?

 ワケがわからないまま、ワタシを入れたガラスの棺は葬儀の広間から運び出された。

 そうか……城の地下には王族を葬るための廟があったっけ。
 アリシアの子供は王の子供のうちの誰かと結婚したようだから、王族並みの扱いなのかもしれない。

 これから城の地下に安置されるのだろう。

 やっと一人でゆっくり悲しめる。
 早く廟に運んでくれ。

 そう思いつつ静かに横たわっていた。

 しかしワタシは、豪華な馬車に運ばれた。
 薄目を開けてみると、馬車には天井が無く、黒の幕と共に多くの花々が美しく飾りたてられていた。

 どうやら国葬のための葬儀馬車に乗せられているようだ。

 ワタシの知るアリシアは、有能ではあるがタダの侍女であった。
 しかし今は違うようだ。

 あの子供たちの顔……そしてこの仰々しい葬儀から察するに、アリシアの子供はエリスの生んだ王子……それも皇太子と婚姻したのではあるまいか?

 なら、今のアリシアの地位は『国王の義母』『皇太子の祖母』といったところか。

 そんな事を考えているうちに城の魔道士と神官、エルが棺の側に乗り込んだ。

 魔道士は時々ワタシに氷結魔法をかけた。
 アリシアの遺体を外気から守り、零下のまま保存するためだろう。

 しかし、コイツがイカン。
 魔術のレベルが相当に低いのだ。

 このドへたくそがッ!!

 そんなやり方では遺体が傷む。
 人間の魔道士はこれだから……。

 しかし、大勢の国民が見守る葬儀馬車の棺から起き上がって、

「このド下手糞ッ!!!」

 と、クレームをつけるわけにもいかないので我慢する。

 人間たちと付き合うようになって、我慢強くなったよなァ。ワタシよ。
 そうしてド下手糞の魔法の荒い部分をコッソリと補ってやる。

 葬儀の行列は延々と続いた。

 沿道には民衆が押しかけ、娘に感謝の言葉やら、別れの言葉やらを投げかけている。
 娘は最後まで立派に生き、皆に慕われていたようだ。
 さすがはワタシの娘である。

 そうしみじみしていたら、あのド下手糞がまた氷結魔法をかけてきた。

 たいした力も持たない人間の魔道士が『粗悪な氷結魔法』をかけ直すたび、イライラする。
 せめてリオンだったら、もっと上手くやったろう。

 嫌な奴だったが腕だけは確かだった。

 でも、ここに居る魔道士がどんなに下手糞でも我慢し続けるしかない。
 すべては人間たちが、我が娘を悼んでの事なのだから。

 しかし、棺でずっと横たわったままというのも中々疲れるものだ。
 ド下手糞のフォロー以外はすることも無い。

 いったいどこまで巡行するつもりなのだろう。
 城からかなり遠ざかったというのに……。

 もう日が暮れそうだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 
アリシアとエルの長男は、王の一人娘と結婚して王位を継ぎました。
ヴァティール、惜しい!!
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