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葬送(ヴァティール視点外伝)
葬送(ヴァティール視点外伝)1
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*アリシアの葬儀のお話です。
彼女の体の中で蘇ったヴァティールが想うのはいったい!?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大勢のすすり泣く声。
つま先まで長々と身にまとう絹の感触。
腕は胸の上で祈りの形に美しく組まれている。
ああ、ワタシの娘はとうとう天に旅立ったのかァ……。
ワタシの意識が目覚めたのだから、つまりはそういう事だ。
その昔、命尽きようとしていた愛娘アリシアのために、ワタシは自らを封じてこの身を捧げた。
と言っても、娘の『人間としての寿命』はそう長いものではない。
精々数十年。
いや、数千年間眠ったままになったとて、可愛い娘のためならば全くかまわなかったのだが、そうもいかない。
人は、人として生き、その寿命をまっとうするのが本当である。
魔物であるワタシでさえ親しい者を見送るのは心引き裂かれるほどつらいのに、人間ならなお耐え難く辛いだろう。
だからアリシアをこちらには引き込まず、人間のまま終わらせることにした。
寂しいが、これで良かったのだ。
ワタシはアリシアの体に入ったまま、大人しく目を瞑っていた。
本当は泣いてしまいたかったが、ここで泣いたら喪に服している周りの者たちが大パニックになるだろう。
安らな死を迎えた娘のためにも、何としても耐えねば。
魔力で涙は気化させてドンドン飛ばす。
表情は気力で固定して、変わらないように努める。
無だ。無我の境地に至るのだっ!
そうして耐えていると、わが身に取りすがっていたチビたちが、神官の祈りに合わせるようにわんわん泣き始めた。
くっ!
耐えろ。耐えるのだワタシ!!
つられてはいけない。
死体が泣くわけにはいかないだろうッ!!!
「おばあさまぁ!」
そう言っていたから、このちびどもはアリシアの孫かひ孫ではあるまいか。
ついつい薄目を開けて見てしまう。
右から三番目の子は、何とアリシアに生き写しだ。
でかしたぞアリシア!!
………………と、ついでにエル。
まさか我が娘の面影を再び見ることが出来ようとは。
そして右から二番目の子は、髪や瞳の色こそ違うがエリスによく似ている。
エルの子孫とほぼ同年齢って事は……王め、約束を破ってさっさとエリスに手を出しやがったなッ!!
後でシメに行かねば。
……って、もう彼も生きてはいないようだ。
城中の気配を探ったが、王のそれは見当たらない。エリスの気配も。
アリシアの葬儀であるというのに、あの二人の気配がないという事はつまり。
そうか、エリスもワタシが眠っている間に旅立ってしまったのか。
王はともかく、あの面子の中で一番若かったエリスにはきっと会えると思っていたのに。
ワタシはこれで『全ての娘』を失ってしまった。
いや、娘たちはこれからも私の心の中で生き続けていくのだろう。
何万年たとうと、ワタシは娘たちのことを忘れたりはしない。
まあ、エリス似の子孫を残した功績で……王のあの件はチャラとしてやるか。
王ならワタシのエリスを大切にしたに違いない。
今のワタシはアリシアの姿。
大っぴらには動けないが、後で王宮から離れた本屋にでも忍んで行って、歴史書を立ち読みしてみよう。
エリスは王妃。
もしかしたら王妃の生涯をつづった本などもあるかもしれない。
それで王の動向やエリスの人生が確認できるだろう。
彼女の体の中で蘇ったヴァティールが想うのはいったい!?
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大勢のすすり泣く声。
つま先まで長々と身にまとう絹の感触。
腕は胸の上で祈りの形に美しく組まれている。
ああ、ワタシの娘はとうとう天に旅立ったのかァ……。
ワタシの意識が目覚めたのだから、つまりはそういう事だ。
その昔、命尽きようとしていた愛娘アリシアのために、ワタシは自らを封じてこの身を捧げた。
と言っても、娘の『人間としての寿命』はそう長いものではない。
精々数十年。
いや、数千年間眠ったままになったとて、可愛い娘のためならば全くかまわなかったのだが、そうもいかない。
人は、人として生き、その寿命をまっとうするのが本当である。
魔物であるワタシでさえ親しい者を見送るのは心引き裂かれるほどつらいのに、人間ならなお耐え難く辛いだろう。
だからアリシアをこちらには引き込まず、人間のまま終わらせることにした。
寂しいが、これで良かったのだ。
ワタシはアリシアの体に入ったまま、大人しく目を瞑っていた。
本当は泣いてしまいたかったが、ここで泣いたら喪に服している周りの者たちが大パニックになるだろう。
安らな死を迎えた娘のためにも、何としても耐えねば。
魔力で涙は気化させてドンドン飛ばす。
表情は気力で固定して、変わらないように努める。
無だ。無我の境地に至るのだっ!
そうして耐えていると、わが身に取りすがっていたチビたちが、神官の祈りに合わせるようにわんわん泣き始めた。
くっ!
耐えろ。耐えるのだワタシ!!
つられてはいけない。
死体が泣くわけにはいかないだろうッ!!!
「おばあさまぁ!」
そう言っていたから、このちびどもはアリシアの孫かひ孫ではあるまいか。
ついつい薄目を開けて見てしまう。
右から三番目の子は、何とアリシアに生き写しだ。
でかしたぞアリシア!!
………………と、ついでにエル。
まさか我が娘の面影を再び見ることが出来ようとは。
そして右から二番目の子は、髪や瞳の色こそ違うがエリスによく似ている。
エルの子孫とほぼ同年齢って事は……王め、約束を破ってさっさとエリスに手を出しやがったなッ!!
後でシメに行かねば。
……って、もう彼も生きてはいないようだ。
城中の気配を探ったが、王のそれは見当たらない。エリスの気配も。
アリシアの葬儀であるというのに、あの二人の気配がないという事はつまり。
そうか、エリスもワタシが眠っている間に旅立ってしまったのか。
王はともかく、あの面子の中で一番若かったエリスにはきっと会えると思っていたのに。
ワタシはこれで『全ての娘』を失ってしまった。
いや、娘たちはこれからも私の心の中で生き続けていくのだろう。
何万年たとうと、ワタシは娘たちのことを忘れたりはしない。
まあ、エリス似の子孫を残した功績で……王のあの件はチャラとしてやるか。
王ならワタシのエリスを大切にしたに違いない。
今のワタシはアリシアの姿。
大っぴらには動けないが、後で王宮から離れた本屋にでも忍んで行って、歴史書を立ち読みしてみよう。
エリスは王妃。
もしかしたら王妃の生涯をつづった本などもあるかもしれない。
それで王の動向やエリスの人生が確認できるだろう。
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