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アリシア外伝2  掴む手

アリシア外伝2  掴む手 9

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 そうやって、平和に時が過ぎ去っていった。
 戦争による被害は甚大だったけれど、アレス帝国も、ヴァティール様に魔道兵団を叩き潰されて以来おとなしい。

 復興も、諸外国の手を借りながらではあるが急ピッチで進んでいた。

 一方ヴァティール様は、今も幽閉同然の扱いだ。
 城の中やその付近をこっそりうろつくことは出来ても、勝手に遠出することは出来ない。

 けれどそんな生活にも慣れ、私たちはそれなりに幸せだった。

「おいでアリシア」

 穏やかな声に呼ばれてみれば、窓から見える、一面の夕焼け。

 貴賓室は最上階にあるので、眺めは夕刻でなくとも、とても良い。
 しかし夕刻はまた格別で、晴れている日は、二人で夕日を眺めることが多かった。

「綺麗ですね」

 それは、飽きることの無い素晴らしい景色。
 新しく植林された木々も、城壁も、遠くにかすむ家々さえ優しい赤に染まって美しい。

 まるで、ヴァティール様の瞳の色のように。

 小さい頃は、夕刻は宿のお手伝いをしていた。
 一番忙しい時間帯なのだ。

 夕日が出ているかどうかぐらいはもちろんわかったけれど、ゆっくりと眺めたことなど無い。
 奴隷時代はなおさらだ。

 城に来てからだって忙しくて、こんな風に穏やかにただ夕日を見るなんて、ヴァティール様の侍女になってからではないだろうか?

 美しい景色に、目を細めるヴァティール様。
 本当に見せてあげたかった相手は、私ではなくアッシャちゃんだったかもしれないけれど。

 でもヴァティール様は、私とアッシャちゃんを比べるようなことはなさらなかった。 

 そもそも、比べようも無いのだろうか?

 ヴァティール様は魔物。人間ではない。
 そして、アッシャちゃんのことにはあまり触れられたくないようで、多くは語らない。

 だからアッシャちゃんがどんな子だったのか、私にはわからない。

 でもヴァティール様の子供なのだから、きっと優しく陽気な子供だったのに違いない。


 魔物であるヴァティール様は、時々、人間には出来ないとっぴな行動もなさる。
 なので、エルは相変わらずとても心配していた。

 けれどヴァティール様のそれは、私にとって不快な行動ではなかった。

 その全てに、理由も優しさもあったからだ。

 真夜中に、私の私室にいきなり転移していらしたこともあった。
 とてもビックリしたけれど、それは、私が過去の夢――――奴隷時時代の悪夢にうなされていたからのようだっだ。

「一人で泣くな。ワタシがそばに居る。
 オマエの悲しみは、ワタシが全て引き受ける」

 眠っている間に何かを口走ったのか、ヴァティール様は、私の悪行をすべてご存知だった。
 でも、私を責めたりはなさらない。

「苦労したなァ……悲しい思いをしたなァ…………」

 そう言って、ヴァティール様は、いつまでも泣きじゃくる私を抱きしめ、髪をなでて下さるのだ。


 
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