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アリシア外伝2 掴む手
アリシア外伝2 掴む手 8
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ヴァティール様のお使いで厨房に行くと、いつもおばちゃん達から質問責めにあった。
そりゃそうだろう。
ヴァティール様……つまり、『リオン』の様子は基本、私しか知らない。
そして私は、元々彼女らとは仲が良かった。
お使いに行く度、私はヴァティール様の事を当たり障りの無い程度にだけは話した。
彼が今は記憶を失って、別人格になっていること。
『リオン』ではなく、『ヴァティール』という名だと思い込んでいること…………は、もうすでに会議で取り決めて、王やエルたちが情報を流していたっけ。
その他にも彼の別人格も、意外といい人であること。
今は私ともよく喋ること。
前に取りに来た『すりおろしリンゴ』は、私のためのものだったこと。
今は部屋から出ることが出来ない事……他にもいろいろと話した。
おばちゃんたちは最初、興味本位で聞いていたようだったが、最後には涙を流し始めた。
ここに集まっている人たちのほとんどは、この戦で息子や娘、親戚や近所の子供のうち誰かを失っている。
男どもは相変わらずヴァティール様を恐ろしがっていたが、直接彼の戦い方を見ていなかったおばちゃんたちは、むしろ『小さな子供』であるリオンに同情していたようだ。
それがわかってからは、時々ヴァティール様も誘ってこっそりと厨房に行った。
うろつくとエルにばれて怒られるのだが、かわいそうなヴァティール様を閉じ込めてなんかおけない。
ヴァティール様は私がお願いしなくても、厨房ではきちんとリオンのような振舞い方をして下さった。
そうしないと、エルが困るからなのだろう。
普段は『ワタシ』なのに『僕』と言い、やけに可愛らしく喋る様に何度吹き出しそうになったことか。
可愛らしいヴァティール様は、あっという間におばちゃんたちの人気者になった。
元々見てくれは妖精のように可愛いらしいし、笑うと更に可愛い。
リオンだってこういう風にニコニコして、誰とでも喋っていたら、いくらだって友達が出来たのに。
絶対に近寄って来なかった城で働く男たちも、最初は恐る恐る……でも、最後には進んで近寄ってくるようになった。
エルは相変わらずヴァティール様のことは悪し様に言っていたけれど、まあそれは仕方ない。
ヴァティール様はエルの前ではどちらかというと悪態をつくし、リオンを失った悲しみはわかるから。
でもいつか、ヴァティール様の悲しみもわかってあげて欲しいなぁ……。
そりゃそうだろう。
ヴァティール様……つまり、『リオン』の様子は基本、私しか知らない。
そして私は、元々彼女らとは仲が良かった。
お使いに行く度、私はヴァティール様の事を当たり障りの無い程度にだけは話した。
彼が今は記憶を失って、別人格になっていること。
『リオン』ではなく、『ヴァティール』という名だと思い込んでいること…………は、もうすでに会議で取り決めて、王やエルたちが情報を流していたっけ。
その他にも彼の別人格も、意外といい人であること。
今は私ともよく喋ること。
前に取りに来た『すりおろしリンゴ』は、私のためのものだったこと。
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おばちゃんたちは最初、興味本位で聞いていたようだったが、最後には涙を流し始めた。
ここに集まっている人たちのほとんどは、この戦で息子や娘、親戚や近所の子供のうち誰かを失っている。
男どもは相変わらずヴァティール様を恐ろしがっていたが、直接彼の戦い方を見ていなかったおばちゃんたちは、むしろ『小さな子供』であるリオンに同情していたようだ。
それがわかってからは、時々ヴァティール様も誘ってこっそりと厨房に行った。
うろつくとエルにばれて怒られるのだが、かわいそうなヴァティール様を閉じ込めてなんかおけない。
ヴァティール様は私がお願いしなくても、厨房ではきちんとリオンのような振舞い方をして下さった。
そうしないと、エルが困るからなのだろう。
普段は『ワタシ』なのに『僕』と言い、やけに可愛らしく喋る様に何度吹き出しそうになったことか。
可愛らしいヴァティール様は、あっという間におばちゃんたちの人気者になった。
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リオンだってこういう風にニコニコして、誰とでも喋っていたら、いくらだって友達が出来たのに。
絶対に近寄って来なかった城で働く男たちも、最初は恐る恐る……でも、最後には進んで近寄ってくるようになった。
エルは相変わらずヴァティール様のことは悪し様に言っていたけれど、まあそれは仕方ない。
ヴァティール様はエルの前ではどちらかというと悪態をつくし、リオンを失った悲しみはわかるから。
でもいつか、ヴァティール様の悲しみもわかってあげて欲しいなぁ……。
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