滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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アリシア外伝2  掴む手

アリシア外伝2  掴む手 7

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 そのことがあって以来、ヴァティール様は、私をたいそう可愛がって下さるようになった。
 もちろん『愛人』としてではなく『わが子のように』という意味でだ。

 娘さんの髪を結うように、私の髪を結ってくださったり、遠い昔の、面白い物語を聞かせてくださったり。私を見る目は、いつだって穏やかで優しい。

 あの病気のときだって、ヴァティール様はエルの目を盗んで厨房に行き、その場に居た者たちをパニックに陥らせつつも……それは私に『すりおろしリンゴ』を食べさせるためだった。

 私はとても嬉しかった。
 もちろん、後でエルにばれて大変だったけれど。

 そういえば、ヴァティール様は当たり前のような顔をして私に『すりおろしリンゴ』を与えて下さったけれど、魔物の子供も病気のときは、すりおろしリンゴを食べるのかな?

 ヴァティール様の子供であるというアッシャちゃん……いったいどんな子だったのだろう?

 とても不思議ではあったけれど、親近感が湧く。
 まるで、『人間』みたいだなぁ。

 元気になった私は、時々ヴァティール様のお使いで厨房に行った。
 本人が行くと、周りがパニックになるからである。

 所望されるのは大抵甘いお菓子で、それが私たちのおやつとなる。

 ヴァティール様は、いつも私がお菓子を食べるさまをニコニコと見ていらっしゃった。

 娘と二人、結界牢に閉じ込められていた頃、食事は配給制で、自由には手に入らなかったらしい。

 いつか牢を出て、娘に自由に菓子を与えてやりたかった……そう、おっしゃっていたところを見ると、その『お使い』はヴァティール様のためではなく、私に菓子を食べさせるためのように思えた。

 同時に私を部屋から出し、息抜きをさせるためなのだろう。
 彼はいつも「ゆっくり行っておいで」と言うのだから。



 
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