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アリシア外伝2 掴む手
アリシア外伝2 掴む手 4
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えっ?
何、ちょ……これはいったい、どういう状況なのか!?
だいたい私は、小柄なヴァティール様よりうんと背が高い。
「あ、あのっ! 降ろして下さいませんでしょうかっ!」
半ばパニックに陥る私を彼はチラリと見た。
「嫌だ」
そう言って、私を抱き上げたまま運んでいく。
貴賓室には続きの間があって、そこは寝室となっている。
そこに至る中扉が音も無く勝手に開き、私は巨大なベッドに降ろされた。
その瞬間、昨日のヴァティール様のセリフが浮かんだ。
『なあエル。ワタシはこの女が気に入った。
とても美しいし、中々良い体をしている。私にくれないか?』
主人が美しい侍女に手をつけるなんていうのは、よく聞く話だ。
彼らは召使風情など、どう扱おうと自由だと思っている。
そして侍女たちの方も、上手く主人に取り入れば『良い待遇』にありつけるので、むしろ主人を誘惑する者すらいる。
でも私は、そんなのは嫌だ。
っていうか、昨日のあの件は『解決済み』じゃなかったのっ!?
もしかしてヴァティール様のあの優しさは…………嫌いなエルを騙すための演技だったとか???
そうよ。あんなにあっさりと諦めるなんて、おかしいじゃないの。
エルはヴァティール様をここに閉じ込めている張本人。
その婚約者を酷い目に合わせたら、さぞや胸がすくだろう。
でも私にもプライドはある。
さすがに子供の相手は嫌だ。人外の相手も嫌だ。
イケメン限定とか、金持ち万歳とか言わないから、愛人になるにしてもせめて大人と言える年齢で、最低限、人間であって欲しい。
「……おい女。青くなったり赤くなったり忙しい奴だな」
彼はそう言いながら、顔を寄せてくる。
突き飛ばした方がいいのだろうか?
でも私の振る舞いには、この国の命運がかかっている。
もし機嫌を損ねたら、この化け物は、私だけでなくこの国まで焼き尽くすかもしれない。
石のように固まっていたら、彼の額と私の額が触れた。
「少し熱があるな。人間は無理をするとすぐに死んでしまうぞ?
このまま眠れ」
そんな事は出来ないと言おうとしたそのとき、ヴァティール様が瞬き、私の意識は闇に沈んだ。
何、ちょ……これはいったい、どういう状況なのか!?
だいたい私は、小柄なヴァティール様よりうんと背が高い。
「あ、あのっ! 降ろして下さいませんでしょうかっ!」
半ばパニックに陥る私を彼はチラリと見た。
「嫌だ」
そう言って、私を抱き上げたまま運んでいく。
貴賓室には続きの間があって、そこは寝室となっている。
そこに至る中扉が音も無く勝手に開き、私は巨大なベッドに降ろされた。
その瞬間、昨日のヴァティール様のセリフが浮かんだ。
『なあエル。ワタシはこの女が気に入った。
とても美しいし、中々良い体をしている。私にくれないか?』
主人が美しい侍女に手をつけるなんていうのは、よく聞く話だ。
彼らは召使風情など、どう扱おうと自由だと思っている。
そして侍女たちの方も、上手く主人に取り入れば『良い待遇』にありつけるので、むしろ主人を誘惑する者すらいる。
でも私は、そんなのは嫌だ。
っていうか、昨日のあの件は『解決済み』じゃなかったのっ!?
もしかしてヴァティール様のあの優しさは…………嫌いなエルを騙すための演技だったとか???
そうよ。あんなにあっさりと諦めるなんて、おかしいじゃないの。
エルはヴァティール様をここに閉じ込めている張本人。
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でも私にもプライドはある。
さすがに子供の相手は嫌だ。人外の相手も嫌だ。
イケメン限定とか、金持ち万歳とか言わないから、愛人になるにしてもせめて大人と言える年齢で、最低限、人間であって欲しい。
「……おい女。青くなったり赤くなったり忙しい奴だな」
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突き飛ばした方がいいのだろうか?
でも私の振る舞いには、この国の命運がかかっている。
もし機嫌を損ねたら、この化け物は、私だけでなくこの国まで焼き尽くすかもしれない。
石のように固まっていたら、彼の額と私の額が触れた。
「少し熱があるな。人間は無理をするとすぐに死んでしまうぞ?
このまま眠れ」
そんな事は出来ないと言おうとしたそのとき、ヴァティール様が瞬き、私の意識は闇に沈んだ。
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