上 下
367 / 437
アリシア外伝2  掴む手

アリシア外伝2  掴む手 3

しおりを挟む
 私はヴァティール様付きの侍女なので、彼がいそいそと片付けているさまをぼーっと眺めていたわけではない。

「あのっ、そのようなことは私が致しますので、どうぞヴァティール様は椅子に腰かけてお待ちくださいませっ」

 私の言葉に、ヴァティール様はいつも不思議そうに首をかしげる。
 その様はどこかリオンに似ていて、胸が痛い。

「ワタシが散らかしたのだから、私が片付けるのは当然だ。
 それに人間は『劣悪な環境』に置かれると、すぐ死ぬからな。ちゃんと片付けておかないと」

 最近はウルフもカードの相手に呼ぶけれど、今この部屋に居る『人間』は私だけ。
 どうやら彼は『私のため』に片付けて下さっているようだ。

 ヴァティール様は、人間の魔道士に幽閉された経験があるため『人間は嫌い』と聞いていた。
 でも、私に危害を加えたりはなさらない。

 エルはヴァティール様を再び一室に閉じ込めようとするから、彼が来るたび、抗議のために暴れてみているだけなのだそうだ。

 そうかと思うと、ヴァティール様はビックリするほどエルに優しいときもある。
 よく掴めない方だ。

 カードを拾うため、私もしゃがむ。

 あれ?
 何だか、頭がくらくらする。

 私はある程度の年を越えてからは大変丈夫だったけれど、あれ以来休暇も無くて、朝から深夜までずっとヴァティール様の側にはべっている。

 さすがに少し、疲れたのかもしれない。

 最初は体中が痛くなるほどに緊張したけれど、この頃はそうでもなくなってきたはずなのに……いや、緊張が解けたからこそ、体にキたのかもしれない。

「おい、オマエ。どうした? 気分でも悪いのか?」

 ヴァティール様は、私の事を決して名前では呼ばない。 

 人間ではないヴァティール様にとって、人間の召使の名などはどうでもよい、つまらないものなのだろう。

「い、いえ、大丈夫ですわ。不調法をいたしまして申し訳ありません」

 プロ根性でにっこりと平静を装った瞬間、体がふわりと浮いた。
 抱き上げられていたのだ。
しおりを挟む

処理中です...