滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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外伝・アルフレッド王編・夢の国の果て

アルフレッド王編・夢の国の果て 12

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 リオンのあの幼さを見るたび、もう失ってしまったはずの私の『心』が痛んだ。
 でも私はいつも、笑って彼を送り出した。

 そして彼にしか果たせない難しい任務を次々と与えた。
 一刻も早く争いを終結させ、この地を安全な場所にするために。

 彼の願いを叶えるために。

 魔道を使うと忌まれる?
 そんな事は、どうでもいい。

 どんなに非道な魔術だろうと、生存率が上がるなら使ってかまわない。
 むしろ、どんどん使えばいい。

 私はあの子に……それでも生きて帰ってきて欲しかったから。


 あの子に生きていて欲しい。

 ただ、生きていて欲しい。

 そんな私の願いは、結局神には届かなかった。

 更に時はたち、我が国は大国アレスに蹂躙された。
 リオンはアレス兵たちによって、これ以上ないほど無残に殺され、私はそれをただ見ていることしか出来なかった。

 まるであのときの再現だ。
 私の弟が……殺されたときの……。

 私は知っているよ。神なんて本当はいない事を。
 それでも人は神に祈り、そしてまた絶望する。何千年もの間、人はそうやって生きてきた。

「あーははははは!! 良く燃えるな人間は!!
 汚い人間など皆燃えて消し炭になってしまえ!!!」

 神の代わりに現れたのは、魔物。
 圧倒的な力でアレスの大軍を焼き溶かし、『あの子』の顔で凶悪に笑った。

 魔物の名はヴァティール。

 書庫で読んだ『古い神話』の中にそのような名の魔物がいたが、同一のものかどうかはわからない。

 エルシオン建国時にアースラという大魔道士が使役したという『赤眼の凶獣』も確かそんな名だったはず。
 エルがエルシオンの王子であるなら、こちらの方はいかにもありそうだった。

 なるほど。
 リオンは多分……あの国……エルシオンの魔道神官の末だったのだ。
 おそらくは民衆からも隠された秘密裏の。

 エルの話によると、リオンはいずれ蘇るらしい。
 もし私の推測が当たっていて、リオンが伝説の大魔道士アースラの末ならば、それは不可能ではなさそうだ。

 なら、今すべきことは『悲しむこと』ではない。魔獣の懐柔だ。

 魔獣の扱いを一つでも間違えれば、滅ぶのはアレス帝国ではなく我が国。

 しかし上手く懐柔することが出来れば、この極限まで追い込まれた窮地を脱することが出来るだろう。

 時々恨めしそうにエル王子に睨まれたけど、私が一番にすべきことは国の回復と興隆なのだから仕方ない。

 恨むなら恨め。
 薄情だと軽蔑するがいい。

 それでも私は前に進まねばならない。
 死をも覚悟してして戦ったリオンのために。

 ……無意味に死んでいった我が弟のために。


 開き直って付き合ってみると、ヴァティール殿は中々の人物……いや、魔物だった。

 初見から、

『ワタシを当てにするな。ワタシは魔獣であり、神ではない』

 と、凄んだ方と同一人ぶ……同一魔物とも思われない。

 また、変に陽気なところがある。

 私に全く懐かなかったリオンと違って、ヴァティール殿は翌日にはもう、私に片手を上げて『よォ!』と笑って見せた。

 彼はリオン同様忌まれたが、どこ吹く風。
 たかが数十年でくたばる人間に何を言われようが、どうでも良いようだった。

 そうして暇そうにしている人間を見つけては、アレコレと話しかけている。
 実は彼も暇なのだ。

 人間と話すのが『一番暇つぶしとしては面白い』と彼は言っていた。

 しかし面白くないのはエルだ。
 リオンはいつまでたっても蘇りはしなかった。

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