滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)本編完結・以後番外編

結城 

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外伝・アルフレッド王編・夢の国の果て

アルフレッド王編・夢の国の果て 9

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 僕がのんびりと本を読みふけっている間に国は堕ちてしまった。
 昔、父が危惧していた通りの惨状となって。

 貴族たちは己の欲望のまま民衆を虐げ、国庫はあっという間に空になったらしい。
 爵位までもがお金で売買され、怪しげな者が王宮に入り込み、内からも外からも壊れていった。
 優しいだけの幼い王と、浅はかな母はそれに気づくことも無かったらしい。

 でもそれは、僕も同じ。
 後ろ盾の全く無かった僕のところに、王都周辺の情報は来なかった。

 王妃の報復を恐れて誰も知らせなかったのか、皇太子の座を自ら降りるような小心者など眼中になかったのか……王宮に居た者たちも、王都に住む有力者も、誰も知らせてはくれなかった。

 それでも。
 一度でも王都を訪ねていたなら、きっと異変に気がつけたはず。

 せめて密偵を送り込んでいれば早期に気がつき手が打てた。

 後悔しても、もう遅い。
 税を搾りつくされた民衆は怒りに任せて蜂起し、宮殿を蹂躙してもなお止まる様子は無い。

 僕……いや、私の国は、そうして無くなった。

 今でも私は夢に見る。
 この目では見なかったはずの、その光景を。惨状を。

 正妃様はともかく年若い、あの愛らしい弟だけでも助けてやりたかった。
 でも、それさえも出来なかった。

 民衆に捕らえられたという情報は手に入れられても、辺境に追いやられた、名ばかりの公爵である私に弟を助け出すだけの力は無かったのだ。

 そのときハタと考えた。

 エルシオンから帰国して以来、私は『争い事』は徹底して避けてきた。
 見ないようにしてきた。

 目立つような態度は避け、秀でていた能力は隠し、ひたすら地味で穏やかな領主として無難に暮らした。

 それは正しいことだったのだろうか?

『優しさ』というのは、黙って身を引くことと同義であったのだろうか……。

 私を慕ってくれたあの弟は、狼のいる牢に投げ込まれ、生きながら喰われてしまったのだと後に聞いた。

 ぬるい夢など見ている場合ではなかった。
 私が王となっていたなら、少なくともあそこまでの悲劇は起こらなかったはず。

 何を呆けていたのだろう。私のやるべきことは、身を引くことではなかった。
 戦って勝ち取ることだったのに。

 もう、すべてが遅すぎる。

 ……などと思ってはいけない。

 きっと今日これからが『私』の始まりなのだ。



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