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エリス姫外伝・願いの空
エリス姫外伝・願いの空 2
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王妃とは言っても、実は私はまだ、王とは結ばれていない。
ヴァティールが、
「エリスを泣かせたらブッ殺すッ!!!
結婚しても許可できるのは『交換日記』までッ!!」
と散々脅したせいか、王は私が大人になるまで待ってくださるという。
私は王家の娘なのでそういう覚悟はあったけれど、ありがたく王の好意をお受けした。
ゴメンナサイ。アルフレッドお兄様。
もうしばらくの間だけ『優しい兄』でいてくださいね。
時々『リオン』という少年の事を思い出す。
ほんのひととき見ただけの、恐ろしい少年。
私が王宮に来たときには存在せず、誰も口にしなかった少年。
優しくて、いつもニコニコ明るいヴァティールとは全然違う。
体は同じだというのに、暗い瞳をした魔物のように恐ろしい邪悪な少年。
ためらいもなくアリシアお姉さまを傷つけ、笑っていた。
彼のために私は、親より頼りにしていたヴァティールを失った。
泣き叫びたかったけれど、先にエル様に泣かれてしまった。それも号泣。
ズルイ。
もう大人なのに。男なのに。
先に泣かれたら、私が泣けないじゃない。
それでなくても私はエル様と違って『常にあらゆることに耐え、優しく笑っていなければいけない』立場。
ブルボア王国の民を大勢殺した『敵国の姫』が不平不満を言うなんて許されない。
常に優しく無欲、慈悲深く。
そう振舞うことで、私はこの国に居場所を作ってきた。
でもそれが出来たのは、常にヴァティールが私を支えてくれたから。
だから私は折れなかった。
今は王妃となり、この国の民たちにも愛されている。
最初は冷たかった人々が、私にも優しく笑いかけてくる。
居場所は出来た。
でもヴァティールがいないことが、こんなにも淋しい。
すっかり元気をなくしてしまった私にある日、王がこんな話をして下さった。
もうとうに滅んでしまった大国の、優しい王子たちの話。
彼らは『御伽の国』みたいな素敵な国に住んでいたけれど、とある大国……おそらくはアレス帝国――――――に攻め滅ぼされ故国を失った。
そしてこの国に身分を隠して流れ着き、ここを新しい祖国とするため頑張った。
特に弟王子は、兄とブルボア王国のために尽くし抜いたらしい。
それなのに兄や皆から『忘れられた』と思い違い、それがとても悲しくてあのような狂気に走ってしまった。
でも本当はとても優しい……普段は自分のためには何一つ望まないような大人しい子だったのだそうだ。
兄であるエル王子は弟を止められなかった事を今でも深く悔やんでいる。
悔やんで悔やんで、今にも壊れそうなほど悔やんでいるのだという。
そうなの?
あの日泣いたっきり、エル様はいつも笑っている。
若いのに重鎮に登りつめ、皆に頼りにされて、いつも楽しそうに笑っている。
もう、あの日のことは彼の中では『無かったこと』になっているのかと思っていた。
だってエル様は新婚さんだし、あのアリシアお姉さまがずっとついていて下さるし、子供だって生まれた。
だからあんな悪夢は忘れてしまいたいのかと思っていた。
でも違った。
「もし弟の事を一瞬たりとも忘れずにいることが出来たなら、きっと弟は壊れなかった。リオンとヴァティールは表情も歩き方も全然違う。
もしあの時よく見ていたら……花束を持って歩いてきた弟に『お帰り、リオン』と言ってやれたなら……きっとあんな事にはならなかった」
そう言って彼は今も悔いているのだそうだ。
ヴァティールが、
「エリスを泣かせたらブッ殺すッ!!!
結婚しても許可できるのは『交換日記』までッ!!」
と散々脅したせいか、王は私が大人になるまで待ってくださるという。
私は王家の娘なのでそういう覚悟はあったけれど、ありがたく王の好意をお受けした。
ゴメンナサイ。アルフレッドお兄様。
もうしばらくの間だけ『優しい兄』でいてくださいね。
時々『リオン』という少年の事を思い出す。
ほんのひととき見ただけの、恐ろしい少年。
私が王宮に来たときには存在せず、誰も口にしなかった少年。
優しくて、いつもニコニコ明るいヴァティールとは全然違う。
体は同じだというのに、暗い瞳をした魔物のように恐ろしい邪悪な少年。
ためらいもなくアリシアお姉さまを傷つけ、笑っていた。
彼のために私は、親より頼りにしていたヴァティールを失った。
泣き叫びたかったけれど、先にエル様に泣かれてしまった。それも号泣。
ズルイ。
もう大人なのに。男なのに。
先に泣かれたら、私が泣けないじゃない。
それでなくても私はエル様と違って『常にあらゆることに耐え、優しく笑っていなければいけない』立場。
ブルボア王国の民を大勢殺した『敵国の姫』が不平不満を言うなんて許されない。
常に優しく無欲、慈悲深く。
そう振舞うことで、私はこの国に居場所を作ってきた。
でもそれが出来たのは、常にヴァティールが私を支えてくれたから。
だから私は折れなかった。
今は王妃となり、この国の民たちにも愛されている。
最初は冷たかった人々が、私にも優しく笑いかけてくる。
居場所は出来た。
でもヴァティールがいないことが、こんなにも淋しい。
すっかり元気をなくしてしまった私にある日、王がこんな話をして下さった。
もうとうに滅んでしまった大国の、優しい王子たちの話。
彼らは『御伽の国』みたいな素敵な国に住んでいたけれど、とある大国……おそらくはアレス帝国――――――に攻め滅ぼされ故国を失った。
そしてこの国に身分を隠して流れ着き、ここを新しい祖国とするため頑張った。
特に弟王子は、兄とブルボア王国のために尽くし抜いたらしい。
それなのに兄や皆から『忘れられた』と思い違い、それがとても悲しくてあのような狂気に走ってしまった。
でも本当はとても優しい……普段は自分のためには何一つ望まないような大人しい子だったのだそうだ。
兄であるエル王子は弟を止められなかった事を今でも深く悔やんでいる。
悔やんで悔やんで、今にも壊れそうなほど悔やんでいるのだという。
そうなの?
あの日泣いたっきり、エル様はいつも笑っている。
若いのに重鎮に登りつめ、皆に頼りにされて、いつも楽しそうに笑っている。
もう、あの日のことは彼の中では『無かったこと』になっているのかと思っていた。
だってエル様は新婚さんだし、あのアリシアお姉さまがずっとついていて下さるし、子供だって生まれた。
だからあんな悪夢は忘れてしまいたいのかと思っていた。
でも違った。
「もし弟の事を一瞬たりとも忘れずにいることが出来たなら、きっと弟は壊れなかった。リオンとヴァティールは表情も歩き方も全然違う。
もしあの時よく見ていたら……花束を持って歩いてきた弟に『お帰り、リオン』と言ってやれたなら……きっとあんな事にはならなかった」
そう言って彼は今も悔いているのだそうだ。
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