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満月の贈りもの
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「ハッピーバースデイ、ツウ、ユウ」
大きなケーキを囲んで誕生会。今日は息子・蒼良(そら)の5歳の誕生日だ。
じいじとばあばも張り切って、大きな箱のプレゼントを用意してくれた。
楽しいはずの蒼良の誕生会が、本人は気に食わないのか、ずっとふてくされている。
「蒼良、どうしたの?」
「ママの嘘つき」
「えっ?」
蒼良の言っている意味がわからず、一瞬固まる。
「パパ、帰って来るって言った。蒼良の誕生日には、パパ帰って来るって言ったのに・・・パパ帰ってこない・・・パパ、パパ・・・」
大声で泣き出した蒼良を、じいじとばあばが必死になだめる。
蒼良の父親は3年前に交通事故で他界した。
当時2歳だった蒼良に父親の死を理解出来る訳もなく、とっさに遠くに仕事に行っていると言った。
しかし、いつまでも隠し通す事には無理があると実感する。
「蒼良、おいで、ここからだと良く見える」
ぐずっている蒼良をベランダに呼ぶ。
とぼとぼと私の隣に来た蒼良を、思いっきり抱き締める。
「ごめんね、蒼良。蒼良のパパ死んじゃったの。もう二度と写真の姿のパパには、会えないのよ」
「死んじゃった?」
「うん、でもほら、見て。蒼良の誕生日には、あの満月と共に帰って来るから」
今日は中秋の名月、月は大きくて丸い満月。
「わあ・・・あそこにパパいるの?なんだ、近いんだね」
そう言って蒼良は月に向かって手を伸ばす。何度も何度も掴もうとする仕草が、とてもけなげで胸が痛んだ。
「蒼良、月は近くに見えても、とても遠くにあるのよ。手では掴めないわ」
「えっ、そうなの。大きくなったら行けるかな?パパに会いに」
蒼良は本当に満月の中に父親がいると思ったらしく、そんな事を言っている。
また、嘘って言われるわね・・・でも、蒼良が楽しそうだったから、その嘘はそのままにしておいた。
それから蒼良は満月が出る度に、ベランダに出ては、月を眺めて、いろいろな話をする様になった。
蒼良にとっては、満月が父親そのものになっていった。
「父の日に絵をおくろう」と言う課題が出た時は、一人だけ大きな満月の絵を描いた。
その事でみんなにいじめられたと泣いて帰って来た。
「蒼良、文字を覚えたら、作文を書く授業があるから、その時に堂々と書きなさい。蒼良にとって、パパは死んでしまっていないけど、満月がパパの代わりだって。あの満月にパパはいると信じているって」
私はみんなと同じだと言う事が、イコールで全て良い事だとは思わない。
むしろ自分なりの考えを持って、主張出来る人間のほうが、素晴らしいと思う。
それから数年後、本当に蒼良は作文で父と月の事について書き、金賞をとった。
そして更に月日は流れた。
子供だった蒼良は立派な大人へと成長した。
「母さん、行って来ます」
近頃、父親とそっくりになってきた蒼良を頼もしく感じる様になっていた。
でも、しばらくは一人ぼっちになる。
「行ってらっしゃい。頑張るのよ。せっかく受かったんだから、途中で諦めちゃだめよ」
「解ってるよ母さん、俺、絶対に月に行くから父さんの月に行ってみせるよ」
「うん、母さん、楽しみにしているからね」
蒼良は見事、難関を突破して、宇宙飛行士になる為の学校に入学を果たした。
寮に入る息子とは、しばらくお別れで、それがとても寂しい。
「母さん、ありがとう。贈りものをくれて」
「え?何の事?」
「5歳の誕生日の時、パパに会いたいってだだをこねてた俺にくれたじゃない。満月の贈りもの」
うーん、あれを贈りものと言うのか・・・結局、嘘を教えただけだし・・・むしろ怒られても文句は言えない。
「嬉しかったよ。あんなに綺麗なものが、パパなんだって思わせてくれた母さんの優しさが嬉しかったんだ」
蒼良の素直な気持ちがすごく嬉しい。
「蒼良・・・父さんね、蒼良が大きくなったら、一緒にお酒を飲みながら、蒼良について話すのが夢だったの」
「俺について、何それ?」
「蒼良の名前はね、蒼い宇宙(そら)の様に、広い心で良い子に育って欲しい、そう言う意味を込めて「蒼良」にしたのよ」
「へえーそうなんだ。父さん、まさか俺が宇宙飛行士目指すとは思ってもみなかっただろうね」
楽しそうに笑う蒼良。
でもね、蒼良。
貴方のお父さんは元々、宇宙飛行士になりたくて、宇宙に憧れていたから、自分の息子に
それを託したくて「蒼良」にしたと言うのもあるのよ。
でも、これは内緒。
蒼良が立派な宇宙飛行士になったときに、教えてあげようと思う。
何にしても寂しいから、今度は私が満月から贈りものをもらおう。
蒼良がいないから、寂しくてどうしょうもない時は、満月を見上げて、蒼良も今、同じ月を見ていると思って頑張ろう。
満月は蒼良にだけじゃ無く、私にも贈りものをくれるのかしら。
その創造主にも似た、誰にでも平等に降り注ぐ、限りない癒やしの光で――――
大きなケーキを囲んで誕生会。今日は息子・蒼良(そら)の5歳の誕生日だ。
じいじとばあばも張り切って、大きな箱のプレゼントを用意してくれた。
楽しいはずの蒼良の誕生会が、本人は気に食わないのか、ずっとふてくされている。
「蒼良、どうしたの?」
「ママの嘘つき」
「えっ?」
蒼良の言っている意味がわからず、一瞬固まる。
「パパ、帰って来るって言った。蒼良の誕生日には、パパ帰って来るって言ったのに・・・パパ帰ってこない・・・パパ、パパ・・・」
大声で泣き出した蒼良を、じいじとばあばが必死になだめる。
蒼良の父親は3年前に交通事故で他界した。
当時2歳だった蒼良に父親の死を理解出来る訳もなく、とっさに遠くに仕事に行っていると言った。
しかし、いつまでも隠し通す事には無理があると実感する。
「蒼良、おいで、ここからだと良く見える」
ぐずっている蒼良をベランダに呼ぶ。
とぼとぼと私の隣に来た蒼良を、思いっきり抱き締める。
「ごめんね、蒼良。蒼良のパパ死んじゃったの。もう二度と写真の姿のパパには、会えないのよ」
「死んじゃった?」
「うん、でもほら、見て。蒼良の誕生日には、あの満月と共に帰って来るから」
今日は中秋の名月、月は大きくて丸い満月。
「わあ・・・あそこにパパいるの?なんだ、近いんだね」
そう言って蒼良は月に向かって手を伸ばす。何度も何度も掴もうとする仕草が、とてもけなげで胸が痛んだ。
「蒼良、月は近くに見えても、とても遠くにあるのよ。手では掴めないわ」
「えっ、そうなの。大きくなったら行けるかな?パパに会いに」
蒼良は本当に満月の中に父親がいると思ったらしく、そんな事を言っている。
また、嘘って言われるわね・・・でも、蒼良が楽しそうだったから、その嘘はそのままにしておいた。
それから蒼良は満月が出る度に、ベランダに出ては、月を眺めて、いろいろな話をする様になった。
蒼良にとっては、満月が父親そのものになっていった。
「父の日に絵をおくろう」と言う課題が出た時は、一人だけ大きな満月の絵を描いた。
その事でみんなにいじめられたと泣いて帰って来た。
「蒼良、文字を覚えたら、作文を書く授業があるから、その時に堂々と書きなさい。蒼良にとって、パパは死んでしまっていないけど、満月がパパの代わりだって。あの満月にパパはいると信じているって」
私はみんなと同じだと言う事が、イコールで全て良い事だとは思わない。
むしろ自分なりの考えを持って、主張出来る人間のほうが、素晴らしいと思う。
それから数年後、本当に蒼良は作文で父と月の事について書き、金賞をとった。
そして更に月日は流れた。
子供だった蒼良は立派な大人へと成長した。
「母さん、行って来ます」
近頃、父親とそっくりになってきた蒼良を頼もしく感じる様になっていた。
でも、しばらくは一人ぼっちになる。
「行ってらっしゃい。頑張るのよ。せっかく受かったんだから、途中で諦めちゃだめよ」
「解ってるよ母さん、俺、絶対に月に行くから父さんの月に行ってみせるよ」
「うん、母さん、楽しみにしているからね」
蒼良は見事、難関を突破して、宇宙飛行士になる為の学校に入学を果たした。
寮に入る息子とは、しばらくお別れで、それがとても寂しい。
「母さん、ありがとう。贈りものをくれて」
「え?何の事?」
「5歳の誕生日の時、パパに会いたいってだだをこねてた俺にくれたじゃない。満月の贈りもの」
うーん、あれを贈りものと言うのか・・・結局、嘘を教えただけだし・・・むしろ怒られても文句は言えない。
「嬉しかったよ。あんなに綺麗なものが、パパなんだって思わせてくれた母さんの優しさが嬉しかったんだ」
蒼良の素直な気持ちがすごく嬉しい。
「蒼良・・・父さんね、蒼良が大きくなったら、一緒にお酒を飲みながら、蒼良について話すのが夢だったの」
「俺について、何それ?」
「蒼良の名前はね、蒼い宇宙(そら)の様に、広い心で良い子に育って欲しい、そう言う意味を込めて「蒼良」にしたのよ」
「へえーそうなんだ。父さん、まさか俺が宇宙飛行士目指すとは思ってもみなかっただろうね」
楽しそうに笑う蒼良。
でもね、蒼良。
貴方のお父さんは元々、宇宙飛行士になりたくて、宇宙に憧れていたから、自分の息子に
それを託したくて「蒼良」にしたと言うのもあるのよ。
でも、これは内緒。
蒼良が立派な宇宙飛行士になったときに、教えてあげようと思う。
何にしても寂しいから、今度は私が満月から贈りものをもらおう。
蒼良がいないから、寂しくてどうしょうもない時は、満月を見上げて、蒼良も今、同じ月を見ていると思って頑張ろう。
満月は蒼良にだけじゃ無く、私にも贈りものをくれるのかしら。
その創造主にも似た、誰にでも平等に降り注ぐ、限りない癒やしの光で――――
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