痣。

藤野 優

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あいつがあいつだと気づくまでの話。

1−1

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物心ついたときから体中に痣があった。

異所性蒙古斑いしょせいもうこはんというもので96%の人は成長するに連れ消えていくものだというが、残念ながらその4%にあたっていたらしい。治療すれば治るという。




「あんたのせいで、虐待を疑われたんだけど。ふざけんじゃないわよ」

そう怒鳴って花瓶を投げつけられた。

こんな親が病院で治療を受けさせてくれるはずがなかった。


「あんたなんか産まなきゃよかった」


これで何度目のセリフだろう。もはや口癖になっているのではないかと思う。


父親が行方不明になってからというもの母親は狂ったように
毎日昼から酒を飲み、息子という名のサンドバッグに八つ当たりをしてきた。

真夜中になって酔いが回りきったのか、酔いに慣れてしまったのか
死にたい。死にたい。とビール缶を見つめながらつぶやいていた。

あるときには「ねぇいいことを思いついたわ。あなたを殺して、私も死ぬの。どぉ?いいと思わない?」
なんの小説を読んで触発されたのかは知らないが
酒臭い息を吐き散らして、俺の首に手をかけながらそう笑っていたこともあった。






そんな生活をしながらでも学校には通った。

学校でも待遇が変わることはなかった。


痣カラスとからかわれ、いくら殴っても見た目上は馴染んでしまうことをいいことに、さんざんいじめられた。

いじめアンケートというものに「殴られている」と書いたが担任は見て見ぬふりをした。
どうやらいじめっ子のトップが相当なおえらいさんで、自分の命が可愛くなったらしい。

確かに一つの犠牲だけで事が収まりついでに自分に危害が加わらないのなら、当然そっちの方がいいのだろう。

人柱という言葉が妙にしっくりきた。

今更なぜ自分が生贄に選ばれたのかなんて考えることもなかった。



なんで生きているのだろう、としばしば考えることもあった

自傷行為を知ると、痣ばかりの体に切り傷も加えられた。

殴られてできた痣は、何日間も痛みを引きずるのに切り傷は一瞬で痛みが引くものなのか、と初めて感じる痛みに高揚感を覚えた。

今では、流れる血液が肌の青さと対比されてるようで美しいと思うこともある。


手放すことができない快感に虜になり、三日間でもしないことはなかった。


いじめっ子のことは何も注意しないくせに、
手首に無数にある切り傷を見ては怒鳴りつけてくる誰かさんがいるもんだから
年中長袖を身に着けていた


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