上 下
5 / 14

第5話

しおりを挟む
「そのお友だちのアグニス様とやらに “ご飯をめぐんでください” って言えばいいだけなんじゃないか?」
「アグニス様にそんな恥ずかしいこと言えるわけないでしょ!?」
 複雑な事情があるようだが、単純にアグニス第二王子派閥の一員としてアグニス王子を頼ればいいんじゃないかと思う俺。しかし彼女は思いの外プライドが高いようだった。

「まあ痩せ我慢してでも頑張ろうとする人、俺は嫌いじゃないぜ! でもまず、こんな野党に攫われて奴隷商人に売り飛ばされても文句は言えない状況だけはどうにかしないといけないんじゃないか?」
「そうなんだけど……、ううお腹へったよぉ……(ぐー)」
 当然プライドなどでお腹が膨れるはずもなく、涙目で空腹を訴えるアルシア。とりあえず何か食いものを調達しないといけないだろうな。
 俺は魔道具なので昨日から眠たくなることも腹が減ることもない。だが装備してくれるアルシアがいないと移動もできなければスキルも制限されてしまう。最終的には人助けをして徳を積まないと人間に戻れないので、結局俺はアルシアを助けるしかないのだ。

 それに健気に尊敬する人のために頑張っている美少女を見捨てるなど俺にはできない。徳を積むこと以前に、そもそも俺はシンプルに彼女を助けたいと思った。

「じゃあ魔道具スキルを試しつつ何か食えそうなもんでも探すか」
「うん、お願い……(ぐー)」

 廃墟から出た俺たちはすぐ近くの草原で影獣(狼)を出し「何か獲物をとってこい」と命令すると、影狼はひと吠えすると駆け出した。それからしばらく、半径100メートル以内にある物体や生物を把握できる【探知(小)】と対象物の詳しい情報を得ることのできる【鑑定】を使いつつ、食えそうな野草や薬草類を採取していると影狼が戻ってきた。口に何か獲物を咥えている。鑑定してみると【風羽ウサギ:風属性の小型魔物。肉は食用可能】と出た。

「すごい!! 風羽ウサギはすばしっこくて私でも狩るのは難しいのに!!」
 思わぬご馳走にアルシアは大はしゃぎ。影狼は誇らしげに吠えると消えていった。アルシアは魔法学院で基本的な野宿や解体などのサバイバル術の訓練は受けていたようで、早速大きな肩下げバックからナイフを取り出しその場で風羽ウサギを解体。風羽ウサギを解体して得られた素材は肉、牙、毛皮、羽、小さな魔石だった。風属性を帯びた素材は武器防具、日用品として利用されるそうだ。

 お腹の減りがヤバいアルシアは拾った枝と火魔法で焚き火を起こし、肉と野草を削った枝串に刺して焼き、「神様ありがとうございます!」と言いながらモグモグと一心不乱に食べていた。作りすぎた串肉と余った素材は空間収納(小)に保存。どうやら内部はワンルームマンション2つ分くらいの大きさで時間が止まっているようであり、熱々の焼き串はそのままに、生肉や野草なんかも腐らないようだった。

 夕暮れまで狩と採取をした俺たちは、風羽ウサギ4羽、火テン2匹、カゴ1杯分の野草、薬草を得、空間収納(小)にそのまま収納した。狩を切り上げた俺たちは今日のところは廃墟に戻り休むことにした。

 初級レベルの火魔法と水魔法が使えるアルシアは、水で汚れた衣服や体を洗い焚き火で乾かしつつ、火テンを一匹解体し野草と一緒に肉串を焼いた。試しに俺も食べてみたが調味料を一切使用していないので実にワイルドな味だった。

 魔力がかなり減ったので風羽ウサギと火テンの魔石を食べたら魔力が満タンになり、魔力量・耐久値・スキルポイントが少しだけ増えていた。腹一杯になったアルシアは、生活道具一式が入った肩下げバックから寝るのに必要な布とパジャマを取り出し残りを空間収納(小)にしまうと早々に就寝した。

 夜中、風羽ウサギや火テンをゲットしたのを見られていたのか野盗らしきオッサンが近づいてきた。探知(小)を使ってみると敵は野盗オッサン一人のみだったので影狼を出しておっぱらっておいた。

 こんな麗若き美少女が人気のない場所で野宿みたいなことをしていたら、そりゃ男なら野盗じゃなくても寄ってくるというもの。複数で襲われたら影狼一体では厳しいと思うので、すぐにでも安全な鍵付きの宿に移るべきだろう。
しおりを挟む

処理中です...