上 下
4 / 4
序章

4話:パワーレベリング、星空に願いを

しおりを挟む
 ポ⚪︎モンよろしくグレーウルフをゲットした私は、ルンルン気分で狼に乗ってみることにした。騎乗道具がほしいところだけど、贅沢は言わない。この森は広大だ。ゆっくり歩いてもらったとしても、自分の足で歩くよりは格段に楽になるだろう。

 リュウ師匠はオスの3メートル級の狼に、私はメスの2.5メートル級のグレーウルフにまたがり、軽く歩かせてみた。うん、いい感じ。リュウ師匠は大荷物をかかえていたので、だいぶん楽になると喜んでいたよ。

 ただ一つ問題が…。

 それはカフェイン7とブレスレットのおかげで魔力が保たれているということだった。リュウ師匠は実験だと言って、ためしにカフェインの値が下がるまで待ってみたら、案の定グレーウルフのテイミング状態が緩み暴れ出した。そのときは慌ててクロッサム・ベリーを食べ、ことなきを得た。

 カフェインの値が5を切ったあたりでそうなったので、リュウ師匠からはカフェイン5以上をキープするようにと厳命されていた。


「お前のレベルを上げねばならんということがよくわかった」

 そう言った師匠は私にパワーレベリングを施すことを決めたようで、雑魚モンスターを瀕死の状態にさせたところで、「これでとどめを刺せ」と予備のショートソードを投げてよこした。

 私は目をつぶり、次々とモンスターの頭にショートソードを突き刺していった。その結果。

名前:佐藤花
職業;奴隷商人の弟子
レベル:8
体力:36
魔力:35(+35)
俊敏さ:33
器用さ:30
カフェイン:5(許容限界36)
スキル:鑑定、アイテムボックス、カフェインテイマー
装備品:ボーンアミュレット

 私はあっという間にレベル8になることができた。

「こんなものだな。体調はどんな調子だ?」
「レベル1のときよりも、だいぶん軽いです。というか眠い……」
 ふわ、と狼の上であくびをする私。
「ほう? あれだけカフェインのせいで眠れないとぼやいていたのにか。それは許容限界とやらに関係あるのかもしれんな」
「そうかもしれません」
 眠い。
「なら一度カフェイン断ちでもやってみるか。今の魔力なら狼たちも暴れないかもしれん。今日はここで野営だ」
 それから私とリュウ師匠は森の中で簡易テントを張り、野営をすることにした。

 狩った雑魚モンスターはその場で私のアイテムボックスに収納していた。そしてリュウ師匠は肉が食料になるホーンラビット(ツノのあるウサギモンスター)数羽を器用に捌くと木串に刺し、焚き火で塩焼きにした。

 命に感謝、いただきます! がぶり。

「ん~美味しい!」
 こんがりと焼けたパリパリの皮、ジューシーな肉の旨みがお口いっぱいに広がってヤヴァイ。アイン(オス狼)、ツヴァイ(メス狼)と名付けた狼たちもよだれをダバダバと口から垂れ流している。後であげるから待っててね。

 お腹がいっぱいになったところで、師匠から先に寝ていいとのお達しがあった。カフェインが抜けめちゃくちゃ眠くなっていた私は、師匠に火の番と狼のことを任せて眠ることにした。おやすみなさい。

 テントの中で目を瞑った私は、すぐに夢の世界へと誘われたのだった。

 ……

「起きろ、交代の時間だ」
 数刻が経ち、焚き火と狼を見ていた師匠に起こされた。
「ふああ。おはようございます師匠、狼たちはどうでしたか?」
「ああ、変わったところはなかった。カフェインの値はどうだ?」
「あ、はい……。カフェインはゼロですね。もう完全に抜け切ったみたいです」
「なるほど、これで一つ仮説の検証ができたな。じゃあ俺はもう寝るから、この砂時計が3度落ちた後起こしてくれ」
「はーい」

 そう言って外に出た私は、焚き火とその近くで丸くなって眠っているアインとツヴァイを見る。カフェインがゼロになっても特に問題はないようで、師匠の仮説は正しかったようだ。

「私、これからどうなるんだろう……」

 私は師匠がさっきまで座っていた切り株に腰掛け、時折パチパチと爆ぜる炎のゆらめきをボーっと見る。砂時計3回分はおそらく体感3時間。考える時間はたっぷりある。
 私には小説家になるという夢があった。家族もいた。数少ない友達もいた。結局卒業できなかった学校もあった。そしてあるはずだった未来が失われた。今はもう帰れない、日本《ふるさと》。私がいなくなって、悲しんでいる人もいるだろう。
 考えたってどうしようもないことだけど、どうしたって考えてしまう。この歳で夢をあきらめて、第二の人生を考えるとは思わなかった。

 でも、悲観しててもしょうがない。だって私は生きているんだから。

 そうだ、この世界でのこれからのことを考えよう。
 これまでのあまりにもワイルドすぎる生活や、まだ見ぬリュウ師匠が拠点とする街のこと。師匠が街ではどんな商売をしているのか。テイミングモンスターも増やしたいし、この世界にしかない美味しいものだってあるはずだ。

 異世界での死と隣り合わせの冒険。やっぱりどうしたって心のワクワクがとまらなかった。どうしたって作家の端くれだった頃の自分は消えてはくれやしなかった。

 それにインターネットがなくたって、紙とペンさえあれば、どこにいたって物語は書けるはずだ。肩こりが作家の職業病だった原稿用紙時代のたかだか数十年前に戻るだけの話じゃないか。出版社がないなら自分で作ってしまえばいい。

 そんな風に思えば、夢を諦める必要はないとすら思えてくるから不思議だ。リュウ師匠の住んでいる街に行ったら、真っ先に本を探そう。

「いつか私は、この冒険物語を本にします。神様見ていてください」

 私は吸い込まれそうなほど美しい星空を一人見上げ、そう願わずにはいられなかった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜

Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・ 神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する? 月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc... 新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・ とにかくやりたい放題の転生者。 何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」       「俺は静かに暮らしたいのに・・・」       「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」       「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」 そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。 そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。 もういい加減にしてくれ!!! 小説家になろうでも掲載しております

メイドな隊長戦記 ~異世界に転生してメイドしてたら、隊長と呼ばれて戦うことにもなりました~

桜梅桃李
ファンタジー
> あなたは転生(性)しました。メイド服を着て戦いますか?(Y/N)Y_   異世界に転生し、メイドとして働く少女レオナは、ひょんなことから戦闘部隊の隊長に就任(兼メイド)。部下の隊員たちは人間、エルフ、獣人等々、種族は違えど全員が女性。主や同僚のメイド、そして隊員たちに愛でられながら、今日もレオナは敵と戦う――なぜかメイド服で。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

転生先が森って神様そりゃないよ~チート使ってほのぼの生活目指します~

紫紺
ファンタジー
前世社畜のOLは死後いきなり現れた神様に異世界に飛ばされる。ここでへこたれないのが社畜OL!森の中でも何のそのチートと知識で乗り越えます! 「っていうか、体小さくね?」 あらあら~頑張れ~ ちょっ!仕事してください!! やるぶんはしっかりやってるわよ~ そういうことじゃないっ!! 「騒がしいなもう。って、誰だよっ」 そのチート幼女はのんびりライフをおくることはできるのか 無理じゃない? 無理だと思う。 無理でしょw あーもう!締まらないなあ この幼女のは無自覚に無双する!! 周りを巻き込み、困難も何のその!!かなりのお人よしで自覚なし!!ドタバタファンタジーをお楽しみくださいな♪

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

処理中です...