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序章

2話:クロッサム・ベリーとカフェイン過剰摂取

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「【カフェイン】というのがわからんな、お前わかるか?」
「えっと、カフェインは緑茶やコーヒーなどの植物に含まれるもので、眠気覚ましの覚醒効果があります。逆に飲み過ぎると眠れなくなったり、ひどい場合には依存症になったり、禁断症状が出て寝込む場合もあるのですが…」
 異世界にもお茶くらいは流石にあるだろうが、緑茶やコーヒーがあるとは限らない。似たような植物があればいいけど。

「ああ、それならクロッサム・ベリーがそれかもしれん。庶民の間でもたまに眠気覚ましに食べるし、偏食貴族がバカみたいに食べて頭痛で寝込んだという話も聞いたことがある。この辺りにも果物の木が生えてるはずだから探しに行くぞ。足元に注意して着いてこい」

 リュウさんは降ろしていた大きめなリュックサックと大きな両手剣を背負い直すと、お目当ての植物を探すため歩きだした。

「お前、靴履いてないのか。ちょっと待ってろ」
 靴下だけの状態だった私を見かねたリュウさんが、ターバンの上部な布と紐で簡易的な靴を作ってくれた。
「よし、これでだいぶんマシだろ」
「すみません師匠…」
 あとでちゃんと恩返ししないとだ。

 クロッサム・ベリーを探ししばらく歩いていると、グレーウルフなる2メートルくらいの狼モンスターが出現した。それでもリュウさんは危なげなく両手剣で一閃、真っ二つにグレーウルフを切り捨てたのだった。

 頭から真っ二つになった狼の死体を試しに鑑定してみると、どうやら雑魚モンスターらしい表記がなされていた。しかしナイフ一本もたない私では、この雑魚モンスターにすら勝てなかっただろう。というか素手で狼に勝てる人間など、大の男でもそうはいない。

 それからさらに歩き、リュウ師匠は目的の果物の木を見つけた。
 リュウ師匠は両手剣で手際よく手頃な枝を果物ごと切り落としてキャッチ。「食ってみろ」と私にクロワッサンの形をしたベリーを一房渡してくれた。
 食べる前に一応鑑定してみると、

【クロッサム・ベリー:カフェインを含有する果物。食用可能、そこそこ美味しい】

 だそうだ。

「あ、リュウ師匠、この果物、カフェイン含んでいるみたいです!」
 試しにベリーを一粒ちぎって口に放り込む私。くちに広がる爽やかな酸味が口に広がっていく。カフェイン独特の血流が早まり、頭がゆっくりと覚醒する感じが心地いい。キまる~!

 と油断していたら、若干引き気味のリュウ師匠が目に入った。違いましてよ私はお嬢様デスワ。オホホのホ。

「で、どんな感じだ?」
「あ、そうでした。ちょっと待ってください!」
 自分に鑑定! と念じると、

レベル:1
体力:7
魔力:3(+1)
俊敏さ:6
器用さ:7
カフェイン:1(許容限界7)
スキル:鑑定、アイテムボックス、カフェインテイマー

 ステータス項目に「カフェイン」が追加されていた。それに魔力に+1、とついていた。

「リュウ師匠、カフェインってステータスに書いてあるんですが、なんでしょう…?」
「詳しくはわからん。だがスキル説明から推測するに、このカフェインを消費するか維持するかして、テイミングを行うのかもしれん」
「なるほど…」
「では、ものは試しだ。一回カフェインが7以上になるまで食ってみろ」
「え? 怖いので嫌です」

 実際それで転生したわけだし。

「いいから食え。どんなスキルなのか確かめておかないと、いざという時に使えんだろう!」
「確かにそうですが! でも嫌なものは嫌です!」
「強情な弟子だ」
 躊躇する私の口に、クロッサム・ベリーを突っ込むリュウ師匠。言うことは確かに間違ってないけど、心の準備というものが。

 えーい、ままよ!

 意を決して口にぶち込まれたクロッサム・ベリーを飲み込む私。カフェイン特有の脳が覚醒する感じは相変わらずだが、それとは別に不思議な力のようなものが湧いてきている感覚があった。

 摂取量はコントロールしないといけないので、私は飲み込む都度自分を鑑定し、過剰摂取になりすぎないよう少しづつ飲み込むことを心がけた。口にぶち込まれたといっても、飲み込まない限り過剰摂取にはならないはず。ちなみに魔力の値がカフェイン1の状態だと+1だったものが、カフェイン7の状態だと+49と魔力が爆増していた。

「これ、今なら私魔法使いになれるかも!」

 とビックマウスを叩いた瞬間、事は起こった。
 カフェインの値が7に到達した後も調子に乗って果物を飲み込んでいたら、カフェイン7の数字が赤文字になってしまった。と同時に、手足が痺れ動けなくなった。助けてリュウ師匠!

「ふむ、これが許容限界に達したということか。なるほど、この状況からどのくらいで回復するのか確かめねばなるまい…」
 いや、そんなこと言ってる場合じゃ! と思っていたら、リュウ師匠は私の口に自分の指を突っ込んで口内に残った果物をかき出し、皮袋に入った水を飲ませてくれた。リュウ師匠は私の目を見て意識を確認したり、脈をとったり、呼吸を確認。

「どうやら麻痺しているだけのようだな。しばらくすれば治るだろう」
 リュウ師匠は仰向けに倒れ芋虫みたいになっている私に対してそう言うと、手頃な倒木に腰掛けて目を閉じたのだった。

 地面に倒れ、頭と体の節々がズキズキするような鈍痛とともにピクピク痙攣し続けるという地獄のような時間を味わった私だったが、30分ほどで症状も落ち着きようやく動けるようになった。

 試しに自分を鑑定すると、カフェインの数値は6になっていた。糖尿病の血糖値かよ。

「なるほど、だいたいわかった。おそらくカフェインの値が体力値以上になるまで摂取してはいけない、ということだろう。それに過剰摂取のペナルティ、麻痺状態からの回復時間は半刻ほどのようだ。わかってよかったな」

 座っていた倒木から立ち上がったリュウ師匠は私を見下ろし、悪い笑顔でそう言い放つのだった。
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