27 / 27
2
しおりを挟むどのぐらい考え込んでいたのか、髪を少し引かれる感覚に意識を戻す。
「何を考えているの?」
思ったよりも近くに、記憶より少し大人びた表情のランドルフ殿下がいた。ドキリとしたのは、誰かに似ているからなのか。
殿下の指が耳元をくすぐるように通る。
「ぼくのことだといいな」
心の内を覗かれているようで、とっさに顔を横に背ける。
ふふふ、と笑いながらランドルフ殿下の声が近づいてくる。今にも耳に息がかかりそうなほどの距離だ。
「”マリエッテ。私を見て”」
その声は、先ほどまで考えていた人の声で。
思わず正面に顔を戻せば、そこにはしてやったり顔のランドルフ王子がいた。好奇心旺盛な瞳を輝かせているところは、全く似ていない。
「どう?似てた?ドキッとした?」
「似てません。してません」
「えー。顔はそこそこ兄さんに似てるし、好みの範疇でしょ?何が足りないの?」
先ほどまでのむせ返るほどの妖しげな空気もどこかに飛んで、いつものお調子者に戻っている。
「ランドルフ殿下は、そもそも私のことを好きじゃないからですよ。そういう時はときめかないものなのです」
「大好きだよ!姉として。兄さんの前で、ぼくを選んでって言ったのは本当だし!」
ぷんぷんと膨れる様子が大変可愛らしい。
「だって腹立つでしょ。王族だからって、マリエッテに愛されて調子に乗ってるんだよ。あげくに悲しませてさ」
誰の事と言わなくても、誰のことを言っているのかわかってしまうことに苦笑いが出てしまう。
「もう昔のことですから」
「それだよ。マリエッテったら、後ろ向きに行動力があるんだから!どうせなら正面衝突すればいいのにさー」
「お兄様、マリエッテお姉さまをいじめないで!」
「いじめてないさ!口説いてるんだよ」
「お、おやめください!」
ご機嫌だったエルシー様も、ランドルフ殿下には気安くなるようでまた二人で言い合いだ。すっかり騒がしくなってしまったが、少し離れたところで待機する護衛や侍女たちは和やかな空気だ。
「ぼくも”お姉様”が悲しんでるのはいやってこと。ね、兄さんじゃなくて、ローマンにしておこうよ。いいやつだよ!」
「また、もう。ローマンもいい迷惑ですよ」
どうやらランドルフ殿下はローマンのことをいたく気に入っているらしい。そういえば、先日もローマンをおすすめしていた。
ローマンもいつまでも婚約者を決めないから、やり玉にあがるのだ。
いつものように流せば、ランドルフ殿下は呆れたように大げさに肩を落とした。
「はー、魔女の秘薬ってやつで惚れ薬でもあればいいのにな」
「お兄様ったら魔女をそんな風に使おうとするなんて!」
「エルシーの絵本では魔女は荷物を運んでいたじゃないか。御用聞きもやるんじゃないか」
「絵本は絵本ですっ!魔女を使おうとするなんて、罰当たりだわ」
エルシー様は魔女をモチーフにした絵本を気に入っているようで、何冊も所蔵している。
この国では、魔女は気まぐれな猫のように自由で、弱き者を助けるような存在として伝わっているのも、きっと絵本が一役買っているだろう。
もちろん架空の存在として、だ。
「あーあ。もし本当にいたら、王国相談役とかになってくれないかな」
「お兄さま、お隣の国では魔女は災いの元という言い伝えがあるのですよ。そんなことを言っていたら、助けに来てくれないかもしれないわ」
「うちの国にいる魔女はきっと気の利く魔女だって」
なんのかんのと言い合っている二人を仲裁するのに気を取られ、近くまで来ていたことに気付かなかった。
複数人が草を踏みしめる音、鎧が擦れる音、そして声が届きピタリと会話は止まる。
「───あら、いやだ。泥棒猫がこんなところで発情しているわ」
185
お気に入りに追加
596
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(16件)
あなたにおすすめの小説
旦那さまに恋をしてしまいました。
しらす
恋愛
こんなことになるならば、わたしはあなたに出会いたくなかった。でもわたしは、あなたを愛している。あなたがたとえ愛してなくても、疎んでいても、わたしはずっと愛している。
これはわたしが選択を間違えた話。
小説家になろう様にて先行更新しています。
これを読んだ方、言っておきます。あんまり上の内容信じない方がいいです。(自分で書いておいて何を言って((()
2021/4.11完結しました。
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
7年ぶりに帰国した美貌の年下婚約者は年上婚約者を溺愛したい。
なーさ
恋愛
7年前に隣国との交換留学に行った6歳下の婚約者ラドルフ。その婚約者で王城で侍女をしながら領地の運営もする貧乏令嬢ジューン。
7年ぶりにラドルフが帰国するがジューンは現れない。それもそのはず2年前にラドルフとジューンは婚約破棄しているからだ。そのことを知らないラドルフはジューンの家を訪ねる。しかしジューンはいない。後日王城で会った二人だったがラドルフは再会を喜ぶもジューンは喜べない。なぜなら王妃にラドルフと話すなと言われているからだ。わざと突き放すような言い方をしてその場を去ったジューン。そしてラドルフは7年ぶりに帰った実家で婚約破棄したことを知る。
溺愛したい美貌の年下騎士と弟としか見ていない年上令嬢。二人のじれじれラブストーリー!
私がいなければ。
月見 初音
恋愛
大国クラッサ王国のアルバト国王の妾腹の子として生まれたアグネスに、婚約話がもちかけられる。
しかし相手は、大陸一の美青年と名高い敵国のステア・アイザイン公爵であった。
公爵から明らかな憎悪を向けられ、周りからは2人の不釣り合いさを笑われるが、アグネスは彼と結婚する。
結婚生活の中でアグネスはステアの誠実さや優しさを知り彼を愛し始める。
しかしある日、ステアがアグネスを憎む理由を知ってしまい罪悪感から彼女は自死を決意する。
毒を飲んだが死にきれず、目が覚めたとき彼女の記憶はなくなっていた。
そして彼女の目の前には、今にも泣き出しそうな顔のステアがいた。
𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷
初投稿作品なので温かい目で見てくださると幸いです。
コメントくださるととっても嬉しいです!
誤字脱字報告してくださると助かります。
不定期更新です。
表紙のお借り元▼
https://www.pixiv.net/users/3524455
𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷
【完結】大好きな貴方、婚約を解消しましょう
凛蓮月
恋愛
大好きな貴方、婚約を解消しましょう。
私は、恋に夢中で何も見えていなかった。
だから、貴方に手を振り払われるまで、嫌われていることさえ気付か
なかったの。
※この作品は「小説家になろう」内の「名も無き恋の物語【短編集】」「君と甘い一日を」より抜粋したものです。
2022/9/5
隣国の王太子の話【王太子は、婚約者の愛を得られるか】完結しました。
お見かけの際はよろしくお願いしますm(_ _ )m
【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。
華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。
王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。
王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
こんばんは😊
更新、ありがとうございます!!
お待ちしておりましたー U^ェ^Uマテマテ
こんばんは😊
毎日お話を楽しみにしていたのてすが、最近更新がなく気になっております。
お忙しいのか?体調がすぐれないのか?
気温も湿度も高く、不快でしんどい日々が続いておりますがご自愛下さい。
更新、お待ちしております!!
ともかくリュヒテ殿下の趣味は悪いし、態度は不遜だし。自分は趣味の悪ーい態度を人によってコロコロ変える信頼できない態度で、格下は同じ人間とも思わず、平気で暴力をふるい、傲慢さだけは王族かもしれないが、とても国母には程遠い振る舞いをするものを優先するとは。それともあの女の国と条約を結ばなければいけない裏でもあるのでしょうか?いえいえ性格の悪さでぴったりなの?王妃さまの薬は実は鍵とか?王妃様は婚約者変えを知ってたとしか考えにくいですが、だから薬を?愚か者の息子や夫の愚行を直接見ずに済んでよかったかも。早くお似合いの性格の悪いバカップルから解放されてほしいわー