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しおりを挟む「お互い、言葉足らずだったな」
思考を読んだかのような言葉にピクリと視線を上げれば、リュヒテ殿下は少し怯んだように顔をのけぞらせた。
カチンと来たから睨んだのではないのですよ。
余計なことを言ったと反省しているのか少し気まずそうに、あー、うーんと少し唸り「どうだ、最近の調子は」と話題を変えることにしたらしい。
「まだ何も思い出しておりませんよ」
「そうじゃない。体調を崩してるとか、そういう変化だ」
「診察でも問題無かったのは御存知でしょう」
「医師の言葉じゃなく、マリエッテの言葉を聞きたい」
「……とくに変化はございません。気分も良いです」
「そうか」
新しい話題が終わってしまった。
今度こそ、重い沈黙が流れる。
こちらからも一つ、話題を提供するべきだろうか。
もしくは、未だ退路を塞ぐ殿下の横を通って帰ってもいいだろうか。
出口の方に視線を流すと同時に、殿下がさらに一歩だけ距離を縮めてきた。
「あの薬のことだが」
ビクリと身体を固くするも低く潜められた声色に、あぁと納得する。
「今、極秘で”魔女”について調べている。返却してもらった箱や瓶に残留していた成分や、母上がどうやってその薬を手に入れたのか諸々……謎ばかりだ」
あの魔女の秘薬が入っていた箱や瓶の他に何か無いかと自室や持ち物を探したが、とくに知らないものは出てきていない。一応、今まで王妃様から譲り受けた贈り物やドレス類は王宮へ送り調べてもらっている。
家族には数日遅れて私が王妃の鍵を受け取った可能性があると伝わっており、父と兄に至っては静観する様子だった。
王宮でどんな話し合いがあったのかは不明だが、婚約白紙の件であまりの仕打ちだと息まいていた二人が突然本件に関しては口を閉ざしたのが不思議だ。
「ご迷惑をおかけします。……早く、思い出しますので」
釣られて私も声を絞って返事をする。
今はごちゃごちゃと考えるよりも、早く王妃の鍵を探し出し、問題を解決するべきだ。
そうすれば、私は二人に構われず過ごせるし、二人は私に構う必要もないのだから。
──『愛し合う私達を引き離そうだなんて、そんなひどいことをなさるはずがないわよね』
王女の声が頭の中でこだまする。
解決すれば、そんな”汚名”をかぶることもないのだから。
私とミュリア王女は本来、無関係なのだ。
ミュリア王女とリュヒテ殿下の間で不安を解消すればよい。
「いや、焦らなくてもいい」
「時間をかけるほどミュリア王女に不誠実じゃない。私と同じようにするつもり?」
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