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しおりを挟む「いつまでも子ども扱いしないで。それに、なんとも思ってないわ」
なんだか、ローマン相手だと口調が戻ってしまうのが気恥ずかしい。
誤魔化すように顔を背け、生徒会室へ足を向ける。ローマンも一応ついてくるようで、私のすぐ斜め後ろをゆっくりと歩いている。
「マリエッテ、辛くないか?」
「全く」
「強がっているわけでもなさそうだ」
「疑り深いわね」
「いいや、臆病なだけだよ。ありえ無いと思っていた幸運が未だに信じられない臆病者だ」
「なにそれ。ローマンたら変なの」
ポンポンと言い合いながら、足を前へ前へと進めていく。
頬の熱が落ち着いてくる頃合いで、私の足音に重なっていた重い靴の音が止まる。
あれ?と、振り返れば想定より近くにローマンはいた。
私を見下ろしている幼馴染は、なんだか知らない男性のようで胸が緊張でぎゅっと縮んだ。
「本当に忘れてしまったのなら、俺のことも考えてくれないか」
は、と声にならない息が漏れる。
陽に当たって火照っていたのか、頬が熱い。きっと、太陽のせいだ。
ドクドクと耳の奥で聞こえるのも、太陽のせい。
ローマンが知らない男性に見えるのも、きっと。
「またまた……ローマンまでランドルフ王子と一緒になってからかうなんて」
「冗談にしておきたい?」
知らない人間に見えたローマンが恐ろしかったのか、幼馴染との関係が変わりそうな予感がして無意識に避けようとしたのか。
軽く笑いながら逃げを打とうとしたことを指摘され、視線を戻す。
ライトブラウンの髪の中から新緑の瞳が、強い意志をもって私を見ていた。
「俺は王位が欲しくて言ってるんじゃない。鍵が見つかったのなら、そのままリュヒテに渡すつもりでいる」
鍵、と聞いて混乱していた頭の中がぴたりと止まる。
「だから、辛いなら」
「……ローマンは優しいね。そんなに私、可哀想に見えてた?」
「いや、そういうわけじゃ」
「ローマンの知ってる私ってずっと恋に乗っ取られてたわけじゃない?」
ローマンは私が恋に狂った姿を知っている。私の苦しみも、知っていた。
彼の目に映る、今の私はどう見えているのだろう。
魔女の秘薬を飲んで、恋心や鍵を忘れてしまった私は。
「空っぽになった私は、ローマンが知ってる私と同じ?」
ローマンはふと悲しそうに目を伏せたが、次の瞬間には仕方ないと眉を下げた。
「……ここで伝えても困らせるだけだな。すまない」
さあ、行こうと今度は私の前を歩こうとするローマンのジャケットを、思わずチョンと引いてしまう。
ほんの少しだけ引いたのに、ローマンはピタリと足を止めてくれる。
それだけで彼が立ち止まってくれると覚えているからだろう。それは、幼馴染に対する信頼感や安心感だ。
昔から、誰よりも優しい幼馴染の靴を優しく二度小突く。
「おまじないのお返し」
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