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 予兆を感じ始めたのは殿下が王立学園へ入学した頃だった。
 殿下や同じく親しくしていた友人たちより1つ年下の私は、自分だけあの穏やかに過ぎていた時間の中に取り残されてしまった。

 でも、たった1年だけだ。殿下と会える時間は今までより減るかもしれないが、手紙のやり取りや長期休みにはお会い出来る。何より1年経てば今まで以上に学園で会えるのだから。その分、この1年は勉学や教養などに力を入れようと自分を鼓舞していた。

 しかし、無邪気な期待は裏切られる。
 手紙の頻度は目に見えて減り、休暇は会えないことの繰り返しだった。次はきっととという期待も、きっとまただめだろうと諦めるようになっていた。

 仕方のないことよね、殿下の世界は広がっていくのだからと理解もしていた。だからしょうがないことだと。いずれ私も同じ世界に行くのだから、今だけだと。
 
 そんな私の耳には色々な噂が入って来てもいた。

 殿下の入学と同時に、隣国から留学生として美しい王女がやってきたという。
 その王女と殿下はたいそう気が合うようで、四六時中行動を共にされているというものだった。

 穏やかではいられない噂を耳にするたび、胸に黒い染みがポツポツと数を増やし、滲んで広がっていくようだった。

 どんどんどんどん、自分の気持ちが黒く染まっていくようで苦しかった。

 幼い頃から自分に課せられていた、家族や講師や周囲からの重圧に耐えてこれたのは、殿下と心を共有出来たからだ。その思い出は確かに自分の糧になっていた。
 思い出も何もかもどんどん色あせていくようで、叫びたいほど悲しかった。

 糧はいつの間にか支えになり、自分の中心を支える柱になっていたというのに。

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