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「──えっと、ごめんね。目的地まで送るよ。こっちに来ても、ほぼ毎日運転してるから安心して」
「毎日って運転手か何かなの?」
あまりのタイムリーな単語に、一瞬言葉に詰まる。
ああ、いけない。ここで変な態度をしてしまえばめんどくさいって……あぁ、でも、止まらないかも
ぐっと目に力を入れて、せり上がってくるものを抑える。
段ボールにつめて、どこかに捨ててしまえばいいのだ。そうすれば、痛みも感じないのに。
「──そこの駐車場に入って」
あぁ、やっぱり。
せっかく久しぶりに会った弟分にも面倒なやつだと思われた。
またどこか痛む場所と昏い安心感を無視して、誤魔化すように苦笑いを浮かべる。
ウインカーを出して、コンビニの駐車場に進入する。いつもはバックで駐車するが、そんなことをしている場合ではないことはわかる。頭から入り、車止めに触れたところでサイドブレーキを上げる。
はぁ、と軽くため息をついてシートに体を預ければ、隣から目を塞がれた。
「んえぇ!?」
「あ、ごめん。化粧落ちちゃうかな」
驚いて目をふさぐものを掴めば、それはタオルを持ったハヤトくんの手だった。ポンポンと優しく動くタオルから、洗い立ての洗剤の香りがした。
「泣きながら運転するのは危ないよ」
「そ、そうだよね、ごめんね」
「もう駐車場だし、前は壁だし、横は俺しかいないから大丈夫だよ」
ハヤトくんの声は優しかった。
その優しさに手を伸ばすように、次から次へと涙が出てきた。
宥めるようにポンポンと頭を撫でる手が優しくて、さらに泣いてしまった。
「──なんだか、マナ姉はいつも泣いてるねぇ」
「ぅ、そうだっけ?」
「そうだよ。毎回、毎回、大声で泣くし。ほっとくと、『こういう時は慰めるんでしょ!?』って怒り始めるし」
「……その節はご迷惑を」
「人のこと巻き込んで大騒ぎした癖に、気が済んだら一人だけスッキリしちゃってさ。毎回」
「………重ねて申し訳なく」
「マナ姉がこっちの大学受けて地元出たのも後から知ったし。一方的に喋るくせに大事なこと言わずにどっか行くなんてほんと自分勝手で」
「ごめんて!!!!」
目を抑えるタオルをひったくり、隣に座る弟分をキッと睨む。
「ほんとだよ」
そう、言いながらニッと意地悪そうに笑った顔は昔と同じものだった。
「いっつも大声で泣くから。慰めに行くのが癖になっちゃったんだよ」
少しかさついた手が乱れた髪を整えるように伸びて髪を撫でた。
「今日、久しぶりに見かけたら泣きそうな顔で泣いてなくて驚いた。泣けて良かったね」
こちらを覗き込むハヤトくんの瞳の優しさに、出口を見つけたとばかりにまた涙が出てきた。
昔からこの弟分は優しいのだ。根気よく付き合ってくれて、何度助けられたことか。それに比べて私は!私は!!と、またおんおん泣いていたらハヤトくんのスマホが鳴った。
助手席に視線を流せば、めんどくさそうにスマホの画面を確認してまたポケットに戻したところだった。
が、まだ鳴りやまない。
いいの?と聞くと、ハヤトくん側の車の窓が叩かれた。
知り合いなのか、ハヤトくんは一層めんどくさそうな顔をした。その顔は昔私にも向けられた覚えのある顔で、思わず笑ってしまう。
下がった窓から「無視すんなよ」とハヤトくんに声をかけた男性は、人懐っこい顔でスイッと私の方にも頭を下げた。
「なになに、修羅場~?」
「お前、本当にそう思ってるなら声かけんなよ」
随分と仲が良いらしい口調に、昔に戻った錯覚を起こしてしまう。
ずいぶんと泣いたとわかる顔を見られるのが恥ずかしくて、タオルで顔を隠すとハヤトくんは「コンビニで何か買ってくる」と車から出て行った。
アイドリンク中の車内は、一人になると先ほどまでの心強さが嘘だったかのように寂しいものになった。
バックミラーで目元を確認して、ドアポケットに入れていたティッシュで崩れた化粧を手早く拭う。
前は散々大泣きしてぐちゃぐちゃになってるところでさえ見せていたのに、今日は取り繕ってる自分に気づいて恥ずかしくなってしまう。
ハヤトくんの知っている私は若かったのだ。
自分が中心であったし、我慢なんてせずに言いたい放題やりたい放題。若かったから。
はぁ~~~と体の中の空気を全部抜いてしまうように溜息を吐くと、丁度コンビニから出るハヤトくんたちが見えた。
その手にはコンビニとは思えない大きな袋があった。一部透けているが、あれはお酒ではないだろうか。
あちらも、私が見ていることに気付いたのか袋を軽く持ち上げニッと笑った。
先ほど声をかけてきたハヤトくんの知り合いも満面の笑みで手を振っている。
どうやら、酒盛りが始まるのかもしれない。
「毎日って運転手か何かなの?」
あまりのタイムリーな単語に、一瞬言葉に詰まる。
ああ、いけない。ここで変な態度をしてしまえばめんどくさいって……あぁ、でも、止まらないかも
ぐっと目に力を入れて、せり上がってくるものを抑える。
段ボールにつめて、どこかに捨ててしまえばいいのだ。そうすれば、痛みも感じないのに。
「──そこの駐車場に入って」
あぁ、やっぱり。
せっかく久しぶりに会った弟分にも面倒なやつだと思われた。
またどこか痛む場所と昏い安心感を無視して、誤魔化すように苦笑いを浮かべる。
ウインカーを出して、コンビニの駐車場に進入する。いつもはバックで駐車するが、そんなことをしている場合ではないことはわかる。頭から入り、車止めに触れたところでサイドブレーキを上げる。
はぁ、と軽くため息をついてシートに体を預ければ、隣から目を塞がれた。
「んえぇ!?」
「あ、ごめん。化粧落ちちゃうかな」
驚いて目をふさぐものを掴めば、それはタオルを持ったハヤトくんの手だった。ポンポンと優しく動くタオルから、洗い立ての洗剤の香りがした。
「泣きながら運転するのは危ないよ」
「そ、そうだよね、ごめんね」
「もう駐車場だし、前は壁だし、横は俺しかいないから大丈夫だよ」
ハヤトくんの声は優しかった。
その優しさに手を伸ばすように、次から次へと涙が出てきた。
宥めるようにポンポンと頭を撫でる手が優しくて、さらに泣いてしまった。
「──なんだか、マナ姉はいつも泣いてるねぇ」
「ぅ、そうだっけ?」
「そうだよ。毎回、毎回、大声で泣くし。ほっとくと、『こういう時は慰めるんでしょ!?』って怒り始めるし」
「……その節はご迷惑を」
「人のこと巻き込んで大騒ぎした癖に、気が済んだら一人だけスッキリしちゃってさ。毎回」
「………重ねて申し訳なく」
「マナ姉がこっちの大学受けて地元出たのも後から知ったし。一方的に喋るくせに大事なこと言わずにどっか行くなんてほんと自分勝手で」
「ごめんて!!!!」
目を抑えるタオルをひったくり、隣に座る弟分をキッと睨む。
「ほんとだよ」
そう、言いながらニッと意地悪そうに笑った顔は昔と同じものだった。
「いっつも大声で泣くから。慰めに行くのが癖になっちゃったんだよ」
少しかさついた手が乱れた髪を整えるように伸びて髪を撫でた。
「今日、久しぶりに見かけたら泣きそうな顔で泣いてなくて驚いた。泣けて良かったね」
こちらを覗き込むハヤトくんの瞳の優しさに、出口を見つけたとばかりにまた涙が出てきた。
昔からこの弟分は優しいのだ。根気よく付き合ってくれて、何度助けられたことか。それに比べて私は!私は!!と、またおんおん泣いていたらハヤトくんのスマホが鳴った。
助手席に視線を流せば、めんどくさそうにスマホの画面を確認してまたポケットに戻したところだった。
が、まだ鳴りやまない。
いいの?と聞くと、ハヤトくん側の車の窓が叩かれた。
知り合いなのか、ハヤトくんは一層めんどくさそうな顔をした。その顔は昔私にも向けられた覚えのある顔で、思わず笑ってしまう。
下がった窓から「無視すんなよ」とハヤトくんに声をかけた男性は、人懐っこい顔でスイッと私の方にも頭を下げた。
「なになに、修羅場~?」
「お前、本当にそう思ってるなら声かけんなよ」
随分と仲が良いらしい口調に、昔に戻った錯覚を起こしてしまう。
ずいぶんと泣いたとわかる顔を見られるのが恥ずかしくて、タオルで顔を隠すとハヤトくんは「コンビニで何か買ってくる」と車から出て行った。
アイドリンク中の車内は、一人になると先ほどまでの心強さが嘘だったかのように寂しいものになった。
バックミラーで目元を確認して、ドアポケットに入れていたティッシュで崩れた化粧を手早く拭う。
前は散々大泣きしてぐちゃぐちゃになってるところでさえ見せていたのに、今日は取り繕ってる自分に気づいて恥ずかしくなってしまう。
ハヤトくんの知っている私は若かったのだ。
自分が中心であったし、我慢なんてせずに言いたい放題やりたい放題。若かったから。
はぁ~~~と体の中の空気を全部抜いてしまうように溜息を吐くと、丁度コンビニから出るハヤトくんたちが見えた。
その手にはコンビニとは思えない大きな袋があった。一部透けているが、あれはお酒ではないだろうか。
あちらも、私が見ていることに気付いたのか袋を軽く持ち上げニッと笑った。
先ほど声をかけてきたハヤトくんの知り合いも満面の笑みで手を振っている。
どうやら、酒盛りが始まるのかもしれない。
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