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獲物を見つけた金曜日 ー浦和ー

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やっと、金曜日が終わった。
自動販売機から出てきた紙コップ入りのコーヒーを取り出しながら凝り固まった肩を回し、この後ジムにでも行くか……と寂しい計画を立てていると、ニヤニヤと仕事中とは打って変わって悪い顔になっている同期の木場が近づいて来た。欲の塊である木場がこの顔をしている時は決まっている。

「また合コンかよ」
「楽しいじゃん。合コン」

ほらやっぱり。良く言えばエネルギッシュな木場は社内社外と分け隔てなく人脈が多い。暇さえあれば合コンやら仲間内で集まったりイベントを催している。木場は人間が好きなのだ。そして、そんな木場は人に好かれる。まさに現職の営業という仕事は天職のような男だ。部署は違ってもなんだかんだと絡んでくる憎めないやつだ。

「合コンねぇ……短時間で何がわかるんだか」
「んー、持ち帰れそうか?」
「ゲスだな」

そしてゲスだ。特定の”彼女”を作らないだけ良心はあるのかもしれないが。

「浦和も行こうよー合コン」
「興味ない」

なんの共通点も興味もない、ほぼ初対面の人間を集めて化かし合う時間の何が楽しいんだか俺には理解ができない。営業部に配属にならなくてよかった、とすら思う。
かと言って、彼女と別れたばかりで仕事終わりの予定があるわけでもないのだが。

「──興味、でるかもよ」

じゃーん、と俺の目の前に差し出された木場のスマホには女性が三人写っていた。その中にいたのが……

「──ミ……ナミちゃん……?」
「お。当たり?」

木場の口端がニヤリと更に吊り上がった。
画面の中の”ミナミちゃん”は、俺が知っている頃よりずっと大人っぽくなっていたが面影がある。すぐに気づくほどに。

「え、まじでミナミちゃんなの? え?」
「今、確信した。これはお前の“トランペットのミナミちゃん”だ」

今だけはゲスな木場が輝いて見える。木場はただの人好きのゲス野郎じゃなかった。木場が繋いだ人脈が巡り巡って、ミナミちゃんの存在が近づいた。

──木場が言った“トランペットのミナミちゃん”とは、俺の初恋の人だ。
いつだったか酒に酔った勢いで昔の話をしたか何かで木場に言ったのだろう。それを木場は覚えていたわけだ。さすが営業が天職な男だけある。

俺は中学高校大学と水泳に心血注いで全てをかけていた。朝起きてから寝るまで水泳水泳水泳の毎日だった。
所属していたスイミングクラブの通り道の河原で、いっつもトランペットを吹いて練習する女の子に俺は惚れていた。初恋だ。真っ直ぐに伸びた背筋と、パァアっと気持ちよく伸びる音が俺の青春を彩った。

……自覚はある。俺は初恋を拗らせている。

思春期を拗らせて俺は恋愛なんて二の次で水泳を第一に置いていた。彼女に近づいてしまえば、自分の大切にしている水泳をおろそかにしてしまいそうだと……彼女に話しかけられなかった。俺なりに大切にしていたのだ。……拗らせていたとも言う。

彼女の、友人に「ミナミ」と呼ばれ振り返った時の笑顔は今でもよく覚えている。
今でも「ミナミ」と聞くだけでちょっとドキッとする。

風の強い日には制服のスカートがはためき、丸い尻と水色の下着が見えた時もあった。

……おかげで今も尻フェチだ。

いつの間にかミナミちゃんは河原に現れなくなり、俺もインカレで好成績を納め水泳選手としての道を終えた。

ミナミちゃんに初恋と青春を捧げたと言っても、まあ、不自由しないぐらいには男女交際を嗜んではいた。ミナミちゃんは水泳をおろそかにしてしまう危険性を感じていたが、寄ってくる女子たちは「水泳の次で良い」のだと言ってくれていた。別れるときは必ず「私が一番じゃないと嫌」と言われていたが。ついこの間まで彼女もいたが、将来を考えるほど盛り上がりはしなかった。自分の一番だった”水泳”が無くなっても、俺の中で彼女という存在は繰り上がるものでは無かったらしい。

そのタイミングで、あのミナミちゃんと巡り合うなんて一体どうしたのだろうか。神に日頃の行いの良さが高く評価されたのだろうか。多分そうだ。

「な、んで木場が、ミナミちゃんの写真持ってんだよ! 寄越せ!」

木場のスマホにミナミちゃんの写真があるなんて許せない。割っていいだろうか。俺の考えが読めたのか、木場はスマホを胸ポケットに隠した。そしてゆっくりと、口を開いた。

「──写真で、いいのか」
「は?」
「この、ミナミちゃん……斉田ミナミちゃんが、今日の合コンに来るんだが。会いたくはないか」

ミナミちゃんが、合コンに……!? 神よ! これは褒美か!?

「俺も行く」
「だよな♪よかったー。もしかしたらトランペットのミナミちゃん、持って帰れるかもなー」
「ミナミちゃんなら家に持って帰ってもう出さない。無理。毎日一緒にいる」
「こわ」
「そうだ、怖いよな。俺がミナミちゃんのこと知ってるって黙っててくれ。怖がらせたくない。警戒されたら連れて帰れない」
「こわ」

急にやってきた絶好のチャンスを。俺は、確かに、掴んだ。



数年ぶりに姿を視界に捉え、初めて間近で見た“トランペットのミナミちゃん”は思い出よりずっと綺麗な大人の女性になっていた。

ミナミちゃんは二十三歳で木場の友だちの友だちだった。いや、もう木場はどうでもいい。ミナミちゃんはなぜか自己紹介の時から俺の方をチラチラ見ていて、その様子がたまらなくかわいい。小動物みたいでかわいい。

席替えで、座った俺の目の前をミナミちゃんの丸い尻が通った時はうっかり手を伸ばしそうになった。こんなにかわいい尻がフラフラ歩いてるなんて信じられない……! 無防備が過ぎる!

手を握られた時なんて、昔の俺に「おい、俺。聞いてるか? あのミナミちゃんが俺の手を握って、好き(手の事だったかもしれない)とか言っているぞ」と、教えてやりたいほど感動した。



──おい、俺。聞いてるか? お前、あのミナミちゃんをしこたま抱いてるぞ。

また昔の自分に教えてやりたいことが増えてしまった。

俺の手を握り好きと確かに言った(手の事だったかもしれない)ミナミちゃんは、なぜかその後他の男の横に行き楽しそうにし始めた。
なぜなんだ。俺はもうミナミちゃんが他の男に触られやしないか気が気じゃなくて他のことは覚えてない。心配になるほど無防備で隙だらけのミナミちゃんは、今までよく無事でいたなと心配になるほどである。もし木場が俺のことを思い出さずミナミちゃんと出会ってしまっていたら……と思うと、心からこの奇跡に感謝したい。

ハラハラと焦っている俺の気持ちを知ってか知らずか、ミナミちゃんはたまに思い出したようにこちらを見て、あの思い出の笑顔を俺に向けるのだ。

決めた。

絶対に、今日、ミナミちゃんを捕獲する。
まずは連絡先を教えてもらって映画にでも出かけて……と、初恋を成就させようと思っていたが。こんな無防備なミナミちゃんをフラフラさせておくわけにはいかない。ゆっくりしていたら第二、第三の木場のようなゲス野郎に口八丁手八丁でお持ち帰りされてしまう。だったら俺が捕まえる。もう大人の方法で成就させることにした。

トイレに立ったミナミちゃんを追いかけ、二人で飲み直そうと誘うとミナミちゃんは疑いもせず着いてきた。だから、なんでそんなに無防備なんだ。

やっとミナミちゃんと二人だけになり、今度は安心してミナミちゃんと話しをすることが出来た。
ちゃんと話せて落ち着いたので、やっぱりここは一旦家まで送っていき誠実であることを見せ信頼関係を作ってから……と考えたりもした。考えてはいた。

しかし、今、ミナミは俺の家の中で俺に奥を突かれ、可愛く鳴いている。
ミナミの中は狭く柔らかく温かく、奥をトントンと突く度にキュッキュッと締め付けて離さない。まるでしがみ付かれているような感覚に陥り、愛しさが胸に募る。

「浦和くん……ッ、奥、あぁっ、それきもちいいの……っ」
「奥好きなの? エロいね」

ミナミの痴態は想像以上に俺を煽った。
俺の形を覚えさせるように、何度も何度も奥やミナミの反応の良い場所を確かめるように通った。

丸い胸を揺らすように揺さぶられながら、しがみついてくる様がたまらなくかわいい。そのまま俺から離れなければいいんだ。

何度目かの絶頂の後ミナミはそのまま眠ってしまった。まだミナミの存在を確かめたい気持ちを抑え、やっと捕まえた獲物が逃げないようにしっかりと抱き締め俺も眠った。

意識が落ちそうになる度、夢じゃないよな? と目を開け、まだ自分の腕の中にいることを確認してホッと目を閉じることを繰り返すことを数回。もうすっかり外も明るくなった頃、腕の中からモゾモゾとミナミが起き上がった。

朝日を浴びるミナミの背中は白くて、輝いて見えた。
あの遠くから見るだけだった背中から下に目線を落とすと白く丸い尻に繋がる。昨日の感触を思い出し、また触れようと手を伸ばしたその時。

「……帰ろ」

と、ミナミが掠れた声で呟いた。

なんだって?

は? 帰るだと? どこに? まだ連絡先も交換してないし、なんならまだ付き合ってとも伝えてないのに? ヤッただけなんですけど? は? これでお終い?

ミナミの白い腕を掴み、またベッドへ引き戻した。

「──ヤリ捨てなんて許さない」

あーあ。怖がらせたくないと思ってたのに。
ミナミは俺が起きてると思わなかったのか、とても驚いていた。目が丸くなって、驚いてる顔もかわいい。

昨日の余韻を残し、まだ柔らかく潤う隘路を確かめるように指を埋めると脚が淫らに跳ねた。

跳ねた脚にキスを落としながら、指の代わりにまた俺自身を埋めた。ふくらはぎに、見せつけるように舌を這わす。こうされると感じるようで、ミナミは潤んだ目で舌の動きを見ている。

腰を回しながら、触っていないのにぷっくりと膨らんだクリトリスを親指で撫でるとイヤイヤと言いながらもすぐに達していた。

ミナミの痴態と締め付けに耐えられるはずも無く、俺も一拍遅れて達した。
出した後もスキンを付けているにも関わらず、俺の精子がミナミの中へ、奥へと染めるように擦り付けた。

ミナミはまた目をトロンとさせて眠りそうになっている。ミナミの頬を撫でながら頭をフル回転させ考えた。

ミナミを捕まえておくための作戦を。



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