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イケメンが釣れた金曜日 ーミナミー

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駆け引き その1 ”押す”

──「あっ。浦和くんの手って、大きいんだね。指も太くて……男らしくて、好きだな」

地球には男と女がだいたい半分づつ。ここ東京の男女比はだいたい半分か、男性のほうがやや多いのではないだろうか。そして、その中から未婚で、決まった相手がおらず、出会いを求めて行動に移す時間と気力をもっている者はどれほどの数になるだろうか。

そして、地球上で、同じ国に、同じ都市に居合わせ、同じ目的を持って集まる確率はどれほどだろうか。そう、今日はそんな奇跡の会が催されている。華の金曜日にお洒落な個室。そこに集められし男女六人が、今、己の培ってきた技術を駆使し、やるかやれれるかの勝負をしている。

簡単に言えば合コンである!
合コンとは、様々な出会いを求めて若い男女が集う場である!

私、斉田ミナミも例に漏れず出会いを求めてやってきた。
就職がきっかけなのか、もはや崩壊していたのに見て見ぬふりを続けてきた結果なのか……。中学、高校、大学と長年の付き合いだった彼氏……私の運命の人だと思っていたのに、”私の運命の人ではなかった”彼氏とついに別れたのだ。そう、彼氏にはどうやら他に運命の人がいたらしい。悲しくなってくるので詳細は省かせてもらう。

もはや恋人というより兄妹のようだった彼氏の元に彗星のごとく現れた”運命の人”を見て。「もしかして、私にも運命の人がいるのではないか」と淡い期待を抱いてしまった。と、友人に話せば「他の同年代が恋愛ジャングルで狩ったり狩られたりと前線で戦っている時に、ミナミは男がいるからと前線から退いていた。今から恋愛ジャングルで”運命の人”を探すのだとしたら圧倒的に経験不足。そして技術不足。実践不足。そんなヨチヨチレベルでは、恋愛ジャングルですぐに捕食され身も心もボロボロになるのだ」と夢見がちな私を真っ向から切りつけた。一太刀である。

確かに。
さすがに私も”運命の人”とやらが「私です」と名札をつけて歩いてくるとは思っていない。

「だいたいイイ男は他の女にとってもイイ男なのよ。”運命の人”とやらは自然に沸いてくるものじゃないの。私があなたの運命の女ですって顔して近づいて釣り上げるのよ。特級のイイ男を」

名言である。

別れの涙が枯れる頃、それからは暇さえあれば合コンに出席するようになった。
友人曰く、運命に見せかけた屑を見分ける目も養えとのことだった。全くもってその通りだ。師匠である友人と共に戦場へ出向き、師匠のテクニックを間近で見学し、日々研鑽を積んでいった。持つべきものは友人である。これは子々孫々、伝えていきたい。

──そして、本日。
華の金曜日にすることと言ったら合コンである。最初の乾杯をしてから一時間経った。私は隣に座る浦和君の手を握って、少し唇を湿らせた。

浦和君とは、一時間前からロックオンしている男前のことである。
約三十分前の席替えで私の射程圏内(隣)に座った。

少し遅れて会場に入室した瞬間。浦和君が視界に入った瞬間に、私のセンサーが反応した。自動ロックオン解除不能である。出会って二秒で決めたのだ。私は、浦和君を、釣り上げるのだと。

浦和君は仕立ての良いスーツを着こなし(趣味がいい)(かっこいい)無防備に寛げたワイシャツから喉仏を覗かせている(セクシー)◎◎商事にお務め(堅実!)の二十五歳(ちょうどいい!)で自称彼女ナシ(東京、名古屋、大阪、シンガポール各地それぞれにいてもおかしくない)指輪ナシ(指輪の痕も不自然な日焼けもナシ!)趣味は水泳(元カレと同じ……!)それを裏付ける体付き(たまらない!)

なぜなんだ。
こんな奇跡が服を着て歩いているような好物件イケメンが、なぜこんなところで無防備にお酒を飲んでいるのか。
罠なのか? それとも、日頃の行いが良いから神様がご褒美をくれたのか?

ああ、今日、ここに来てよかった……!
本日何度目になるのか、心の中でまた神様に感謝を捧げた。



完全に浦和君を舐めるように見る時間で終わってしまった自己紹介を経て、幹事同士による場の温めの後、阿吽の呼吸で席替えが始まり……“神様のご褒美浦和くん”の隣に座ることが出来た。

それもこれも神様と幹事の手腕のおかげである。ありがとうございます。神様はきっと、いつもコンビニで支払い済みの商品を受け取る時に「ありがとうございます」と店員さんにお礼を言うところを見ていてくれたに違いない。我ながら徳が高い!

神と幹事に感謝を捧げながら、ご褒美浦和くんと自然に、ナチュラルに、狙っていると悟られないように、心と体の距離を近づけていった。

こわくないよー
大丈夫だよー

と、虎視眈々とご褒美くんの付け入る隙きを伺っていると遠くの席で誰かが“仕掛けた”声が耳に入ってきた。
合コン定番お触り【手の大きさ比べ】イベントの発生である。
古今東西、男女は集まるとなぜか手の大きさを比べるのである。
私も流れに逆らわず、むしろ流れが強くなるよう加勢し、無事に浦和くんをお触りする事ができた。

──やっと冒頭に戻る。

浦和君の手は偽りなしに大きかった。水泳をしている人は手が大きくなるのだろうか。女性にしては大きめの私の手よりも大きく、そして温かかった。

手を息がかかりそうなほど近くに引き寄せ、浦和君の指の間を指の腹でスーッと軽く撫で、長い人差し指に指を添え、鉄板の台詞をキメた。自分の手を見るたびに、私とのこのイベントを思い出すように。

ちゃんと効いたのか、浦和君は「そう?」と顔を赤くし照れ笑いをした。んー!反応が!かわ!いい!!
もう、その反応をお土産にする!帰って寝るまで何度か思い出させてもらうわ!ありがとう!好き!

先ほどの自己紹介で浦和君は「合コンは初めて」と言っていた。それは、あれですか、ずーっと彼女がいたから参加したことなかったってか? それとも探す必要なかったです、ってか? 男前エピソードすぎる!
こちとら何回合コンしてると思います?! 言いませんけど!

浦和君の初々しい反応に心停止させられそうになりつつも、神様のご褒美浦和くんを捕獲するために次のステップに移すこととする。



駆け引き その2 “引く”

先ほどの攻撃がちゃんと効いたようで、浦和君から色っぽい空気が流れてきた。たまらん。
しかし、ここでそのまま釣り上げるのはナンセンスなのである。と、合コンをライフワークとしている友人が言っていた。軽く食いついただけで釣竿を上げてしまうのは、まだ早い。魚が大きければ大きいほど、向こうからの食いつき度が肝になってくる。らしい。さすが駆け引き上級者は言うことが違う。釣りで例えているが、私たちは釣り未経験である。

釣りは未経験だが、彼女の言っていることはわかる。
相手のアクションを誘い出すってことですね。師匠。

二度目の席替えのタイミングで今度は浦和君とは違う人の隣に行き、浦和くんがこちらをチラッと見ても目を合わさず楽しそうに見えるように過ごした。
そして、浦和君の視線に三度に一度は視線を合わせて、目だけで『飲んでる?』などやり取りをした。仕掛けているのはこっちなのに、浦和君の視線が本当に色っぽくて腰が抜けそうになった。恐るべし浦和君。エロい。

それにしても、素人目にもわかる。浦和君は私を気にしている。だって何度も見られている気がする。私も見てるから視線に気付いてしまうんだけど……

ん~~~。これは、いいんじゃない?
これ、釣れたんじゃない?

あまりの展開の良さに期待で暴れる胸を落ち着けようと、お手洗いに避難した。あまり落ち着かなかった。メイクを軽く直し、浮かれながらお手洗いから出ると──

そこには、壁にもたれた浦和くんが! 待っていた!

いや、まだ信じない。きっと他の女性を待っているとか、と。浮かれてしまう心に釘を刺したのに。浦和君は私を見るなり、あの笑顔で近づいてきて。私に耳打ちしたのだ。「二人で飲みなおそう?」と。

HIT!!



駆け引き その3 “絡め落とす”

──きっと私は前世で地球を救ったのかもしれない。
今世で積んだ徳以上のご褒美を神様から頂いている気がする。

合コンを二人で抜け出し、先ほどよりも落ち着いたBGMが流れるバーを訪れた。薄暗い店内と落ち着いた雰囲気に、視線と声を落として囁くように声を出す。肩が触れそうな距離で、先程より親密な会話を楽しんだ。

時間も深まり、ここで引き上げ日を改めジワジワと関係を発展させていくのが定石なのだが……

「ぁ、はっ……、待って……ここ、まだエレベーター……んむ」
「……そんなこと言って、離さないのはミナミの方でしょ?」

静止の言葉ごと呑み込むように被せられた唇をほんの少しだけ離し、ミナミこと私を煽るのが浦和くん。
ここは浦和くんのお住まいであるマンションのエレベーターの中。
──そう。私、今、浦和くんの家に連れ込まれそうになっているの。

しまったー! やりすぎたー!
合コンで持ち帰られるなぞ、良くてセフレ。通常ワンナイトコースである。

浦和くんは一度だけじゃなくて何度でも愛でたい存在だったのに! ここで寝てしまっては黄金の彼女コースから外れてしまう。脱線事故である。

しかし。しかし!「もっとミナミのこと教えて?」という初々しくもわかりやすい誘い文句に逆らえなかったのである。しかもエレベーターのドアが閉まるなり、自然と引き寄せられ求められてはノックアウトなのである。

もう仕方がないので、私にできることは悔いの残らない試合をする事のみだ。全力を、出し切る……!!

浦和くんの部屋に雪崩込み、鍵をかける音を後ろに聞きながら玄関の壁に押し付けられキスを求め合う。
舌で会話をしているようだった。

浦和くんの、あの大きい手が私のお尻を撫で掴み形を確かめている。それだけでクラクラとしてしまう。
タイトスカートが捲られストッキングの中に手が入り込み、お尻を握られた。先ほどまでの服の上からとは違う指の感触に、ぞくぞくと快感が背筋を走った。

「あッ……ここでするの?」
「……待てない」

余裕が無さそうな声が耳を擽った。私でそんなに興奮してくれているのか、と一緒に興奮してしまう。
ストッキングの中で熱い手のひらが下着ごと尻たぶを揉みしだく。下着の縁を持ち上げるように指でなぞられると、まだ触られていない隘路が潤むのがわかった。

──触られっぱなしでは実力を出せずに終わってしまう!
快感に染まっていた頭をゆるりと振り、浦和くんの頭を引き寄せ、近づいてきた可愛い耳を愛撫することにした。

耳の縁に舌を這わせ、耳珠は音を立てて舐めしゃぶった。それと合わせて浦和くんのスラックスに手を這わせて、すでに堅くなっているところを優しくゆっくり撫でた。あれ……? もしかして、元カレより大きいのでは? ピクピクと反応する浦和くんはとても愛らしいが、一人しか知らない分、少しだけ不安になる。

そんな内心を知ってか知らずか、私のお尻を揉んでいた”太くて男らしい指”が、私の蜜口に侵入した。

「んぁ……ッ」
「……ドロドロ」

浦和君は嬉しそうにポツリと零すと軽く身を屈め、ストッキングと下着を下ろした。パンプスごと落とすと片脚を浦和くんの肩に乗せるように誘導された。次の展開は……もしかして。

「あっ! ダメ! お風呂入ってない!」
「平気」

両手の親指で肉丘を広げられ、フーッと息をかけられる。それだけで花芽がキュッと反応した。
私の口の中を蹂躙した舌が、最も敏感な部分を捉えた。同時に隘路に指が入り、浅く押し撫でられるとすぐに達してしまう。

「──ミナミ、かわいい」

私を舐め絶頂に押し上げながらスキンを準備していたのか、すでに装着されたソレが私に埋められた。久しぶりに広げられた隘路は壊れることなく……むしろ、今までとは違う感覚と快感に支配されて行くのか不思議で、不安で、浦和君に強くしがみついた。片脚を持ち上げられ、壁に押し付けられながら穿たれるとなんとも背徳的な気分になった。

「は、あぁ、っ、きもちいい……」
「俺も……っ」

再び浦和くんを締め付け達すると中でスキン越しに白濁が打ち付けられたのがわかった。

荒い息のまま、キスを交わし、抱き上げられた。部屋の中へ、ベッドの上へと行くまでにお互いの服を一枚一枚脱がし合った。

ベッドの上でもまた求め合い、今度は奥を執拗に突かれ達してしまった。



沈んでいた意識が浮上していく。明るい日差しが瞼を照らし、喉の渇きを自覚する。

「水……」
「ん」

後ろから伸びてきた大きな手が私の顔を包んだ。そして、もう慣れた唇の感触が水を運んできた。

あの日。初めてのイキ寝落ちをしてしまった翌朝。潔く顔を合わせる前に帰ろうとしたら、寝起きの浦和くんに「ヤリ捨てなんて許さない」と、またベッドに沈められたのだった。

それから土日とも浦和くんの家でお世話になり、月曜日に自宅に帰ったら浦和くんが着いてきて、荷物を持ち火曜日からお世話になり……今じゃ自宅には荷物を取りに戻るのみだ。

──なんと、釣れたと思ったらパクリと食べられたのは私だったのである。



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