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うちの子がこちらにお邪魔してませんか?
うちの子がこちらにお邪魔してませんか? 4
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次の日。なっちゃんは朝早くにも関わらず、ちゃんと見送りに来た。
まだ昨日のことで警戒していた私は、毅然と! 節度ある! 別れをしようとしていた。
しかし、またあの寂し気な顔をされ、まんまと罠にかかかり熱烈なキスをお見舞いされたのであった……。なんてこった。
*
そして、東京に戻っても私の夏はまだ終わっていなかった。
「──あんた航貴のなんなのよ」
「なんなの、と言われても……」
こちらこそ、その件については答えが出ていないのでなんとも……。
と、綺麗なお姉さんに詰め寄られながら考えた。
*
ここは東京。今日は人がごった返す花火大会に、またあのメンバーで来ている。
大ちゃんと優子は食料調達へ
神田さんは飲み物を調達に
私は河原に敷いたシートの上で領土を守っている。気分は守護神である。
──決して、迷子になりそうだからここで待てとは言われていない。
私は信頼されて守護を任されたのだ。そうだ。侵略も略奪も許さない守り神なのだ。なので、我々の陣地に乗り込もうとしてくる輩は片っ端から追い返している。うむ。私、役立ってる……!
今日の花火大会には優子と揃って浴衣で来た。私の浴衣は白地に藍の朝顔柄で、品のある色合いが気に入っている……んだが。突然、液体と固体が上から降って来たことでお気に入りの浴衣に茶色いシミが広がった。これはコーヒーの匂いだ。背中に入り込んだ氷がヒヤリとして叫びそうになった。叫んだかも。
「ごめんなさい! あぁ浴衣が!! 染みになっちゃうわ! 早くしないと! こっちに来て!」
と、花火大会には似合わない綺麗目で高級そうな服装の綺麗なお姉様が、慌てた顔で謝罪を畳みかけられ、流れるように拉致られてしまった。
あぁああ~!! 私の守るべき領土が!!
花火会場から少し離れた水場まで一息で連れてこられてしまった。とにかくみんなに一報しないと……と、手提げに手をかけた時。綺麗なお姉さんに鋭い目で詰められたのだ。「あんた航貴のなんなのよ」と。
まさか現実でこのセリフを聞けるとは……!
あたかも恋のライバルかのような、ドラマチックなセリフに感激している私をよそに綺麗なお姉さんは続ける。
「──あんたもセフレか何か知らないけど、しつこくデートを強請ったんでしょう? そういうしつこいの、航貴は嫌がるわよ。”先輩”として忠告するわ。まぁ、航貴が優しいからって勘違いしないことね」
せ、先輩の忠告……? 一体、何を言っているんだ。この人、神田さんの関係者!? 痴情のもつれ!? なんと私も当事者入り……!?
わかった。流石に私でもわかったぞ。この綺麗なお姉さんは神田さんのことが好きなんだな。で、どこから見ていたのか神田さんと一緒にいる私を見かけて、居ても立ってもいられず私たちの後をつけたんだな。で、調子に乗るなと物申すためにコーヒーをかけて連れ出したと。ふむ。いい推理だ。冴えている。
……ん? 「あんた”も”セフレか~」って言いました? じゃあ、このお姉さんは神田さんの……そういうオトモダチってこと!?
「いえ、あの、私はセフレだなんてそのような関係では……」
まてまてまて。私は敵ではない。敵を見誤るな、と綺麗なお姉さんに弁解する。きっと、私に対してわざわざ牽制したくなるほど、神田さんとの仲に不安や寂しさがあるのだろう。それはきっと、私に対してアクションしてもしょうがないことで……。でも、神田さんに対してはやっぱり言えていないのだろう。さっき自分で『そういうしつこいの、航貴は嫌がるわよ』って言ってたもんね。我慢してるんだね。
と、コーヒーまみれになりながら、ついお姉さんに同情してしまう。
「あら、自分は違うって言いたいの? ……随分と、夢見がちなのね。自分だけは特別だって思わせるのが得意なのよ」
……わかる。
なんだ、お姉さんもわかっているんじゃないか。わかっていても離れられないのか。まるで沼だな……!
「いえ、そういう訳じゃありません。本当に、神田さんとは……」
「航貴は優しいけど、それはあんただけにじゃないから」
「いや、本当に……」
「ま、そんな姿じゃデートに戻れないわね。わざわざ着て来たのに、航貴に脱がせてもらえなくて残念ね?」
かっちーん!
「あ、あんなキス魔! 本当に! なんでもないんですってば!!」
だんだんイライラしてきたぁあ!
おかしい。なぜ、通行人A程度の私が、神田さんの”オトモダチ”に絡まれ、お気に入りの浴衣を汚されにゃならんのだ! お姉さんのそのお悩みは当人同士で勝手にやってくれ! あんな、あんなキス魔! 好き勝手どうぞご自由に!! うっかり沼に入水自殺しそうになってたわ! あー危なかった!
怒りの声が届いたのか、お姉さんは綺麗に整えられたパッチリお目目をこれでもかと見開き、私から目を離さない。
「──嘘よ」
「ですから、私と神田さんは何も…」
「嘘。航貴はキスなんてしない」
「はい?」
「しないわ。誰とも」
先ほどまでの勢いはなりを潜め、お姉さんはすっかり上の空だ。なんなら少し涙目だ。な、泣かせちゃった!?!?
涙にはめっぽう弱い私は、ぷんすかしていた心も吹き飛びお姉さんの前でアワアワと慌ててしまう。
「え、お姉さん泣かないで……」
「──何やってるの?」
「あ」
物語のヒーローは遅れてやってくるのが鉄板なのだ。
まだ昨日のことで警戒していた私は、毅然と! 節度ある! 別れをしようとしていた。
しかし、またあの寂し気な顔をされ、まんまと罠にかかかり熱烈なキスをお見舞いされたのであった……。なんてこった。
*
そして、東京に戻っても私の夏はまだ終わっていなかった。
「──あんた航貴のなんなのよ」
「なんなの、と言われても……」
こちらこそ、その件については答えが出ていないのでなんとも……。
と、綺麗なお姉さんに詰め寄られながら考えた。
*
ここは東京。今日は人がごった返す花火大会に、またあのメンバーで来ている。
大ちゃんと優子は食料調達へ
神田さんは飲み物を調達に
私は河原に敷いたシートの上で領土を守っている。気分は守護神である。
──決して、迷子になりそうだからここで待てとは言われていない。
私は信頼されて守護を任されたのだ。そうだ。侵略も略奪も許さない守り神なのだ。なので、我々の陣地に乗り込もうとしてくる輩は片っ端から追い返している。うむ。私、役立ってる……!
今日の花火大会には優子と揃って浴衣で来た。私の浴衣は白地に藍の朝顔柄で、品のある色合いが気に入っている……んだが。突然、液体と固体が上から降って来たことでお気に入りの浴衣に茶色いシミが広がった。これはコーヒーの匂いだ。背中に入り込んだ氷がヒヤリとして叫びそうになった。叫んだかも。
「ごめんなさい! あぁ浴衣が!! 染みになっちゃうわ! 早くしないと! こっちに来て!」
と、花火大会には似合わない綺麗目で高級そうな服装の綺麗なお姉様が、慌てた顔で謝罪を畳みかけられ、流れるように拉致られてしまった。
あぁああ~!! 私の守るべき領土が!!
花火会場から少し離れた水場まで一息で連れてこられてしまった。とにかくみんなに一報しないと……と、手提げに手をかけた時。綺麗なお姉さんに鋭い目で詰められたのだ。「あんた航貴のなんなのよ」と。
まさか現実でこのセリフを聞けるとは……!
あたかも恋のライバルかのような、ドラマチックなセリフに感激している私をよそに綺麗なお姉さんは続ける。
「──あんたもセフレか何か知らないけど、しつこくデートを強請ったんでしょう? そういうしつこいの、航貴は嫌がるわよ。”先輩”として忠告するわ。まぁ、航貴が優しいからって勘違いしないことね」
せ、先輩の忠告……? 一体、何を言っているんだ。この人、神田さんの関係者!? 痴情のもつれ!? なんと私も当事者入り……!?
わかった。流石に私でもわかったぞ。この綺麗なお姉さんは神田さんのことが好きなんだな。で、どこから見ていたのか神田さんと一緒にいる私を見かけて、居ても立ってもいられず私たちの後をつけたんだな。で、調子に乗るなと物申すためにコーヒーをかけて連れ出したと。ふむ。いい推理だ。冴えている。
……ん? 「あんた”も”セフレか~」って言いました? じゃあ、このお姉さんは神田さんの……そういうオトモダチってこと!?
「いえ、あの、私はセフレだなんてそのような関係では……」
まてまてまて。私は敵ではない。敵を見誤るな、と綺麗なお姉さんに弁解する。きっと、私に対してわざわざ牽制したくなるほど、神田さんとの仲に不安や寂しさがあるのだろう。それはきっと、私に対してアクションしてもしょうがないことで……。でも、神田さんに対してはやっぱり言えていないのだろう。さっき自分で『そういうしつこいの、航貴は嫌がるわよ』って言ってたもんね。我慢してるんだね。
と、コーヒーまみれになりながら、ついお姉さんに同情してしまう。
「あら、自分は違うって言いたいの? ……随分と、夢見がちなのね。自分だけは特別だって思わせるのが得意なのよ」
……わかる。
なんだ、お姉さんもわかっているんじゃないか。わかっていても離れられないのか。まるで沼だな……!
「いえ、そういう訳じゃありません。本当に、神田さんとは……」
「航貴は優しいけど、それはあんただけにじゃないから」
「いや、本当に……」
「ま、そんな姿じゃデートに戻れないわね。わざわざ着て来たのに、航貴に脱がせてもらえなくて残念ね?」
かっちーん!
「あ、あんなキス魔! 本当に! なんでもないんですってば!!」
だんだんイライラしてきたぁあ!
おかしい。なぜ、通行人A程度の私が、神田さんの”オトモダチ”に絡まれ、お気に入りの浴衣を汚されにゃならんのだ! お姉さんのそのお悩みは当人同士で勝手にやってくれ! あんな、あんなキス魔! 好き勝手どうぞご自由に!! うっかり沼に入水自殺しそうになってたわ! あー危なかった!
怒りの声が届いたのか、お姉さんは綺麗に整えられたパッチリお目目をこれでもかと見開き、私から目を離さない。
「──嘘よ」
「ですから、私と神田さんは何も…」
「嘘。航貴はキスなんてしない」
「はい?」
「しないわ。誰とも」
先ほどまでの勢いはなりを潜め、お姉さんはすっかり上の空だ。なんなら少し涙目だ。な、泣かせちゃった!?!?
涙にはめっぽう弱い私は、ぷんすかしていた心も吹き飛びお姉さんの前でアワアワと慌ててしまう。
「え、お姉さん泣かないで……」
「──何やってるの?」
「あ」
物語のヒーローは遅れてやってくるのが鉄板なのだ。
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